【36】二人の本心
投稿が遅くなってしまい申し訳ありません。
早めのお盆休みを頂いて実家に帰っていたのですが、家事や甥の世話をしていて仕事時より執筆の時間がとれませんでした(汗)
━━━ヒュマニオン王国・城壁外━━━
城門から少し離れたその場所には、普段には見られない人だかりが出来ている。
その中心にいるのは、ハイシェラとルメリア、そしてメルディナ。
厳密に言うと外出の許可が必要なのはヴィルムだけなので、ルメリアの護衛兼ハイシェラの様子見という事でメルディナが付き添っている。
勿論、護衛はメルディナの他に複数名ついているが、ハイシェラが警戒するという理由から、見物客が必要以上に近付けないよう警備に回っている形だ。
近付けないとは言え、民衆にとって巨大な飛竜と王女、そしてエルフの組み合わせは興味の対象らしく、こうやって集まってきているという訳だ。
そんな中、ルメリアは相変わらずハイシェラを愛でる事に余念がない。
ハイシェラが自分で手入れが出来ない部分を中心にブラッシングをしてやっている。
世話係がついているとは言ってもハイシェラ自身が触る事を許さない為、実質はハイシェラに接触を試みようとする者に対する警備役といった方が正しいだろう。
『クルルルル・・・』
「フフ、本当にハイシェラは可愛いわね」
ブラッシングを受けているハイシェラは気持ちよさげに喉を鳴らし、ルメリアはその反応に目尻を下げて惚けながらも腕を動かしている。
明らかに王女がする事ではないのだが、ハイシェラがヴィルム達以外には身体を触らせようとしない事とルメリア自身が自分で世話をすると譲らない為、現在の状況になっていた。
「ルメリア様、ハイシェラの身体を流しますので、一旦離れて頂けますか?」
「えぇわかったわ。メルディナさん、お願いね」
メルディナの言葉でハイシェラから離れるルメリア。
警備の兵士達にもその旨を伝えて人の囲いを広げてもらい、十分な広さを確保した所でメルディナは魔力を集中し始める。
「(ミオ様、お願いします)」
『(おっけー。まっかせといて!)』
メルディナが姿を隠しているミゼリオに魔力を渡す事で、ほのかに輝く蒼い光の帯がハイシェラを包む。
次第に泡立っていく魔力の水は、ハイシェラにとって害になるものだけを洗い流していく。
動物や魔物は自分の匂いが消えるのを嫌って水浴びをしたがらない事が多いが、メルディナとミゼリオの魔法による洗浄は、匂いを落とさずサッパリするのでハイシェラも文句なしに受け入れている。
洗浄が終わると同時に、勢いよく身体を震わせて残った水滴を振り払うハイシェラ。
当然、十分な距離をとっているとは言え、多少の水飛沫は降りかかってしまうが、その事に腹を立てる者はいない。
ルメリアに至っては、キャーキャーと騒ぎながらもその表情には楽しげな笑みが浮かび、自ら水飛沫を浴びに向かっている。
ハイシェラが大人しくなった頃には、小さな虹が顔を覗かせていた。
* * * * * * * * * * * * * * *
ルメリアと別れたメルディナは、ヒュマニオン王国から少し離れた森へと足を運んでいた。
王国内では姿を隠し続けているミゼリオのストレス解消の為である。
『ん~っ! やっぱり森の空気って最高ね!』
「そうですね。やはりエルフとしての性は隠せないようです」
小さな身体を精一杯伸ばしながら解放感を味わうミゼリオ。
やはりストレスが溜まっていたらしく、いつも以上に落ち着きなく飛び回っている。
それはエルフであるメルディナも同じだったようで、体内の空気を全て入れ換えるかのように深呼吸を繰り返していた。
しかし、しばらくすると、メルディナの吐く息は徐々に溜め息に近いものに変化していく。
『メルってばどうしたの? こ~んなに気持ちがいい場所で溜め息なんか吐いちゃって』
「あ、いえ。最近、ちょっと迷っているんですよ。ヴィルはともかく、クーナはどんどん強くなってるのに私は何も変わってないなぁって。勿論、訓練はしてるんですけど、何と言うか、努力すべき方向が見えなくて・・・」
ミゼリオに心配されたメルディナは、特に隠す訳でもなく自分の悩みを吐露する。
躊躇いもなく自身の悩みを打ち明ける事が出来たのは、やはり二人が深く信頼し合っているからだろう。
