【31】それぞれの価値観
休日が土日で入れ替わったので頭フル回転で執筆しました。
今は煙吹いてます(笑)
「貴様! 宿場を襲った飛竜を治療した上に逃がすとは何事かー!!」
怒号と共にやってきたのは、リスティアーネだった。
宿場街にいた人々の避難を終え、囮となったメルディナとクーナリアを助けようと急いで来たようだ。
「飛竜は身体に矢が刺さっていたからイライラして暴れてただけだ。治療して大人しくなったんだから、逃がしてやってもいいだろう?」
「ふざけるな! 死人こそ出ていないが宿場街に被害が出ているのだぞ! そんな危険な魔物を許す訳にはいかん!」
『グルルルル・・・ッ!』
リスティアーネの殺気に反応し、再び威嚇をし始める飛竜。
そんな飛竜を撫でてやりながら宥めるヴィルムは、大きくため息を吐く。
「そんな危険な状態にしたのは、間違いなく人だぞ? 基本的に飛竜は自分達の群れが住む山から出る事はない。縄張りの獲物が枯渇するか、別の生物に追いやられるか、だ。飛竜の尻に刺さってたのは、間違いなく人が使う矢。誰がやったかはわからんが、人に襲われたのは明白だ。よって、飛竜がここに来て暴れていた原因は人にある」
「だからどうした! 自分達に危害を加える魔物を攻撃して何が悪い!」
「なら、逆に聞こうか。魔物達に危害を加えてきた人を、飛竜が攻撃して何が悪い?」
「っ!? だ、だが、この街にいる人達がそいつを攻撃したわけじゃないだろう!」
「お前は襲ってきた魔物の個体に区別がつくのか? 余程の特徴を持った個体でなければ、別種族の外観なんざ全部一緒に見えるんだよ」
ヴィルムの答えに、リスティアーネの目が細められる。
彼女から発せられる殺気が、徐々に強まっていく。
「・・・貴様は、人間でありながら魔物達を庇うのか?」
「勘違いするな。俺は人の味方でも魔物の味方でもない。俺が大事にするのは、俺の家族や仲間だけだ。今回、飛竜を治療してやったのは、メルディナとクーナリアに勘違いしたまま戦って欲しくなかったからだ。飛竜が俺の忠告に従わず、暴れ続けていたなら殺してたよ」
「・・・やはり貴様は忌み子だな。普通の人間であれば、どんな理由であれ襲撃してきた魔物を庇う事などしない。姫様の御命令でなければ貴様を雇う事などなかったものを・・・」
「お前にどう思われようが結構だ。俺は俺の考え方を変えるつもりはない。自分達の種を重んじる事は当たり前だが、それは相手にも当てはまるという事を忘れるな」
ヴィルムとリスティアーネの睨み合いが続く。
メルディナとクーナリア、そして何故か飛竜までもハラハラした様子で成り行きを見守っている。
「メルディナさん!クーナリアさん! 無事、みたいね? 飛竜も大人しくなってるし━━━って何やってるの!?」
沈黙を破ったのは、リスティアーネに先行させ、その後を追ってきたルメリアだった。
殺気を放ちながら睨み合うヴィルムのリスティアーネに気が付き、慌てて割って入る。
「姫様、やはりこの者達を雇うのはやめましょう。特にこやつは我が国にとって、害にしかなり得ません」
「待ちなさいリスティ。彼を連れていくのは父の、国王の要望なのよ? それを私達個人でやめる事が出来ないのは貴女もわかっているでしょう? 一体、何があったと言うの?」
普段は常に自分の姿を追い、どこか抜けていて暴走しがちなリスティアーネが、ヴィルムから目を離そうとせずに殺気を込めて睨み付けている事に驚き、説明を求める。
リスティアーネはヴィルムとのやりとりを包み隠さずにルメリアへ伝える。
ヴィルムも特に横槍を入れず、黙って様子を伺っていた。
「なるほど。リスティが言う事は正しいわね」
「姫様! それでは・・・!」
ルメリアの反応にリスティアーネの表情が喜色に輝く。
「でも、ヴィルムさんの言った事も事実よ。私達の価値観はあくまで人間の観点から見たモノに過ぎないの。エルフ達にはエルフ達の、獣人達には獣人達の価値観があるように、ね。忌み子として普通の人間とは違う生活を送って育てられてきた彼の価値観が私達と違ったモノになるのは当然の事なのよ」
しかし彼女から続いた返答は、リスティアーネが求めたものではなかった。
先にも増して恨みがましい視線をヴィルムへと向けるリスティアーネだったが、ルメリアの言い付けがある為、飛び掛かる事はない。
「どんな事になるにせよ、彼を王国に連れて行く事は決定しているわ。貴女が私や王国の為に言っている事はわかるけど、この決定が覆る事はない。いいわね?」
「は・・・、わかり、ました」
渋々、といった表情で下がるリスティアーネ。
話を終えたルメリアは、ヴィルムの方へと向き直る。
