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【04】奴隷商団

連載開始記念第四話です。

魔霧の森へと続く道。


森へ入る前の小さな広場で馬車を引き連れた集団が夜営をしていた。


彼らの人相は悪く、魔霧の森へと向かっている事と、鉄製の手錠と足枷で拘束され、身動きがとれない状態で座らされている二人の少女の事を合わせて考慮すれば、真っ当な集団でないと考えられる。


「くっくっくっ、今回はツイてたな。まさかエルフ手に入るとは思わなかったよ」


二人の少女に目を向けた男は、商人風の格好してはいるが、その雰囲気は周囲の男達より凶悪そうに感じられる。


「へへへ、ダンナァ、今回はオレ達も頑張ったんですから、報酬の方も期待してますぜ?」


商人風の男へと酌をし、話しかけているのは彼の部下だろうか。


巨大なグレートアックスを背負い、ニヤニヤとごますりながら話しかけている。


商人風の男と違い、彼を含めた周囲の男達は装備に統一性がない事から傭兵である事が伺える。


「あぁ、今回は大幅に黒字だろう。お前らに渡す報酬も多くなるだろうよ」


「おぉ!流石ダンナだ!太っ腹だねぇ」


「まぁ、それも魔霧の森を無事に抜けれたらの話だがな。気を抜くんじゃないぞ?」


「心配いりやせんよ。いつものルートを通りゃいいだけの話ですぜ」


会話の内容から、この一団は何度か魔霧の森を抜けた経験があるようだ。


ヴィルム達の迎撃範囲を避けたルートを通っていたのだろう。


「まぁ、しかし・・・」


眼付きの悪い男はおもむろに立ち上がると、二人の少女の方へ近付いていく。


「お前の方はハズレだが、な!」


いきなり、少女の腹を蹴り上げる。


「あぐっ!・・・ぅぅ。ご、ごめんなさい、ごめんなさい」


何故蹴られたのかわからないが、少女は謝る事しかしない。


理由を聞いたら聞いたで、また蹴られる事がわかっているからだ。


「ちょっと!私が大人しくしてれば殴らないって言ったでしょ!」


金髪碧眼の見目麗しいエルフの少女が食って掛かるが、男はどこ吹く風だ。


「だから、殴らないで蹴ってるだろうが。今回はお前が高く売れそうだからな。こいつみたいな出来損ないは傷がつこうがどうでもいいんだよ」


そう言いながらもう一人の少女の頭から生えている角を掴み、無理矢理顔を上げさせる。


くすんでボサボサの髪は元の色がわからない程汚れており、手荒く扱われているからか、その肌には痛々しい青痣が目立つ。


「こんな凹凸のない身体で牛人族だぜ?普通の牛人族なら、この歳でも人間の巨乳くらいのデカさはあるんだ。乳の無い牛人族なんざ二束三文にすらならねぇんだよ」


そう言いながら、商人風の男は少女を乱暴に地面に投げ付ける。


「この・・・ッ!」


「お、いいのかい?お前が歯向かうなら、この子供(ガキ)は性処理に使ってもいいんだぜ?」


男の言葉に反応して、山賊達は下卑た視線を少女に向けて立ち上がろうとする。


「ぅ・・・くっ」


悔しそうに男を睨みつけたエルフは、投げ付けられた少女の側に寄ると申し訳なさそうに声をかける。


「・・・ごめんね。今の私じゃ、どうする事も出来ないわ」


投げられた少女はフラフラしながら起き上がると、何も言わず首を振って視線を落とす。


男達は薄汚れた少女に興味が薄かったのか、飲み食いを再開し、騒ぎ始めた。


彼らは知らない。


その様子を見ていた、一匹の蛇がいた事を。






* * * * * * * * * * * * * * * *






穏やかな空気が漂う精霊の里に、似つかわしくない戦闘音が鳴り響く。


里にある、あらゆる物を足場に飛び交っている、黒目黒髪の青年ヴィルムと、空中を自在に飛び回る、精霊獣のヒノリだ。


実践訓練中、といった所か。


当事者二人の他に、観戦目的であろう精霊達の姿もちらほら見受けられる。


空中で自由に動けるヒノリが戦いの主導権を握れる筈なのだが、現状優勢なのはヴィルムの方だ。


背の高い木々を足場に飛び上がり、ヒノリに接近するヴィルム。


接近させまいと羽を型どった無数の焔をヴィルムに向けて放つヒノリ。


空中にいるヴィルムは回避出来ない。


しかし、ヴィルムの表情(かお)には焦り一つなく、むしろ「待ってました」と言わんばかりの笑みを浮かべた。


ヴィルムの笑みを見たヒノリは『しまった』と思うがもう遅い。


ヴィルムは、ヒノリから放たれた焔の弾幕を足場にして、一気に彼女の元に駆け上がる。


本来であれば魔法に触れた時点でダメージを受ける筈だが、魔力を足に集中する事でダメージを軽減し、影響をなくしているようだ。


その場から離れようとするヒノリだったが、加速したヴィルムの方が速く、背後から組み付かれてしまう。


しばらくの間、振りほどこうと暴れていたヒノリだったが、諦めた表情をして降参の意を告げた。


