【30】飛竜、襲来
くっはー!
ギリギリ間に合ったー!!
仕上がったのが夕方6時でした。
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“ヒュマニオン王国までの護衛”
・依頼者:ルメリア=ヒューマニオ
・報酬:金貨百二十枚(経費別途)
・場所:ファーレンの街からヒュマニオン王国まで
・依頼内容:ヒュマニオン王国第三王女殿下をヒュマニオン王国・王宮までの護衛及び、国王との対話
・備考:ファーレンには極秘での来訪の為、護衛の数が少ない。依頼主の身分については他言無用で通す事。依頼主の指示には絶対服従ではないが、命の危険性がない限りは極力従って欲しい
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早朝からの出発だった為か、ファーレン街道に人の気配はない。
ちらほら魔物が出現するが、近付いてきた魔物達はヴィルムに感知され、クーナリアの訓練相手にされていた。
尤も、戦闘力、精神力共に大きく成長したクーナリアの相手をするには物足りなかったようだが。
現在は〈飛竜のとまり木〉を出る時に、女将さんが持たせてくれたサンドイッチで朝食をとりながら、ヒュマニオン王国へのルートを相談している。
「一番近いのは関所を経由するルートよ。宿場もあるけど、往来する冒険者や商人の数が多いから、部屋をとれるかどうかは微妙な所ね」
「ルメリア様とリスティアーネさんだけなら部屋を融通してくれるのではないですか? 私達三人は野宿でも構いませんし」
「無駄に権力を振りかざすつもりはないわ。それに極秘で来てるからね。あまり目立つ行動はとりたくないのよ」
「姫様が一言命令してくだされば、私が宿を確保してきますのに・・・」
「はぁ・・・。ファーレンに向かう途中、すでに前金で宿泊費を支払っていた客を追い出そうとしていたのは、誰だったかしらね?」
「追い出すなどと! 私はただ、姫様が御休みになる為の部屋を譲って貰えないかとお願いしただけで!」
「抜剣してそれを相手の喉元に突き付けるのはお願いじゃなくて脅迫って言うのよ駄女騎士リスティ!」
〝パッシィィィン!〟
ルメリアのビンタは今日もキレッキレである。
何度か脱線しながらも、関所と宿場を経由するルートを通る事に決めたヴィルム達は、日が暮れる前に宿場に辿り着くべく進み始めるのだった。
* * * * * * * * * * * * * * *
日が傾き、辺りが朱に染まり始めた頃、ようやく初日の目的地である宿場街の近郊までやってきた。
無意識に安堵のため息を吐き出す面々だったが、宿場に近付くにつれてその様子がおかしい事に気付き始める。
決定的だったのは、宿場街から立ち上る黒煙。
明らかに飯炊きをしているという雰囲気ではない。
「火事かしら? もしかしたら盗賊か何かに襲われているのかも。皆、戦闘準備しながら行くわよ」
「はっ!」
「わかったわ!」
「わかりました!」
ルメリアを含め、彼女の号令に素早く反応した四人は、黒煙が立ち上る宿場へと駆け出す。
「・・・護衛対象が自分から危険に突っ込んでいってどうすんだよ」
ヴィルムはルメリア達の行動に呆れながら、仕方なくといった感じで彼女達の後を追った。
辿り着いた宿場街は恐怖と混乱に支配されていた。
本来であれば、夕暮れ刻のこの時間には、夕食を求めて飯屋や屋台に客が押し寄せ、活気に溢れているはずである。
しかし、逃げ惑う人々にはそんな余裕は微塵にも感じられない。
それもそのはず。
四人の視界に飛び込んで来たのは━━━
「は、はぐれ飛竜!?」
━━━宿場街の建物を次々と破壊し、暴れまわっている巨大な飛竜だった。
「そんな馬鹿な! 飛竜は高山地帯に住む魔物だぞ! 何故こんな場所にいるんだ!?」
「それにあの巨体・・・。突然変異で生まれた亜種かもしれないわね。普通の飛竜でさえAランククラスだってのに・・・!」
「と、とりあえず皆さんを逃さないと! 私が囮になりますから、その間に誘導をお願いするです!」
「クーナリアさん、無理はしないで。リスティ、周囲の人達を避難がさせたら私達も参戦するわよ!」
高山にて、群れで生活する飛竜がこんな平地まで降りてきている事に驚愕するリスティアーネ。
不測の事態にも関わらず、冷静に考察するメルディナ。
自ら囮になろうと飛び出していくクーナリアに、リスティアーネを引き連れて人々の避難を手伝い始めるルメリア。
『グルルルルゥ・・・』
接近してくるクーナリアに気が付いた飛竜は、低い唸り声をあげて威嚇してきた。
負けじと睨み返すクーナリアは、愛用していると言ってもいい大斧を構えて相対する。
(私なんかの力が、どれだけ通じるかわからないですけど・・・!)
