【35】王国の訓練場で
執筆が進むので眠気の限界までと思ってたら1時過ぎてました。
明日忙しいのにどうすんべ(汗)
(もう今日か)
※7/9 一対一だと七百人抜きは時間的に難しいとの御指摘がありましたので、複数人を相手する描写を付け加えました。
また、脱字の修正を行いました。
ゼルディア達との話し合いから六日。
ヴィルム達は城内での生活を余儀なくされていた。
どうやらゼルディアや重臣達が“忌み子“についての法案を急ピッチで改定する為に連日会議をしているらしく、今朝方会った時はげっそりと痩せ細り、目の下に大きな隈が出来ていた。
城下町に行くのは混乱を避ける為に、改定後も民に伝える時間も含めてもう少し待って欲しいとの事。
その間のヴィルム達の待遇だが、他国の王族をもてなすが如きレベルである。
ヴィルムは個室で、メルディナとクーナリアは二人で一部屋だが、三人それぞれに護衛兵二名と侍女がつく特別待遇っぷりである。
最初は断ろうとしたヴィルムだったが、外界の事を学ぶと決めた事を思い出して受け入れた。
流石に夜伽の申し出は断ったようだが。
外出が出来ないという制限はついているものの、三人は自由な生活を送れている。
その生活の中、三人、取り分けクーナリアが取り組んでいるのが━━━
「次の方、お願いしますです!」
「よっし! 今日こそクーナリアちゃんに一本入れてみせるぞ!」
ヒュマニオン王国の兵士達に混じっての実戦訓練である。
話し合いの翌日、城下町に出られないならとヴィルムが日課の訓練の為にどこか開けた場所を借りれないかをリーゼロッテに聞いた所、城内の訓練場へ案内してくれる事になった。
案内された訓練場はかなり広く、王国に所属する兵士達が体力作りの為の基礎訓練から激しい戦闘訓練までのカリキュラムを千人規模で行っていた。
その一角で始まるヴィルム対クーナリアの実戦訓練。
最初は騎士団長の命令に渋々応じ、忌み子に対して訝しげな視線を向けていた兵士達だが、二人の戦闘訓練に目を見開いて驚く事になった。
クーナリアの方は全力で立ち向かっているので、その気迫は相当な物だっただろう。
彼女の動きを視線で追う事すら出来ない者も少なくなかった。
そして、その動きを物ともせずに軽く避け、受け流し、時にはクーナリアを吹っ飛ばしながら指導するヴィルム。
あまりに規格外な戦闘に、訓練場内にいた兵士達は自分達の訓練も忘れ、唖然として魅入っていた。
リーゼロッテも感嘆の声をあげて驚いていた程である。
二人の戦闘訓練が終わり、切り上げる事をリーゼロッテに伝えた所、兵士達の為に少し相手をしてくれないかと頼まれたヴィルムとクーナリア。
毎日訓練場を使わせて貰う事を条件に、二人はこれを承諾。
兵士達の相手をする事になったのだが、クーナリアの体力が回復するまでと先に名乗り出たヴィルムがここで大失敗をする。
訓練場に来ていた兵士達を、息一つ乱さずに完封してしまったのだ。
騎士団長であるリーゼロッテも含めて。
次の日からヴィルムに向けられる視線は、ほとんどが畏怖、僅かに畏敬の念が込められたものとなり、手合わせを申し込む者はほとんどいなくなった。
その代わりに、比較的実力が近いクーナリアには手合わせの申し込みが殺到する事になる。
「ヴィルムさんにやられても、何でやられたかが全くわからない。クーナリアさんならそれが自覚出来る分、格上が相手の場合の対処法も学べる」
「ヴィルムさんに負けても悔しいって思えないんだよな。リーゼロッテ騎士団長ですら相手にならないんだぜ? クーナリアちゃんに負けたら悔しさで次の訓練にも気合いが入るってもんさ」