『メルは冒険者としての心構えや知識を教えたりしてるけど、それじゃダメなの?』
「はい。ヴィルもクーナも、私が教えた事はどんどん吸収していってます。私が教える事がなくなるのも時間の問題ですから」
そう答えたメルディナの表情には、少し悲しげな雰囲気が浮かんでいた。
そんなメルディナの様子を見たミゼリオは、空中をふよふよ漂いながら頭を悩ませている。
『ん~、それならメルは二人が出来ない事をすればいいんじゃない? ワタシは冒険者の事ってよくわかんないけど、攻撃する人や防御する人、あと魔法使う人とかに別れてるよね? ヴィルムとクーナはどう見ても攻撃する人だから、メルは魔法で回復や補助をするとか。ワタシの魔力は水属性の魔法なら上乗せ出来るんだし』
「回復魔法に補助魔法、ですか」
『そ。今まではメルが攻撃に徹しないとどうにもならなかったけど、今はヴィルムやクーナがいるんだし、別の事にチャレンジしてみるのもありなんじゃない? 例え失敗してもよっぽどの事じゃなければヴィルムが何とかしてくれるし』
ミゼリオの提案を受けたメルディナは、片手を口に当てつつ視線を落として何かを思案している。
どうやらその提案は好奇心旺盛なメルディナの心を上手くくすぐったらしく、彼女の瞳には楽しげな感情が宿り、誰に向ける訳でもなく何度も頷いていた。
「ヴィルならともかく、クーナはまだ危なっかしいし、回復魔法や補助魔法は覚えて損はないですね。今まで覚えた魔法が使えなくなる訳じゃないですし、何より楽しそうです」
ふよふよ漂っていたミゼリオは、メルディナの様子に満足したのか、彼女の肩に腰掛けてにっこりと微笑む。
『元気になったみたいで良かったわ。ワタシとメルは友達なんだから、もっと頼ってよね』
「ありがとうございます。ミオ様には助けてもらってばかりで感謝するばかりですね。これからもミオ様の契約者として恥ずかしくな━━━」
『あーもー! メルってば堅い! 堅すぎるわ! もっと気軽に! 敬語なんていらないから、クーナと話す時みたいに話しなさいよ!』
「そ、そう言われましても、ミオ様と契約してからずっとこの話し方ですし、そう簡単には変えられません。それに精霊様に対して友達口調で話すなんて無理ですよ~」
エルフであるメルディナにとって、敬愛すべきミゼリオに対してタメ口で話せというのは無茶振り以外の何でもない。
例えミゼリオ本人からの願いであっても、はいそうですかと頷けるものではないのだ。
現に、ミゼリオのお願いと彼女に対する敬愛の念に板挟みにされたメルディナの目尻には涙が溜まり、すでに泣き出しそうな雰囲気である。
対してミゼリオはメルディナと気軽に接したかった。
とは言え、最近まではそこまで気にしていなかったのだが、きっかけはヴィルム達との出会い。
種族が違っていながらも本当の家族の様に接する彼らの生活を見てからというもの、ミゼリオの心には羨ましいという感情が芽生え始めた。
フーミルとのやり取りに乗っかって距離は縮まったものの、やはりメルディナとの間にはまだ壁があるように感じられる。
それが悪い意味から出来ている壁でない事はわかっているミゼリオだったが、納得出来ないのは彼女に残る幼さが原因だろう。
『あのね? ワタシはヴィルムも、クーナも、全員好き。でもね、もし全員が危険に晒された時、一番最初に助けるとしたらメル、絶対に貴女よ。だから、少しずつでいいから、ワタシと遠慮なく接して欲しいだけなの』
「━━━ッ!?」
メルディナは少なくないショックを受ける。
ミゼリオとの信頼関係はしっかり築き上げてきた自覚はあったが、まさかそこまで想って貰えていた事に。
「はい・・・はいッ!」
メルディナ自身もヴィルムと里の精霊達の関係を羨ましく思ってはいたが、ミゼリオに自分の想いを押し付ける様な気がして、あくまで精霊と契約者の関係だと心の中で線引きをしていた。
メルディナの目尻に溜まっていた困惑の涙。
その涙は、頬を伝う頃には喜びの雫へと変わっていた。
メルディナのバトルポジションが攻撃型後衛から支援型後衛に変わります。
勿論、今までの経験がなくなった訳ではないので攻撃魔法も使えますが。
ミゼリオの登場回が少ないので、二人の絡みを書いてて楽しかったです。
お時間があれば、評価や感想を書いて頂けると幸いです。