【24】アジト襲撃
休日に一気書きした二話目です。
見直したけど誤字脱字ある気がして仕方ないです。
※戦闘回につき残酷な描写があります。
苦手な方は御注意下さい。
フーミルの指示に従って山の中へ入ったヴィルム達。
彼女の指示は的確で、日が落ち、辺りが暗くなってきた頃には山賊達が根城にしている洞窟を見つけていた。
襲撃が成功した後で気が緩んでいるらしく、見張り役と思われる者達も武器を持って立っているだけで、警戒している様子もない。
欠伸を我慢する素振りさえ見えず、洞窟前の広場で宴会をする仲間達を羨ましげに見ている。
ヴィルム達は少し離れた場所でその様子を観察していた。
「(見事に油断しているな。この分なら、奇襲をかけるのは難しくなさそうだ)」
「(そうね。見張りは二人。馬鹿騒ぎしてるのが三十人くらい。フウ様の言った人数と一致するわ)」
フーミルからもフウでいいと言われたメルディナだったが、やはり精霊に対しての敬意は厚く、「ではフウ様で」という事に落ち着いた。
なお、クーナリアとミゼリオは「フーちゃん」と呼ぶようにしたようだ。
山賊達の宴会がまだしばらく続くと確信したヴィルムは、メルディナ達に今回の作戦を伝える。
「(さて、今回の奇襲だが、クーナリアに主導を任せる)」
「もごっ!?」
驚きの声をあげようとするクーナリアだったが、それを予測していたヴィルムに口を封じられる。
クーナリアが落ち着いたのを確認して手を離すヴィルム。
「(以前、奴隷商人達に捕まってから、クーナリアにはああいった連中に潜在的な苦手意識があると思っている。それを克服する為の訓練だ。メルディナにも一緒に戦ってもらうし、俺やフウがサポートするから、全力でやってみろ)」
実はヴィルムのこの推測、見事に当たっている。
ファーレンの街でも、クーナリアは厳つい風貌の男達からは無意識に距離をとっていた。
冒険者ギルド等の狭い場所では、ヴィルムかメルディナの側を離れない。
唯一の例外は武器を探す際に知り合ったアッセムくらいだ。
「(今後、実戦において常に俺やメルディナが側にいるとは限らない。今の内にその苦手意識を克服しておかないと必ず致命的なミスに繋がる)」
「(確かにそうね。クーナリア、冒険者をやっていく以上、こういった場面は絶対に避けて通れないわ。私も協力するから、頑張ってみましょう?)」
「(・・・・・・)」
強くなったと思っていた。
少し動くだけで疲れていた身体は、それが嘘の様に軽々と動くようになり、あのすばしっこく動き回るコボルトを一刀の元に葬る事も出来た。
ヴィルムからの指摘を受け、改めて山賊達を見ると、頭の中にあの時の恐怖が過る。
まだ、甘えていた。
今まで平気だったのは、ヴィルムやメルディナが近くにいてくれたからに他ならない。
(あんなに、メルちゃんの隣に立ちたいって・・・、お師様に追い付きたいって思ってたのに・・・)
その事に気が付いたクーナリアは、無意識に唇を噛み締める。
彼女の唇の端に、血が滲む。
「(・・・やるです。やってみるです)」
ヴィルムの目を見据えて答えるクーナリア。
「(よし、良い眼だ。フウ、メルディナとクーナリアの“音”を消してやってくれ。二人が戦い始めたら、周辺に風壁を張って山賊達を逃がさないように頼む)」
『(ん、わかった。〈サイレンスムーブ〉)』
フーミルが魔法を唱えると、ヴィルム達全員を優しい風が包む。
『これで、フウ達以外に、声や音は伝わらない。思う存分、やるといい』
「ありがとう、フウ。三人共、任せるぞ」
「えぇ、任せて頂戴」
「はいっ!」
『まっかせっなさーい!』
大まかな作戦を立てたメルディナとクーナリアは二手に別れ、茂みに身を潜ませながら、それぞれ見張りへと近付いていく。
クーナリアの身の丈以上ある大斧は、接近時に見付かる可能性があるのでヴィルムが預かっている。
飛び掛かれる距離まで近付いたクーナリアは、足下の小石を拾い上げる。
〝ドクンッ・・・ドクンッ・・・〟
心臓の音が、やけに大きく聞こえる。
心に巣くう恐怖の幻影に、身体が怯えているのがわかる。
例え、この場から逃げ出しても、少なくともメルディナは見捨てないだろう。
ヴィルムも自分達の監視がある以上、その可能性は限りなく低い。
だが、そこにいるのはきっと、以前と全く変わらない、弱いままの、守られているだけの自分。
(そんなのは、絶対に嫌です・・・!)