「ヴィルムさんみたいに戦場で無手な奴はいないから。クーナリアちゃんみたいに大斧を使う奴ならいるから。別にヴィルムさんが怖いとかじゃないから」
「クーナリアちゃん可愛いよな。それにあんなにゆったりした服装なのにめっちゃ揺れるんだぜ? あれを間近で見れるならぶっ飛ばされても本望━━━あれ? リーゼロッテ騎士団長、いつからそこにィィィイイアアアアアアアアアアアアッ!?」
と、挑む理由も様々だ。
なお、最後の兵士含める同じ様な目的を持つ者はリーゼロッテの命令により、クーナリアが訓練場を使う時間帯は城壁外をフルプレートアーマーを着込んだ状態で永遠と走り続けるという特別メニューが課される事になった。
サボる度に給料の十%減棒というオマケ付きで。
クーナリアの相手をしていた兵士が武器を弾かれ、その場に膝をつく。
「くっ、参った」
「ありがとうございました! 次の方、お願いしますです!」
「俺の番だ! 行くぞ、クーナリアちゃん!」
実力的には格下と言える相手との長期的な連戦。
この訓練はクーナリアにとって、思わぬ副産物を与える事になった。
勢いよく斬りかかっていった兵士が吹っ飛ばされる。
「ありがとうございました! 次の方、お願いしますです!」
「ど、どうなってんだ? 今日のクーナリアちゃん、全く疲れてる感じがしないぞ」
「くっ、次は俺が行くぜ!」
新たな挑戦者がクーナリアに向かっていくが、その動きに疲れは一切見られない。
この時、クーナリアは戦闘中であるにも関わらず、常に魔力の循環を意識する様にしていた。
訓練初日、ヴィルムが成した千人抜き(実際の数は多少なり前後するが、大体そのくらい)。
訓練二日目、師匠の様にと意気込みクーナリアを待っていたのは、百人と少しで息切れしてしまい、一本取られてしまうという現実。
訓練三日目、スタミナ切れに配慮しつつ戦うも、逆に一人一人の戦闘時間が長引いてしまい、百人にすら届かず。
訓練四日目、連日限界まで戦い続けた為スタミナが増えたのか、百五十人抜きを達成するも、クーナリア自身は納得せず。
その日、訓練終了時の日課である体内に魔力を循環させ、体力の回復を計っていた時の事。
(これ、体内魔力の循環・・・体力の回復? もしこれが戦闘中に出来たら・・・?)
思い付いた後は早かった。
リーゼロッテに声を掛け、兵士達の訓練が終わった後に訓練場の使用許可を貰い、身体を動かしながらの魔力循環を淡々と練習するクーナリア。
訓練五日目、まだ慣れない為か、昨日と同じく百五十人付近で一本を取られてしまう。
しかしクーナリアに息切れは見られず、彼女の瞳に不安や焦燥は見られなかった。
当然、クーナリアはこの日の夜も自主訓練に勤しむ。
なお、この日クーナリアの様子を見ていたヴィルムは、「へぇ・・・?」と感心した様子を見せていた。
そして訓練六日目、クーナリアの快進撃は留まる所を知らない。
途中からは余裕が出てきたのか、複数人を相手取りし始める。
次々に名乗りをあげる兵士達を片っ端から打ち負かしていった。
ヴィルムとの訓練では常に全力を出さなくてはならなかった為、“戦闘中に体内魔力を循環させて体力を回復しながら戦う”という余裕もなく、それを思い付く事もなかったのだろう。
その点から言えば、完全にヴィルムの予測を上回る結果だったと言える。
自力で課題を乗り越えた弟子の姿を見て、ヴィルムは僅かに口角をあげる。
「ヴィルム殿! 手合わせ中に余所見をするとは何事ですか!?」