「全力で・・・行きますっ!!」
「クーナ、援護するわ!」
メルディナとクーナリアが、地面を蹴って飛竜へと飛び掛かる━━━
「まぁ待て、二人とも」
〝くきんっ!〟
〝こきんっ!〟
「はきゅっ!?」
「ふぺっ!?」
━━━と同時に、背後から襟後ろを掴まれたクーナリアとメルディナの首の骨が悲鳴をあげた。
相当に痛かったのだろう。
クーナリアは首の後ろを抑え込んでぷるぷる震えながら、座り込み、メルディナは痛みに堪えかねて地面をのたうちまわっている。
飛竜の方もあまりに予想外な展開に拍子抜けしたのか、攻撃しようとはせずに様子を伺っているようだ。
「あぃたたたた・・・。な、何するんですかお師様ぁ」
「ちょっとヴィル、ふざけてる場合じゃないのよ!?」
背後に現れたヴィルムに、涙目で睨みながら抗議するクーナリアとメルディナだが、抗議された方は何処吹く風だ。
ヴィルムはそのまま二人の前に進み出ると、無警戒に飛竜へと歩み寄っていく。
『・・・!! グルルルルッ!!』
あまりに自然に近付いてきたヴィルムに警戒が遅れ、今気が付いたかのように威嚇する対象を切り替える飛竜。
「よしよし、大丈夫だ。後ろの連中には手出しさせないから、安心しろ」
飛竜は今にも噛み付いてきそうな雰囲気だが、ヴィルムは全く気にしていない。
軽い調子で自ら飛竜の口元に近寄り、その顎を撫で上げる。
最初は警戒していた飛竜だったが、ヴィルムに敵意がない事がわかったのか、段々と唸り声を小さくして撫でられるがままになっていった。
「いい子だ。そのまま大人しくしてろよ」
『クルルルルル・・・』
ヴィルムの言葉に従うかのように、その場に伏せの姿勢で座り込む飛竜。
ヴィルムはそのまま身体を触りつつ、ゆっくりと飛竜の後ろへと回り込んでいく。
「やっぱりな。これが原因だったか」
目に入ったのは、飛竜の臀部に刺さり、半ばで折れている一本の矢だった。
ガッチリと返しの部分まで深く刺さっており、ちょっとやそっと動いた程度では取れそうにもない。
「こんなもんが刺さってたら、イライラして暴れたくもなるわな。抜いてやるから、少し我慢しろよ?」
言葉が伝わったのかどうかはわからないが、ヴィルムが折れた矢を刺激しないようにつついてやると、それを見た飛竜は歯を食い縛るように口を閉じ、何かに耐えるように目を瞑った。
ヴィルムは矢を一気に引き抜く事はせず、傷口に指を入れて少しずつ矢尻を掘り起こしていく。
叫ぶ程ではないが、傷口を直に触って拡げられるのは痛いだろう。
『クルゥ・・・クルゥン・・・』
飛竜からは物悲しい鳴き声が聞こえてくる。
少し時間は掛かったが、ヴィルムはうまく矢尻を抜く事が出来たようだ。
「クーナリア。飲料水を取ってくれ」
「え? あ、はいです」
クーナリアから飲料用の綺麗な水を受け取ったヴィルムは、傷口を惜し気もなく使って洗い流し、ヴィルム式製法の傷薬を塗り込んでやった。
「これで良しっと。ほれっ、さっさと巣に帰って養生しろよ」
治療した部分を避け、軽く叩いて帰れと促すヴィルム。
これにて一件落着、と思いきや━━━
「貴様! 宿場を襲った飛竜を治療した上に逃がすとは何事かー!!」
やってきたのは、リスティアーネだった。
飛竜の襲撃はファンタジーではお約束ですよね。
やっぱりお約束は書いてて楽しかったです。
明日の投稿は多分間に合いません。
定期的な曜日に更新するのがいいのか、出来上がった時点で更新するのがいいのか迷いますね。




