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【47】休暇の過ごし方 ~鎧を作るには~

雲ひとつない青空が広がっている。


ファーレンの街はいつも通りの賑わいを見せ、大通りは冒険者の街という名に相応しい活気を放っていた。


その中には、大衆の目を無意識に引き付ける黒髪を持つヴィルムと、すれ違う男性陣が目を奪われる爆乳を持つクーナリアの姿が見える。


人混みで進みづらいはずの道を全く苦にする様子も見せず、自然体で話ながら歩いている二人は、周囲の人々と比べると少し浮いているのかもしれない。


「案の定と言うか・・・やっぱりクーナリアの身体に合う鎧は新しく作ってもらうしかなさそうだな」


「うぅ・・・何で身長が伸びてくれないですか。何で胸ばかり大きくなるですかぁ」


「種族的な特徴なんじゃないか? 胸はともかく、身長が低いのは戦闘に置いて利点にもなるんだ。ましてやクーナリアは身体強化で膂力(りょりょく)も申し分ないし、相手にとっちゃ戦いづらいだろうよ」


「お師様、そういう問題じゃないです・・・」


クーナリアの成長(主に胸)が落ち着いてきた事もあり、戦闘用に鎧を購入しようと防具屋を見て回った二人だったが、その特徴的な身体のサイズに合う鎧は見当たらず、どうせ特注するならとアッセムのいる生産ギルドに向かっている所である。


なお、メルディナはミゼリオの息抜きも兼ねて、採取系の依頼を受けてファーレン近郊にある森に行っている。


身長が伸びない事に落ち込むクーナリアを見当外れの方向で慰めるヴィルムだったが、そうこうしている内に目的地(生産ギルド)の看板が見えてきた。


クーナリアが、ギルドの扉に手を掛けようとした瞬間━━━


「こんのぉ、バッカヤロオォォォッ! 」


「うひゃうっ!?」


━━━風圧を錯覚させる程の怒声が、ギルドの周囲に響き渡る。


ヴィルム以外の、街中であるという安心感から気の緩んでいたクーナリアを始め、ギルドの周囲にいた人々は反射的に身体を強張らせた。


先程までとは正反対の静寂が場を支配するが、すぐさま床を踏みつけるような足音が聞こえ、ギルドの扉が乱暴に開かれる。


「ワシは今日限りで総括を降りるからな! 後はテメェらで好き勝手しやがれっ!」


これが最後だと言わんばかりに声を張り上げながら出てきたのは、ヴィルム達が訪ねようとしていたアッセムその人だ。


進行方向を防ぐ形で立っていたヴィルム達に、苛立ちを隠そうともしない視線を向けたアッセムだったが、その表情はトゲが抜け落ちたモノに変わる。


「おぉ、ヴィルム殿とクーナリアの嬢ちゃんではないか。みっともない所を見せちまったなぁ」


「久しぶりだな、アッセム」


「お久しぶりです、アッセムさん。あの、アッセムさんに用事があって来たんですけど、また今度にした方がいいですか?」


「いやいや、嬢ちゃんが気にする事じゃねぇよ。こんな場所で聞くのもなんだ。その話はワシの店で聞くとしよう」


ばつが悪そうに頭を掻くアッセムに促されるように、その場を離れるヴィルム達。


開け放たれた扉の中には、ギルドの職員らしき者達が茫然としている姿が見えた。






* * * * * * * * * * * * * * *






以前に訪れた時と変わりない裏路地を通り、地下にあるアッセムの店に到着する。


店内は相変わらず、表通りに立ち並ぶ店とは一線を画す武具の数々が並んでおり、強い存在感を放っていた。


「普段来る客には茶なんぞ出さんからワシの好きな渋茶しかないが・・・良かったら飲んでくれ」


「ずずっ・・・ん、確かに渋みは強いが不思議と落ち着く味だな」


「ずっ・・・ぅぐっ」


アッセムから出された熱めのお茶を、ヴィルムはゆっくり味わうように飲み、クーナリアは少しずつ口に含んでは顔を(しか)めている。


「がっはっはっはっ! やはり嬢ちゃんの口には合わんかったか!」


「うぅ・・・せっかくお茶を出してもらったのに、すみませんです」


「なんだ、クーナリアは渋いのが苦手なのか? ほら、よこせ」


「えっ・・・?」


出されたお茶を残す事に申し訳なさそうな顔をするクーナリアだったが、横からすっと伸びた手に目を奪われてしまう。


「ずずっ・・・」


「あ・・・」


「ん、飲みたかったのか?」


その先には今まで自分(クーナリア)が使っていた湯飲みに、遠慮や動揺の欠片もなく口をつけて茶を(すす)っている師匠(ヴィルム)の姿。


間接的な接吻となる状況に顔を赤らめるクーナリアだったが、その反応を見た上で見当違いな回答を投げ掛けるヴィルムに、何も言えず首を振って答える。


「・・・嬢ちゃんも大変だな」


そう呟いたのは、呆れた様子のアッセムだった。











「それで? 大方の予想はついとるが、ワシに用事とはなんだ? 」


クーナリアが落ち着いてきた所で、アッセムの方から話を切り出してきた。


「あぁ、クーナリアの体型が安定してきたから鎧を買いたかったんだが、サイズの合うモノがなくてな。その鎧の製作をアッセムに頼みたいんだ」


「アッセムさん、お願いします!」


「やっぱりか。他ならぬヴィルム殿と嬢ちゃんの頼みだ。その依頼、引き受けよう・・・と言いたい所なんだが・・・」


ヴィルムの説明に合わせて頭を下げて頼み込むクーナリアだったが、アッセムの反応は芳しくない。


ただし、拒否すると言うよりは悩んでいると言った方がしっくりくるだろう。


「何か問題でもあるのか?」


「ダメ、なんでしょうか・・・?」


「いや、鎧を作るのは構わん。むしろ前に貰いすぎとる分、すぐにでも製作に取り掛かりたいわい。だがなぁ・・・」


どうやら断る気はないようではあるが、物事をはっきりと言うアッセムにしては珍しく言い淀んでいる。


疑問符を浮かべながら続きを待つ二人に痺れを切らしたのか、アッセムは両手で机を勢いよく叩くと同時に立ち上がった。


「えぇいっ! 嬢ちゃんの身体の寸法(すんぽう)がわからんのだ! 流石にワシが嬢ちゃんの身体に触れる訳にはいかんだろう!」


「そ、そういう事ですか」


豪快な性格のアッセムではあるが、年頃であるクーナリアを気遣う気持ちが伺える。


確かに知り合いとは言え、異性に身体を触られる事を是とする女性は滅多にいないだろう。


「・・・そうなのか」


遠くない過去に、クーナリアの髪の毛から爪先まで徹底的に丸洗いした男は隣にいるのだが。


「ナナテラに話を通しておくから、そっちの方で測ってもらってくれ。寸法がわかり次第、すぐに取り掛かるわい」


後日、再び訪問する旨を伝えてから店を後にしたヴィルムとクーナリアは、ナナテラの店に向かう前に、そろそろ戻ってくる予定のメルディナを迎えるべく〈飛竜のとまり木〉へと戻るのであった。

今週から仕事が佳境を迎えます。

しかし年末までは更新頑張りたいという気持ちも強いです。

す、睡眠時間を削るしかないのか・・・?


日常的な話スタートしました。

数話分はゆったりした話が書きたいですね。


お時間がありましたら、感想や評価を頂けますと幸いです。

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