ヴィルムが声のした方に視線を戻すと、長剣と大盾を構えたリーゼロッテが不満そうな目で睨んでいた。
「あぁ、悪かったな。別にそのまま掛かってきても良かったんだぞ?」
「不意を突くなど! 騎士道に反する事は出来ません!」
(個人の思考は様々、迷惑を被らない限り口出しするべからず、か)
凛とした表情で言いきるリーゼロッテを見て、ヒノリやメルディナに教わった事を思い出すヴィルム。
兵士達がヴィルムとの手合わせを避ける中、リーゼロッテだけは毎日の様に手合わせを申し込んでいた。
クーナリアと同じくらいの実力があるリーゼロッテは、同格の彼女とやり合うよりもヴィルムの指導を受けたかったらしい。
「行きます! はぁっ!」
「昨日と同じ事を言わせるな。踏み込んだ瞬間、ぶつかる衝撃に備えて身体が固まり過ぎている。避けられたら致命的な隙になるぞ」
「うぐっ!?」
ヴィルムに対してシールドバッシュを仕掛けたリーゼロッテだが、避けられた際に腹部へと打ち込まれた打撃に顔を顰める。
重厚な防具に頼った戦闘スタイルが身に染みてしまっているらしく、ヴィルムからの教えを自分の物にする事が難しいようだ。
「痛みに慣れないか? 戦闘時に痛がっている暇などないぞ」
「がはっ!?」
怯んだ隙に背中へ放たれた追撃をまともに受けたリーゼロッテは、苦しげに息を吐き出し、膝をつく。
「うっ・・・くっ!!」
「苦し紛れに中途半端な攻撃をするくらいなら体勢を整える事に集中しろ。体勢を整える為に攻撃するならいいが、その分相手に読まれやすい事も頭に入れておけ」
「かっはッ!?」
立ち上がりざまに放った斬撃は軽くいなされ、その勢いのままに投げ飛ばされたリーゼロッテは、背中から地面に叩き付けられ、一瞬呼吸が止まってしまう。
「ひゅぅぅぁ・・・げっほげほげほっ!げほっ!」
「今日はここまでだな。まずは防具に頼り過ぎる癖を取り除く。一日二日でどうにかなる物ではないが、常に意識する様に心掛けろ」
「げっほげほっ! ありがとう、ござい、ました!」
特にリーゼロッテに手を貸す訳でもなく、クーナリアの様子を見に向かうヴィルム。
すぐに数人の兵士が駆け寄り、リーゼロッテの手当てをし始めた。
「ヴィルムさん、容赦ねぇなぁ」
「でもクーナリアちゃん曰く、あれでも相当手加減してるって話だぜ?」
「マジかよ? そりゃ俺達全員歯が立たない訳だ。あ、団長、他に痛む所はないですか?」
「あぁ、大丈夫だ。ありがとう。しかし、ヴィルム殿の指導は実に的確だ。彼の言う通り、私の戦闘スタイルは防具に頼った物だが、それを突き詰めた事で格上との戦いに対応しきれていない。彼と手合わせをする様になってから、強くなる為の課題が明確に見えてくる。柄にもなく、わくわくしているよ」
「えっ、あれだけボコボコにされてわくわくするって、団長ドMだったんですカッテェェェエエエッ!?」
茶々を入れた兵士の頭に、リーゼロッテの鉄拳が炸裂する。
半泣きになりながら頭を抑える兵士を見て、周囲は明るい笑いに包まれる。
この数日間で、ヴィルムは国王や重臣達だけでなく、一般の兵士達も受け入れられ始めていた。
なお、クーナリアはこの日、七百人抜きを達成したと付け加えておく。
今回みたいに早い執筆は滅多に出来ません。
休日とか作者のテンションとか色々な要素が奇跡的に合致した結果なので、過度な期待はしないで下さい。
次回はメルディナとルメリアとハイシェラの話にしようと思っています。
長くなりそうなら二話に分けるかもしれません。
お時間があれば、評価や感想を書いて頂けると幸いです。