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【39】ヒュマニオン王国の危機②

リーゼロッテ達と別れたヴィルムとクーナリアは、メルディナの部屋へと向かっていた。


メルディナの安否を気遣い、急ぎながらも周囲の警戒を怠らないヴィルムは城内の様子がおかしい事に気が付く。


(妙だな。あれだけの爆発音がしたのにも関わらず、対応に動いている様子がない。いや、それどころか人の気配そのものが感じられない・・・?)


先程、爆発音を聞いた場所から走って移動しているヴィルムとクーナリアだったが、どういう訳か、誰一人として姿が見えない。


尤も、クーナリアの方はメルディナの事が気になりすぎてしょうがないらしく、人の姿が見えない事に疑問を持つ余裕もないようだ。


クーナリアとメルディナに与えられた客間の一室に辿り着いたヴィルムは、間髪入れずにその扉を蹴り開ける。


雪崩れ込むようにして部屋に入った二人が目にしたのは、棺の形をした黒色の水晶の様な物体に、今にも呑み込まれそうなメルディナと、それを必死に助け出そうとしているミゼリオの姿。


「━━━ッ」


「メルちゃん!? 大丈━━━」


『クーナ! 触っちゃダメ!』


反射的にメルディナを助けようと近寄ったメルディナを一喝したのは、黒水晶に両手を向けて苦し気な表情を浮かべているミゼリオだった。


ビクリと身体を強張らせて動きを止めるクーナリア。


「ミゼリオ、どうすればいい?」


『この黒いのに、魔力を流し込めば・・・っ! 侵食の速度が落ちるの! だから━━━』


「わかった。少し休んでろ」


落ち着いているようで少し足早に近付いたヴィルムは、ミゼリオの説明を最後まで聞く事なく黒水晶の前に右手をかざした。


ヴィルムの膨大とも言える魔力が、黒水晶に勢いよく流れ込む。


〝ミシッ・・・ミシッ・・・〟


軋む様な音を立てながら、黒水晶に大きな亀裂が入っていくが、割れるまでには至っていないようだ。


(なるほど。ミゼリオの見解は正しかったみたいだな。だが思った以上に強度が高い。もっと、一気に!)


「ふっ!」


〝パッキャァァァン〟


気合いと共に流し込む魔力量を一気に増やした瞬間、弾け飛ぶように砕け散る黒水晶。


支えを失って床へ倒れ込むメルディナを、クーナリアが慌てて抱き止める。


「わっ!? ととと! メルちゃん、大丈夫?」


「えぇ、大丈夫よ。あの黒水晶の侵食を遅らせるのに魔力はほとんど使い切っちゃったけどね。クーナ、ヴィル、助けてくれてありがとう・・・ミオも、ね」


『・・・! うん!』


メルディナが言った感謝の言葉に安心したのか、顔を綻ばせるクーナリアとミゼリオ。


特にミゼリオの方は満面の笑みを浮かべている。


「メルディナとミゼリオに消費した分の魔力を渡す。クーナリア、周囲の警戒を頼む」


「はいです!」


ゆっくりとメルディナをベッドに寝かせて部屋の扉前に陣取るクーナリア。


ヴィルムはベッドに腰掛け、右手をメルディナの額に置き、左手にはミゼリオを乗せて二人に合わせた魔力を緩やかに送り始めた。


「メルディナ、ミゼリオ、そのままでいい。何があったのか、わかる範囲で話してくれ」


どうやらメルディナとミゼリオに身体的なダメージはないらしく、安心したヴィルムは二人から話を聞く事にしたようだ。


「正直、よくわからないのよね。ハイシェラの所に行く準備をしてたら上から何かが爆発する音がして、慌てて見に行こうとしたらあの黒水晶に足を捕られてたの。それがどんどん上がってきて、身体も固まっていくから壊そうと思って魔法も使ったんだけど、効果がなくて・・・」


