【46】ギルドへの報告
ヒュマニオン王国が大々的に公表した忌み子についての新事実は、世界中の人々、特に人間族に激震をもたらした。
その発表を信じる者、一笑に付す者、困惑する者、他にも様々な反応を見せた人間族だったが、これまでの常識が覆されるのだから、当然の反応と言えるだろう。
更にはヒュマニオン王国を筆頭に、いくつかの国で少なくない数の学者達が、忌み子についての研究を始めたという噂も出回っていた。
現状では対策のない“消滅”を防ぎ、忌み子として産まれてきた赤子を救う手立てが見つかる日も・・・来るのかもしれない。
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ファーレンの街、冒険者ギルドにて。
普段であれば冒険者達が依頼へと赴き、閑散としているはずの昼時なのだが、その日は騒がしいともとれる賑わいを見せていた。
どうやら、待ち合い室に数あるテーブルのひとつに人が集中しているらしく、ギルド職員達も困ったような表情を浮かべている。
「ヴィルムさん、今度、僕達のパーティと依頼にいかないか? 面白そうな依頼を見つけたんだ」
「俺達と行こうぜ! かなり報酬に期待出来る依頼があるんだ」
「一回でいいからハイシェラちゃんに乗せてくれない? ダメ?」
「メルディナさん、私に水魔法を教えて下さい!」
「あ、それは俺も教えて貰いたいぞ!」
「クーナリアちゃん、今度デートしようよ。この前、料理が美味しい店を見つけたんだ」
「いやいや、是非俺と!」
高い実力がある事は以前から知られていたヴィルム達だったが、Aランク昇格と同時にヒュマニオン王国と友誼を結んだ事でその注目度は一気に跳ね上がった。
今まではカバッカ達への対応や山賊達への容赦のなさから一歩引いて様子を見ていた冒険者達も、一国との繋がりを持つヴィルム達は魅力的らしく、必死になって関係を築こうとしているという訳だ。
「・・・メルディナ、こういった場合はどうすればいいんだ? 教えてくれよ。先輩だろ?」
「わ、わからないわよ! 私だってこんな状況初めてなんだから」
頬杖をついて聞き流していたヴィルムは冒険者達への対処法を求めるが、メルディナにも思い浮かぶ方法はないらしく、困った表情を浮かべて首を振っている。
王国に行く前のヴィルムであれば、殺気のひとつでも叩き付けて強制的に黙らせるのだろうが、現在の彼は外界について学んでいる最中である。
冒険者達の騒ぎ様に辟易としながらも、感情のまま行動に移す事はなかった。
なお、クーナリアはデートを申し込んできた軽薄そうな男達に、律儀にも頭を下げて断っているようだ。
「はいはい、そこまで。ヴィルムくん達が困ってるよ」
手を叩きながら姿を見せたのは、ギルドマスターであるシャザールだった。
「冒険者ギルドでは他者への過度な勧誘は控えるように規則で決まっているはずだよ。これ以上騒ぐのなら、規則違反として何らかの処罰も考慮しなければならないかな?」
「や、やだなぁギルドマスター。ちょ、ちょっとヴィルムさん達に話を聞いてただけですよ~」
「そ、そうそう! じゃあヴィルムさん、今度またお話を聞かせて下さい!」
騒いでいた者達は、処罰を受けてまで続ける気は流石にないらしく、蜘蛛の子を散らすように解散していった。
その様子を目で追っていたヴィルム達だったが、最後の一人がギルドから出た所で、三人揃って溜め息を吐く。
「ひ、人に囲まれるのがここまで疲れるとは思わなかったわ。ある意味、新しい発見だったわね・・・」
「一人が声を掛けてきたと思ったら一瞬であの状況だったもんね。何事かと思ったです」
解放された安堵感からか、メルディナとクーナリアは机に頬をつけて脱力しているようだ。
