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【48】休暇の過ごし方 ~髪は女の命なり~

商人ギルドにて。


「あっはっはっはっ! アッセムはんから連絡があったから何やと思っとりましたが、そういう事やったんですか!」


職員に通された応接室で、ナナテラが愉快そうに笑っている。


商人ギルドの総括である彼女と机を囲っているのは、ヴィルム、メルディナ、クーナリアの三人だ。


どうやら鎧の件について話した所、ナナテラの笑いのツボを刺激してしまったらしい。


「ヴィルはともかく、クーナには気付いて欲しかったわね」


「鎧を買うの初めてだったから、よくわからなくて・・・ごめんね? メルちゃん」


「謝る事はないわよ。ただ、クーナは警戒心が緩い時があるから気をつけないとね」


その場にいなかったメルディナだったが、ヴィルムとクーナリアから聞いた話と彼らの性格から、大体の事情は把握出来たようだ。


「でもアッセムさん、生産ギルドの総括を降りるだなんて、一体何があったのかしら?」


「さぁな。アッセムが自分から話さなかった以上、俺達が首を突っ込む必要はないだろ」


アッセムを心配するメルディナに対し、ヴィルムの反応は淡々としている。


頭の後ろで両手を組み、ソファーに背中を預けて寛いでる様子だ。


「アッセムはんの事は置いといて、取り急ぎクーナリアはんの採寸を済ませてまいましょ。そないに時間はかからんし、結果はアッセムはんに伝えておきますさかい、余った時間でウチの品物でも見て行ったらどないですやろか」


「そうね。採寸だけしてもらってそのまま帰るのも気が引けるし・・・ヴィル、何か買って行きましょ」


「あぁ。少し覗いていくか。ナナテラ、終わったら声を掛けてくれ」


ナナテラに促された二人はソファーから立ち上がり、ギルド内に展開されている販売スペースへ向かっていった。


「ほな、ちゃちゃっと測ってしまいますよって、上着脱いでもらえますか~?」


「あ、はい。よろしくお願いします、ナナテラさん」


ナナテラの指示に従い、上着を脱いだクーナリアの胸がぷるんと揺れ動く。


同性のナナテラであっても目を奪われるような、見事な揺れ具合である。


しかし商人ギルドの総括であるナナテラは、それを話題に上げる事なく採寸を開始した。


胸が大きいという事は、個人によってコンプレックスにもなり得ると知っているからだ。


クーナリアの後ろから巻き尺を当てるナナテラの鼻孔を、仄かな柑橘系の香りがくすぐる。


その香りに釣られて視線を動かすと、ふわりと揺れるクーナリアの髪の毛が目に入った。


ショートボブに整えられた栗色の髪の毛は、サラサラとしていながらツヤツヤとした光沢がある。


「クーナリアはんの髪の毛はえらい綺麗ですなぁ。同じ女として羨ましいわ~。何かお手入れの秘訣でもあるんやったら教えてもらえまへんか?」


「あ、それはお師様が作ったお薬のおかげです。お風呂なんかの時にそのお薬を使って髪の毛を洗うと、とっても綺麗になるんですよ。メルちゃんも気に入ってて、毎日洗いっこしてるんです」


雑談の延長として答えたクーナリアだったが、ナナテラの方はそうではなかったらしい。


言われてみれば、メルディナの手入れが難しい長髪もしなやかに流れていた事を思い出す。


「ほぉ? そら凄いですなぁ・・・っと、測り終えましたわ。服を着ても大丈夫でっせ」


「あ、はい。ありがとうございました」


話ながらも採寸を続けていたナナテラの顔は、いつの間にか真剣な表情に変わっていた。


クーナリアが服を着るのを待って一緒に応接室を出たナナテラは、ヴィルムとメルディナがいる販売スペースに向かって歩き始める。


心なしか、いつもより早歩きなのは気のせいだろうか。


販売スペースはかなりの広さがあるが、特徴的な黒髪を持つヴィルムのおかげで、彼らを探し出すのに大した時間はかからなかった。


「ヴィルムはん、メルディナはん、お待たせしました。クーナリアはんの採寸、完了ですわ」


「思ったより早かったな。まだ何を買うかも決まってないぞ?」


「ありがとうございます、ナナテラさん」


どうやら二人は野営用の道具類を見ていたらしく、ナナテラに気付くと同時に手に取っていた飯盒(はんごう)らしき物を棚へと戻す。


「今日の採寸結果はこっちからアッセムはんに伝えときますわ。このまま買い物を楽しんで下さい・・・と言いたい所なんですが、実はヴィルムはんに折り入って頼みがありましてん」


「ん、俺にか?」


「えぇ。さっきクーナリアはんから聞いた話なんやけど、何でも髪の毛を洗う為の薬を持ってるとか。良かったら、現物を見せてもらえませんやろか」


(あの薬か。まぁ、特に珍しい素材を使ってる訳でもないし大丈夫だな)


魔霧の森でしか採れない素材を使っていれば絶対に教える事はなかっただろうが、薬の作成に必要な素材が比較的安価で出回っている事を知ったヴィルムは、その存在を教えても問題ないと判断した。


僅かな時間で思考をまとめ、ナナテラの方に視線を戻す。


「いいぜ。薬自体は宿に置いてるからちょっと待ってくれ。すぐに作る」


「え、ここで作れるんでっか!?」


クーナリアの髪の状態をから、何かしら特殊な素材を使っていると予想していたナナテラは、ヴィルムがこの場で作ると言い出した事に驚きを隠せない。


「これと、これと・・・メルディナ、さっきの樹液を買ってきてくれ」


「あ、ヴィルムはん。ウチが頼んで作ってもらっとるんやさかい代金はいりませんわ。あまり高いもんでもなければ、自由に使ったって下さい」


「そうか? なら、完成品はナナテラにやるよ。欲しいんだろ?」


「うぐっ!? それは、その・・・はい」


自分の欲しい物を相手に悟られてしまうのは商人として失格ではあるが、クーナリアやメルディナの綺麗な髪の毛にはその失態を晒してでも知りたくなる魅力があった。


ほどなくして出来上がった薬の入った小瓶を受け取ったナナテラは、ヴィルムに謝意を述べた後、角度を変えつつ物珍しそうにそれを眺めている。


「ほぉ~、これがその薬でっか? 使った素材からは想像出来ん不思議な色合いをしてますなぁ」


「目や傷口に入ると染みるから気をつけろよ?」


「し、染みるんでっか? ・・・この薬、今すぐ試してみたいんやけど、少しメルディナはんとクーナリアはんをお借りしてもえぇですか? お二人さんに使い方を教えて貰いたいんですわ」


染みるという単語に不安を覚えたのか、眉間に皺を寄せるナナテラだったが、経験者の二人に薬の使い方を教えてもらえばいいとの答えに至ったらしい。


その要望に反対する理由のないヴィルムは「二人がいいなら」と返し、メルディナとクーナリアもそれを快く承諾した。


「おおきに! 商人ギルド自慢の大浴場がありますねん。男湯もありますさかい、ヴィルムはんも是非入ってったって下さい」

たまにはお色気回があってもいいじゃない。

という事で、その前振り回となります。

毎回毎回それらしい理由を考えるのが難しい・・・。

次回はお風呂回となりますので紳士の方々は身を律してお待ち下さい(笑)


お時間がありましたら、感想や評価を頂けますと幸いです。

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