『ただ、魔法を使った時に黒水晶の動きがゆっくりになったから、もしかしてと思って魔力を流し込んでたの。ギリギリ間に合って良かったわ。ワタシの魔力も尽きる寸前だったし・・・』


メルディナもミゼリオも術者の姿は見ていないらしく、騒ぎの首謀者についての情報は入らなかった。


(こうなるとリーゼロッテを行かせたのは不味かったか。確か、王の間って言ってたな)


思考を巡らしながらもメルディナとミゼリオへの魔力供給を終えたヴィルムは、似たような格好で伸びをする二人に改めて話し掛ける。


「メルディナ、ミゼリオ。ハイシェラの所に行ってくれ。あれだけ強力な封印術ならハイシェラのいる場所まで効果が届くとは思えない。王国の周囲を旋回して、怪しい人物がいないか探すんだ。万が一、ハイシェラが黒水晶に捕らわれていたら、王国から出来るだけ離れてろ。そこまでの相手なら、メルディナ達が逆に危険だ」


「わかったわ」


『まっかせっなさーっい!』


二人の返事に頷いたヴィルムは、続いてクーナリアの方へと向き直る。


「クーナリアは俺と行くぞ。敵は複数の可能性が高い上に、ゼルディアやルメリア達が捕らわれている可能性もある。手伝ってくれ」


「はいです! お師様の背中は私が守るです!」


両手を握り締め、大きな胸の前で小さなガッツポーズをして気合いを入れるクーナリア。


再び二手に別れたヴィルム達は、それぞれの目的地に向かって走り始めた。











* * * * * * * * * * * * * * *











時は少し遡り、ヴィルム達がメルディナの部屋に到着した頃、王の間へと辿り着いたリーゼロッテ達は、その扉を勢いよく開けて部屋の中へ突入した。


彼女の視界に飛び込んできたのは、メルディナの時と同じ、棺の形をした黒い水晶体に閉じ込められたゼルディア王の姿だった。


「陛下! 御無事で━━━ッ!?」


真っ先にゼルディアの元に向かおうとしたリーゼロッテだったが、その周囲にいくつもある黒水晶の中を見て絶句する。


王妃や第一王子であるロイド、バゼラードを始めとした忠義に厚い重臣達・・・そして、ルメリア。


すでに他国へ嫁いでいる第一、第ニ王女以外の王族や重臣達が囚われていた。


囚われた者達は、一様に生気がなく、瞳からは光が失われ、力なく項垂れている。


リーゼロッテが叫ぶように呼び掛ける声にも、全く反応を示さない。


“気をつけろ”


不意に、その言葉がリーゼロッテの頭を(よぎ)る。


理屈ではなく、勘ですらない。


ただ漠然とした何かだったとしか言い様のないモノがリーゼロッテの身体を駆け巡り、本能的にそれに従い、全力で床に転がるように飛びすさった。


同時に、彼女が今までいた場所に雷の矢が突き刺さる。


後数瞬遅ければ、リーゼロッテの身体は雷の矢(あれ)に貫かれていただろう。


「おや、避けましたか。流石は騎士団長、と言った所ですね」


リーゼロッテが雷の矢が飛来した方向に目を向けると、片手を突き出す様に構えたベイルードが感心したような表情を浮かべていた。


「ベイルード、様? いきなり何を・・・」


「やれやれ。貴女はこの状況がわからない程、頭が悪いのですか? 身体だけではなく、もっと頭の方も鍛えるべきですね」


突然の事態に状況が飲み込めずに動揺するリーゼロッテを見たベイルードは、先程の表情から一転、呆れた様子で皮肉を口にしながら肩を竦める。


「見ての通り、この国の王族や重臣達は全て捕らえました。ついでに城内にいる人間もね。残っているのは貴女と、あの忌み子達だけ。予定ではここに誘き寄せた後、貴女と一緒に始末してしまおうと思っていたのですが、中々上手くいかないものですね」


