【45】帰路にて
国内外を騒がせたヒュマニオン王国の情報開示から十日程経ち、ようやく民衆が落ち着きを見せ始めた頃、王都を囲う城門の前には、少なくない人集りが出来ていた。
その集団の視線が集まる先には、ヴィルム達と会話をしているルメリア王女や騎士団長リーゼロッテの姿。
「姫さん、長い間世話になったな」
「いいえ、お世話になったのは私達の方よ。リーゼロッテ騎士団長や王国軍の兵士達に稽古をつけてもらった上に、今まで私達が知らなかった・・・いいえ、知ろうとしていなかった知識の提供。更には王国存亡の危機まで救ってもらった。ヴィルムさんには頭が上がらないわ」
伏せ目がちになったルメリアは、小声で「リスティの事も含めてね」と付け加える。
集まった民衆は、王国の危機を救った忌み子を一目見ようとする者が六割、王族であるルメリア王女や騎士団長のリーゼロッテ、人間を襲わない飛竜として有名になりつつあるハイシェラに関心を持つ者が四割、といった所だろうか。
クーデターを鎮圧した立役者とは言え、一国の王女に対する物ではないヴィルムの言葉遣いに顔を顰める者もいたが、それを気に止めないルメリアや咎める様子のないリーゼロッテ達を見て口を出す事はなかった。
「特に予定は決めていないが、とりあえず俺達はファーレンに戻る。何かあった時はハイシェラに頼むから、受け入れる準備だけはしておいてくれ」
「勿論よ。可愛いハイシェラを攻撃なんてしたら、私が許さないわ」
なお、ハイシェラの主人がルメリアだという誤解は、他ならぬ彼女自身の告白によりすでに解けている。
本当の主人はヴィルムであり、自分は友人に過ぎないと明言した事で、民衆や兵士達から若干の落胆は見られたものの、逆にハイシェラやヴィルム達の信頼は上がったと言っていいだろう。
『クルルルル』
「ハ、ハイシェラ~・・・」
まるで別れの挨拶をするかのように顔を擦り付けるハイシェラの姿を見たルメリアの表情が崩れそうになるが、公衆の面前で無様を晒す訳にはいかないと必死に涙を堪える。
「・・・こほん。ヴィルム殿、我が命までも助けて頂き感謝しております。二度と不覚をとらないよう鍛練を積みます故、次回訪問の際はまた稽古をつけて頂きたい」
「あぁ。今回は癖を取っ払うくらいしか出来なかったからな。教えた基礎を徹底的に反復して、それを主軸に自分に合った戦闘スタイルを組み立てていくといい。次に来た時はクーナリアにとっていい競争相手になってそうだな」
「はい! リーゼロッテさん、その時はよろしくお願いしますです!」
ルメリアの涙腺が限界に近いと察したリーゼロッテが然り気無く話し掛け、自身の要望を伝える事でヴィルムからの返答を引き出し、民衆の注意を引き付ける。
クーデター鎮圧後、リーゼロッテから弟子入りを懇願されたヴィルムだったが、彼女がヒュマニオン王国から離れられない事から責任がとれないとしてキッパリと断っていた。
それでも諦めきれなかったリーゼロッテだったが、基礎とその鍛練方法を教えてもらう事で落ち着く形となった。
「そろそろ出立する。メルディナ、クーナリア、行くぞ」
二人を促したヴィルムは、軽く跳躍するとハイシェラの背中に跳び乗る。
「はい! 皆さん、ありがとうございました!」
「わかったわ。ルメリア様、リーゼロッテさん、お世話になりました」
メルディナの手を引いたクーナリアがヴィルムに続き、その後ろに陣取る形となった。
「じゃあな。近くに来た時は寄らせてもらうよ」
「えぇ、その時は歓迎するわ。また会いましょう」
『クルァァァァン!』
ヴィルム達が別れの言葉を交わすと、大きく咆哮したハイシェラは盛大に羽ばたき、空へと飛び立っていった。
この日を境に、ヒュマニオン王国周辺では不定期ながら巨大な飛竜の姿が見られるようになる。
ヒュマニオン王国はこの飛竜への手出しを一切禁じ、手を出した場合には極刑に値する処罰を法令として定めた。