クーナリアの目に、決意の光が宿った。
覚悟を決めたクーナリアは、見張りの後ろを通して自分とは真逆の方向へ小石を放り投げた。
僅かに〝カササッ〟とした音に反応して見張りの注意がそちらに向く。
「ふっ!!」
その一瞬の隙を突いて見張りへ飛び掛かったクーナリアは、ヴィルム直伝の首折りでその命を奪う。
普通であれば首の折れる音がするのだろうが、クーナリアと密着している為、〈サイレンスムーブ〉の効果で一切の音が漏れる事はない。
メルディナもクーナリアと同じく見張りに接近。
魔法で小さな水滴を生成し、見張りの頬に当てる。
「ん?雨か?」
雨が降ってきたのかと見張りが空を見上げると同時に一気に近付き、首元にミスリルナイフを突き立てる。
「ぁがっ!?」
首を折られて絶命した見張りと同じく、〈サイレンスムーブ〉の効果がかかったメルディナに触れられているので、呻き声は周囲には漏れない。
クーナリアも見張りを倒した事を確認したメルディナは、ミゼリオの協力の元に中規模魔法の詠唱に入る。
それは以前、ヴィルムにこそ通用しなかったものの、十数人の傭兵達を捕らえた捕縛魔法。
「いくわよ!〈アクアバインド〉!」
メルディナとミゼリオの魔力から生まれた無数の水球が鎖状に変化し、未だ異変に気付かずに騒ぐ山賊達に向かって飛んでいく。
「うおっ!?」
「な、何だ!?」
「て、敵襲ー!!」
「ク、クソッ!見張りは何をしてやがった!」
流石に以前より人数が多く、半数程逃してしまったようだが、それも作戦の想定内だ。
当然、山賊達の注意は魔法の飛んできた方へと向く訳だが、そこに逆方向からクーナリアが踊り出た。
「クーナリア!」
成り行きを見守っていたヴィルムが、預かっていた大斧をクーナリアが狙うターゲットの頭上に放り投げる。
「ふっ!やぁぁああっ!!」
回転する大斧を宙で受け取ると、そのままそれを振り下ろして真下にいた男を縦に両断する。
血飛沫を撒き散らしながら崩れ落ちる男に目を奪われた三人の男達に、今度はメルディナの魔法が襲い掛かる。
「ミオ様、お願いします!〈アクアランス〉!」
「がひゅっ!?」
メルディナから放たれた〈アクアランス〉が、男の胸を貫通する。
「まだまだ!〈アクアランス〉!〈アクアランス〉!〈アクアランス〉!」
混乱して逃げ惑う山賊達に、容赦なく襲い掛かる水の槍。
辛うじて回避する者もいたが、避けた先に待つのは大斧を振りかぶったクーナリアだった。
「ひっ!許し━━━」
「問答無用です!」
掬い上げる様な逆袈裟斬りに両断された山賊の上半身は宙を舞い、〈アクアバインド〉に拘束された者の側へと叩き付けられる。
あまりの恐怖に失禁して動けない者もいるが、何人かはこそこそと逃げ始める。
『ん、逃がさない。ヴィー兄様の匂いを消した、お前らは許さない。〈リッパーフィールド〉』
フーミルの魔法が、一定範囲より外へ逃げようとした山賊達を細切れに切り刻む。
どこにも逃げられない事を悟った山賊達は、ようやくメルディナとクーナリアに対峙する。
戦闘可能な数は、僅か五人にまで減っていた。
「こ、こんな女のガキ二人に全員やられたってのか!?」
「ふざけた真似しやがって!手足引き千切ってぶっ壊れるまで犯してやらぁ!」
片手剣を持った男がメルディナに斬りかかる。
大斧を振り回すクーナリアよりは与し易いと思ったのだろうが、現実はそう甘くはない。
メルディナは、剣を振りかざし迫り来る男に焦る事もなく、人差し指を向ける。
「〈ニードルレイン〉」
無数の針と変化した水滴が、メルディナの指に従う様にその男へと向かっていく。
「ぎゃああああああっ!!」
絶命する程の威力はないが、そのほとんどが命中した事で、男は堪らず地面へと倒れ込む。
「っ!?」
「いてぇっ!」
外れた水針が、男の後ろにいた山賊達に当たった事で、その者達に隙が出来る。
「せぇやぁぁああっ!!」
その隙を逃さず、クーナリアは大斧を構えながら山賊達に接近し、胴体を凪ぎ払うように真横に振るった。
数瞬程遅れて崩れ落ちる山賊達。
水の鎖に捕らえられた者や他の生き残り達に抵抗する意思はなく、この場での勝敗は、明確に決した。
ヴィルムは斧投げただけでしたね(笑)
ヴィルムが参戦すると戦闘が一気に終わってしまうので、今回はお休みしてもらいました。
フーミルが魔法で参戦してますが、姿は見せてません。
次回は5/17投稿予定です。