「件の報告の為に来て貰っていたのに待たせてしまってすまなかったね。提出された報告書と資料に目を通してたんだけど、つい集中し過ぎちゃってね」
「ギルド職員が呼びに行っても出てこなかったのはそういう事か。おかげでこっちは余計な疲労が溜まったよ」
「本当に悪かったよ。お詫びと言うのもなんだけど、美味しいお茶とお菓子を用意しよう。セリカくん、僕の部屋に準備してもらえるかな?」
「わかりました。すぐにお持ちしますね」
ヴィルムの皮肉に、若干困ったような笑顔を見せるシャザールだったが、すぐにいつもの調子を取り戻す。
突然の指示ではあるが、シャザールの度重なる無茶振りに慣れてしまっているセリカは、特に焦る様子も見せずにカウンターの奥に引っ込んでいった。
「それじゃあ、僕の部屋で詳しい話を聞かせて貰おうかな」
以前に訪れた時と全く変わらないギルドマスターの部屋に通されたヴィルム達は、シャザールに促されて椅子に腰掛ける。
すでにテーブルの上には温かいお茶と高級そうなお菓子が用意されていた。
ヴィルム達が一息ついた所で、シャザールが口を開く。
「さて、まずはAランクへの昇格おめでとう。ゼルディア様直筆の通達がきた時は何事かと思ったよ。依頼の方は全く心配してなかったけど、王国の人達がヴィルムくんやヒノリ様を自国に引き込もうとする可能性は十分にあったからね」
「実際、そのつもりだったようだがな。勧誘を通り越して対等な友誼を結びたいと言い出すとは思わなかったよ」
「一国がその個人と対等であると認めるような物だからね。僕もその報せを聞いた時は信じきれなかったけど、ヒノリ様が姿を見せたのなら納得だね」
このやりとりを皮切りに、ヒュマニオン王国で起きた出来事を時系列に沿って話を進めていく。
護衛依頼の道中、宿場町で暴れ回っていたハイシェラを従えた事、国王ゼルディアとの謁見、そして、ベイルードによるクーデター。
一連の出来事を聞き終えたシャザールは、口元に手を当てて深く考え込んでいる様子だ。
「ギルドマスター、このユリウスという男に心当たりはないか?」
「残念ながら・・・偽名の可能性もあるけど、高ランクの冒険者にそんな名前は見た事がない。ヴィルムくんと互角にやりあえるような実力を持った新人の話も聞いてないし、冒険者という線は薄いと思うよ」
「そうか・・・。ヒュマニオン王国にもあいつの存在を知る者はいなかった。冒険者ギルドにも情報がない。あれだけの実力を持ちながらクーデターに手を貸していたとなると・・・他国の間者や表舞台に出る事が出来ない者の可能性が高いな」
冒険者ギルドであれば何らかの情報があるとみていたヴィルムは僅かな落胆を見せるが、すぐに思考を切り替えて考察し始めた。
家族の脅威となり得るユリウスの所在を特定し、その動向を掴んでおきたい気持ちが目に見えている。
「ギルドの方でも情報を集めてみるよ。とりあえず、久しぶりにファーレンに帰って来たんだ。しばらくはゆっくり身体を休めたらどうだい?」
「・・・あぁ、そうさせてもらうよ」
これ以上考えても進展がないと判断したヴィルムは、シャザールの提案に乗る事にしたようだ。
その後、Aランクの冒険者が受注出来る仕事の一覧や注意事項の説明をセリカから受け、この日は解散となった。
余談だが・・・。
冒険者ギルドを出たヴィルム達は、冒険者や商人を含めたファーレンに住む人々に先程以上の密度で囲まれてしまい、〈飛竜のとまり木〉に辿り着く頃には日が傾いていた事を記しておく。
最近、隔週更新が目立ってきてますね。
作者的には別作品の更新もしているので、週一更新の感覚なのですが・・・。
ようやくシャザールへ報告を済ませたので、次回から日常話に移行出来そうです。
ヴィルム達にはゆっくり休んでもらいたいですね。
お時間があれば、感想や評価を頂けますと幸いです。