それを聞いたヴィルムはヒノリの拘束を解くと、木々の枝を足場に軽快な音を響かせて地面に降り立つ。


遅れて、頬をぷくーっと膨らませたヒノリがゆっくりと降りてきた。


『うーっ、また負けちゃったよぉ。まさか〈ブレイズフェザー〉を足場にされるなんて・・・』


先程の羽を型どった炎の魔法の事らしい。


「ヒノリ姉さんは焦ると距離を取る癖があるからね。揺さぶれば、牽制に魔法を使ってくると思ったよ」


『うーん、わかってはいるんだけど、咄嗟に出しちゃうんだよねぇ。うぅ、最近負け越してるし、お姉ちゃんとしての威厳が・・・』


ヴィルムは、落ち込んで俯くヒノリの頭を優しく撫でる。


「ヒノリ姉さんはヒノリ姉さんだよ。それに、俺がヒノリ姉さんより弱かったら、ヒノリ姉さんを守れないじゃないか。今まで俺が守ってもらってたんだ。今度は俺が守る番だよ」


ヒノリは、ヴィルムの言葉にただでさえ朱い肌を真っ赤に染め、『あぅあぅ』と慌てつつも恥ずかしがりながら、最後には俯いて撫でられるままになる。


『おぅおぅ、見事ならぶらぶっぷりじゃのぉ』


そんな甘い空気を茶化す様に現れたのは、背の高い褐色美人。


クリーム色の金髪は丁寧に束ね上げられ、両手足や胸、股間部等は鱗で覆われている。


ニヤニヤと笑いながら、ゆっくりとヴィルム達に近付いて来た。


「おかえり、ディア(ねぇ)。言葉にしなきゃ伝わらないって教えてくれたのはディア姉だった筈だけど?」


『かっかっかっ!そうじゃったのぉ。あまりにヒノリと仲良くやってたから嫉妬したんじゃ。許せ、ヴィル(ぼう)


特に悪びれた様子もなく笑いながら謝る褐色美人。


彼女の名前はラディア。


ヴィルムの家族(あね)の一人である。


『・・・はっ!いつの間にかディア姉がいる!?』


正気に戻ったヒノリがようやくラディアの存在に気付くが、先程の余韻が残っているのか、彼女の頬はまだ赤い。


『ヒノリ、お楽しみの所を邪魔して悪いが、少々ヴィル坊を借りていくぞ』


『ん?別に構わないけど、森で何かあったの?』


『うむ。たまにこそこそと森の中を通り抜けとる傭兵共じゃな。今までは儂らの危害に結び付く様な行動を取らぬから見逃しておったが、今回は精霊(どうぞく)と契約したエルフが捕まっておる』


「なるほど。森を抜ける際にその精霊が里の存在に気付けば、必然的に契約者(エルフ)にも知られる。厄介だな」


『森の手前で休息を取っておった様じゃが、いつ森に侵入するかわからん。今の内に襲撃する準備はしておいた方が良いじゃろう・・・と言う訳でヴィル坊、あっちに着いたら喚ぶがよいぞ。今回は儂が見つけたんじゃからな。ちゃんと儂を喚ぶんじゃぞ?』


「何そのルール・・・と言うか、一緒にいけばいいんじゃ・・・」


『召喚されんとヴィル坊の魔力(ぬくもり)が貰えんじゃろうが』


『ディア姉本それ!ヴィルム、貴方の魔力(あいじょう)の有る無しで私達のテンションが段違いなのよ!』


やれやれと『そんな事もわかっておらんのか』といった表情で発したラディアの言葉に、ヒノリのヴィルム愛満載の追撃が入る。


「あー、一緒に行けば行きも帰りも二人っきりのデートになるけど?」


『『なん・・・だと(じゃと)!?』』


ヴィルムの言葉に、姉二人の背後に雷鳴が轟く(気がした)。


『くっ!まさかその様な利点があったなんて!確かにそれならやる気も・・・。いや待ってだけど直接魔力が供給されるあの感覚も捨て難い!』


『ヴィル坊、やはり天才じゃの。その様な素晴らしい発想が瞬時に出るとは・・・。我が弟ながら恐ろしい男よ』


新たな選択肢の登場に、ヒノリは戦慄した表情を浮かべ、ラディアは片手で顎を拭う様な動作をしている。


大丈夫なのかこの姉妹。


そんな反応をする二人の姉を見ているヴィルムの表情からは「やっぱりな」といった感じが伝わってくる。


「冗談はこれくらいにして、とりあえず連中の様子が伺える範囲まで行ってくるよ。後で喚ぶから、ディア姉はそれまで身体を休めといて」


『・・・うむ。了解じゃ』


一瞬、考え込む様な間があったが、ヴィルムの提案に頷くラディア。


「ヒノリ姉さんには、母さん(サティア様)への報告をお願いするよ」


『はいはーい。お姉ちゃんにお任せあれ。ディア姉、今回はヴィルムをよろしくね』


『応。ヴィル坊には傷一つ付けさせんよ』


姉弟達は互いに声を掛け合い、別れる。


傭兵達の元に向かうヴィルムは、先程までの柔らかな表情(モノ)から一転、冷酷さを感じさせる表情を浮かべていた。

ディア姉は褐色スレンダーです。

胸は控えめです!貧乳です!ステータスです!


『よし貴様、ちょっとあっちで話そうかの?』

(グワシッ←頭を鷲掴みされる音)


あ?ちょっと、ラディアさん?待っ━━━ァッ―!!

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