その飛竜が現れた際は、必ず第三王女自身が迎えに出て、楽しげに戯れる姿があったという。
* * * * * * * * * * * * * * *
上空にて、ハイシェラの背中でくつろぐヴィルム達。
ヒュマニオン王国からも離れ、外敵もハイシェラを恐れてか近寄って来ない。
そんな中、ハイシェラが飛び立ったあたりから、落ち着きなくそわそわしていたメルディナが意を決したように話し掛けてきた。
「ねぇヴィル。ちょっと聞きたい事があるんだけど、いいかしら?」
「ん? 改まってどうしたんだ?」
「王国内だと誰の耳に入るかわからないから聞けなかったんだけど、ヒノリ様との融合? あれが何だか教えて欲しかったの」
「えっ? お師様とヒノリ様は融合出来るのですか? 私も見てみたいです!」
『そっかー。あの時クーナはいなかったもんね。かっこよかったんだよー? ヴィルムの髪の毛が赤くなって、ヒノリンみたいな翼で空をこう・・・ぴゅーって!』
好奇心旺盛なメルディナが降臨融合に興味を持つのは当然、むしろ今までよく我慢していたと言えるだろう。
クーナリアもメルディナの言葉に興味を持ったのか、目を輝かせて顔を覗かせている。
ミゼリオは若干興奮しているらしく、降臨融合時のヴィルムの様子を身振り手振りでクーナリアに伝えようとしていた。
「悪いなクーナリア。降臨融合はそう簡単に出来るモノじゃないんだ。自分の内側、魂の中に精霊を召喚する事でその能力や魔法、技術を得る融合術。強力な術だがリスクも高い。一時的にとは言え精霊の魂を自分に取り込むんだ。取り込まれる精霊への負担が極端に大きく、下手すればそのまま魂ごと吸収される事になりかねない。ヒノリ姉さん達みたいな精霊獣でも長時間の融合は危ない」
「う・・・それは我が儘言えないです。」
「そ、そんなに危険な術だったの・・・? でもそれだったら力を得ようとした召喚士達が無理矢理にでも融合しようとするはずよね。もしかして、他にも制限がある・・・?」
予想外の危険性を知らされたクーナリアは顔を伏せ、メルディナは片手を顎に当てて降臨融合について考察している。
「そりゃそうだ。自分から好んで取り込まれたがる精霊なんていないだろ? それに取り込んだ精霊の方が術者の身体を乗っ取る可能性もある。双方に絶対的な信頼がない限り、出来る術じゃないんだよ」
淡々と答えるヴィルムだったが、暗に自分とヒノリの信頼関係が絶対的な物であると仄めかしているあたり、彼の家族愛が窺える。
『あれ・・・? じゃあもしかして、ヴィルムってばヒノリン以外とも融合出来るの?』
「・・・さぁ、どうだかな」
ヴィルムとしては珍しく、言葉を濁して目を泳がせている。
その動揺がミゼリオの疑問の答えを物語っていたが、メルディナもクーナリアも口には出さなかった。
「とにかく、この話は内緒にしておいてくれ。ただでさえ精霊を捕らえようとする奴は多いんだ。力を求める馬鹿共が乱獲し始めるのは目に見えている」
「はい! 誰にも喋りません!」
『もちろんよ!』
「えぇ。例え拷問を受ける事になっても話さないわ」
ヴィルムの言葉を裏返せば、三人の事を信用しているから話した事になる。
クーナリアとミゼリオはその事に気付いていないようだが、メルディナは気付いたらしく、嬉しそうな笑みを浮かべながら頷いた。
『そう言えばさ、このままファーレンまで行っても大丈夫なの? また騒ぎになっちゃわない?』
「「あ・・・」」
三週間ぶりの更新になります。
基本的に書きやすい方から執筆を進めているので完全に不定期更新となってしまっていますね。
今回は降臨融合についての説明回みたいな感じになってしまいました。
ヴィルム達を早く精霊の里に帰してあげたいとは思っているのですが、自然な流れで目的に向かうようにするのは難しいですね。
お時間がありましたら、感想や評価を頂けますと幸いです。