殺気こそないものの、ルメリアがヴィルムを見る視線は厳しい。
「さて、ヴィルムさん。リスティにはああ言ったけど、その飛竜が危険である事に変わりはないわ。逃がす事にも反対よ? 一体、どうするつもりなのかしら?」
「だったら、連れていけばいいだろう?」
「「「「・・・・・・は?」」」」
予想外の返答に口を〝ぽかーん〟と開けて呆然とする四人。
「本当なら巣に帰してやりたいが、依頼者がそう言うなら連れて行けばいい。これだけデカいなら俺達五人が乗っても大丈夫だろう? 次に言う事を聞かずに暴れるなら、殺すだけだ・・・。なぁ?」
目を細めたヴィルムの放つ、桁違いの殺気を感じとったのだろう。
飛竜は残像が見える程に勢いよく首を縦に振る。
「ちょ、ちょっと待ちなさい! その飛竜が言う事を聞く保証がないわ! 流石に王国に連れて行く訳には━━━」
「座れ」
ヴィルムの命令に従い、その場に座り込む飛竜。
「伏せろ」
翼をたたみ、頭を地に着ける。
「空を三周旋回。ここに戻って一度鳴け」
勢いよく飛び上がり、宿場から見える範囲をぐるぐると旋回。
きっきり三周した所でヴィルムの前に降り立ち『グルァ』と鳴いた。
「そんな、馬鹿な・・・」
「飛竜さんがお師様の言う事を聞いてるです」
「どこまでも驚かせてくれるわね、ヴィル」
「ヴィルムさんが規格外過ぎて頭が痛くなってきたわ・・・」
巨大な飛竜が逆らう素振りも見せず、従順な行動を見せる事に驚きを隠せないようだ。
命令を忠実にこなした褒美とばかりに、ヴィルムは飛竜を撫で、喉あたりを揉みほぐしてやる。
『クルゥン』
気持ち良さそうな声をあげる飛竜に、先程までの凶暴性は感じられない。
「何だったら、姫さんが命令してみるか?」
「えっ? わ、私が・・・?」
「貴様! 姫様にそんな危険な事をさせる気か!?」
ルメリアを庇うように前に出たリスティアーネだったが、ヴィルムに鎧の首裏部分を掴まれ、ネコのように持ち上げられてしまう。
「貴様何をする離せーっ!」
暴れるリスティアーネだが、やはりヴィルムの手からは逃れられない。
「今から姫さんがお前に命令する。危険な事でもない限り、それに従え。いいな?」
『グルァ!』
ヴィルムの言葉に元気よく応える飛竜。
命令を聞こうとルメリアに視線を移す飛竜だったが、当の本人は睨まれているとしか思えなかっただろう。
「うっ・・・。じゃ、じゃあその場に座って頂戴」
ヴィルムの時と同じく、命令に従い、その場に座り込む飛竜。
「・・・っ! つ、次はその場に伏せてみて」
逆らう事なく、頭を垂れる。
「あ、頭を撫でるから、そのまま大人しくしていなさい」
おずおずと飛竜に近付き、ゆっくりと飛竜の頭に触れる。
飛竜は、動かない。
飛竜に対する恐怖が薄れてきたのか、ルメリアは繰り返し撫で続ける。
『クルゥァァン』
気持ち良さそうな声をあげる飛竜に、ルメリアの瞳が見開かれた。
「この子の同伴を許可するわ! あとこの子私に頂戴!」
「ひ、姫様ーっ!?」
ルメリアの態度が百八十度変わった事に、驚きの悲鳴をあげるリスティアーネ。
「あぁもう、なんって可愛いのかしら! こんな利口で可愛い子を傷付けるなんて非常識にも程があるわね! 国に帰ったら父に言って傷付けた者を探し出して処罰してもらいましょう! この子の棲み処も作ってあげなきゃいけないわね!」
最早ルメリアの頭からは、あれ程感じていた恐怖は飛んでいったらしい。
・・・飛竜の事だけに。
「おい、お前姫さんの護衛だろ。早くあれ止めて来いよ」
半眼になって呆れているヴィルムはリスティアーネを放してやるが、全く反応がない。
「あぁ、姫様が、姫様が寝取られた・・・。あんなデカいトカゲ如きに・・・。あんな優しい笑顔なんてここ最近私に向けてくれた事なんてないのに・・・」
別に寝取られた訳ではないと思うが・・・。
「・・・はぁ」
ヴィルムは溜め息を吐きながら、ルメリアとリスティアーネが正常に戻るまで待つ事にした。
なお、ルメリアが落ち着くまでに三十分以上かかったとだけ言っておこう。
6/9 ジャンル:ハイファンタジー日間ランキング1位、総合の方でも日間1位を頂きました。
い、一体何が起こっているのでしょうか?
今まで1,000人/日くらいだったアクセス数が一気に300,000人/日まで上がってるのですが・・・。
恐らく、“嫁が寝取られたので世界を滅ぼします“から“忌み子と呼ばれた召喚士”のアクセス数が上がり、ランキング入りした事で読者様方の目に止まって・・・という流れだとは思うのですが、未だに信じられません。
応援を頂いている読者様方、本当にありがとうございます。
お時間があれば、評価や感想を書いて頂ければ幸いです。