「貴方は! いや、貴様は自分が何をしているのか、わかっているのか!?」


溜め息を吐くベイルードに対して声を荒らげるリーゼロッテの怒りは大きかった。


自国を裏切る行為、王族や重臣達に対する不敬、そして自分だけでなく、部下達とも友好を築きつつあるヴィルム達を害すると言われてしまっては当然の事だろう。


一般人であれば身を竦ませてしまう程に声を張り上げて非難するリーゼロッテだったが、ベイルードは何がおかしかったのか、くつくつと笑い始めた。


「勿論、わかっていますよ。ですが、人間として欠陥品である忌み子の言う戯れ言を信じ、友誼を結ぶなどという愚行を犯す国は滅びるのも時間の問題でしょう? それが少し早まっただけではありませんか。それに━━━」


喜びを抑えられないといった具合で、震える自分の身体を抱き締めながら気持ちの悪い笑みを浮かべるベイルード。


彼は大袈裟に演説するように、勢いよく両手を広げて叫び出す。


「美しく、強大な力を持つ精霊獣! あれは忌み子には勿体ない! あんな欠陥品が一緒にいていい存在ではない! 彼女はこの僕にこそ相応しい!」


心底嬉しそうに強弁するベイルードからは、精霊獣(ヒノリ)に対する異常なまでの執着心を感じる。


「馬鹿な! 貴様もあの日のやり取りは見ていたはずだろう! 精霊獣様はヴィルム殿だからこそ、契約するまでに至ったのだ! 何をしようが精霊獣様が貴様の力になる事などない!」


「クフフ・・・。果たして、本当にそうでしょうかね?」


「何ッ!?」


ヴィルムと精霊獣(ヒノリ)の絆の深さを確信していたリーゼロッテがそれを理由にベイルードの企みを否定するが、当の本人からは微塵の不安も感じていないような言葉が返ってきた。


「僕が何の策もなくこんな事をするとでも? 十分な勝機と自信があるからこそ、決行する事にしたんですよ。遅くとも、今日の夜にはあの精霊獣は僕と契約し、従属している事でしょうね」


「そんな・・・」


少なくとも、リーゼロッテには人間が精霊獣に対抗する術が考え付かない。


ヴィルムと友誼を結ぶ決断をしたゼルディア王や重臣達もそうであろう。


しかし、王国の筆頭精霊魔術士であるベイルード(この男)には、自分が思いもしない精霊獣への対抗手段が、否、その口振りからすれば、圧倒出来る程の何かがあるのかもしれない。


(だとすれば、ヴィルム殿がここに来てしまう前に方を付けるしかない!)


すでに対峙している為、無謀に斬りかかるような事はしないが、盾を前面に、長剣を後ろに構えてベイルードを見据える。


「あの忌み子がここに来る前に僕を倒す・・・いい判断ですね。貴女が僕に勝てるかどうかは別として、ですが」


「少し遊んであげてもいいのですが、この策の都合上、僕が手傷を負ったり万が一にでも死ぬ可能性のある真似は出来ません。ユリウス、僕の代わりに相手をしてあげなさい」


「はっ」


リーゼロッテは自分とベイルード以外の人物がいた事に驚き、声のした方向に視線を移した。


そこにはどこから現れたのか、ローブに身を包み、フードを目深に被った男が立っていた。

毎度の事ながら更新速度が安定してなくて申し訳ありません。

感想の方でもちょくちょく激励の御言葉を頂いているのですが、仕事の都合上、どうしても執筆する時間が制限されてしまいます。

同時執筆中の“嫁が勇者に寝取られたので世界を滅ぼします”の方でも言っている事ですが、長い目で見て頂けるよう何卒よろしくお願い致します。


次回か次々回あたりから戦闘に突入する予定です。

久しぶりの戦闘描写になるので、執筆するのが楽しみです。

作者だけでなく、読者様方にも楽しんで頂けるように頑張りたいと思います。


お時間がありましたら、感想や評価を頂けますと幸いです。

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