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【02】蹂躙劇

『忌み子と呼ばれた召喚士』連載開始記念第二話!


戦闘に突入します。

残酷な表現がありますので、苦手な方はご注意下さい。

「その実は置いていけ。そうすりゃ生かして帰してやる」


青年が発した、あまりにも傲慢な提案。


「おいおい、ふざけるのも大概にしろよ?これは俺達が命懸けで手に入れた物なんだぜ。よこせと言われて、はいどうぞって渡す訳がねぇだろ」


「そうよ!しかも生かして帰してやるって何様のつもり!?アンタは一人だけど、こっちは四人いるのよ!」


そのあまりにも傲慢な提案に、テューマーとセイヌが反射的に返す。


「二人の言う通りだ。俺達がお前の要求に従う義理はない」


「対価を支払うと言うなら譲る事も(やぶさ)かではありませんが、無料(タダ)で渡す事は出来ませんね。私達にも生活がありますので」


二人に比べれば、幾分冷静に見えるカーマとテイシスだが、その表情は堅く、青年に対しての不快感を抑えて話しているのは容易に見て取れた。


「その実は、アンタ達にとって自分の命より大切な物なのか?」


腕を組んだ青年は、不思議そうな顔で四人を見ながら首を傾げる。


その言葉で、四人は我慢の限界を越えた。


「カーマ、テイシス。このガキがやってる事は山賊行為だ。例え殺す事になっても俺達に不利に働く事はねぇ」


「警告はしたわよ。恨むなら適切な状況判断が出来なかった自分を恨みなさい」


「俺達も戦果をみすみす渡すつもりはないんでね。残念だが、()らせてもらう」


「出来るだけ殺さないようには配慮しますね。勿論、その後は山賊としてギルドに引き渡しますけど」


素早く陣形を整える四人。


カーマが前線で盾を構え、後方にセイヌとテイシスの二人。


テューマーは狙撃しやすいように木々の隙間に隠れる。


戦闘態勢を取る四人を見て、青年は深く溜息を吐いた。


「はぁ・・・。選択肢(チャンス)はやったからな?」


組んだ腕を解き、軽く曲げた自然体で立つ青年。


突如、青年の身体を煌々とした真紅の光が包み込む。


━━━紅き魂を持つ者よ━━━


その声は開けた場所であるにも関わらず、周囲に響き渡る。


━━━我、求むは汝が存在(ちから)━━━


「チッ!召喚術か!皆、詠唱中(いま)の内に攻撃するんだ!」


青年に詠唱させまいと一気に距離を詰めるカーマ。


━━━我が魂に寄り添いて━━━


「こっちも詠唱に入るわ!極大(ドデカイ)のかましてやるんだから!」


「わかった!アイツの妨害は任せろ!<クイックアロー>!」


━━━(あだ)なす者を灰塵(かいじん)()せ━━━


「少し時間が足りなかった様だな!<剛破斬(ごうはざん)>!」


テューマーの放ったクイックアローと、一気に接近したカーマの岩をも斬り裂く一撃、剛破斬が青年に捉える━━━


「「何ッ!?」」


━━━事が出来ず、青年の身体を透過した。


降臨(アドヴェント) <紅鷹姫(こうようき)ブレイズフェルニル>」


僅かに身体を反らせただけで、二人の攻撃を躱した青年の詠唱が完成する。


青年を包んでいた真紅の光が燃え盛る炎へと変化し、それは人の型を形成していく。


(あらわ)れたのは、緋色の身体に真紅の髪と瞳、そして美しくも鋭い翼を持つ少女。


「せ、精霊・・・!?」


「皆、下がって!<デス・インフェルノ>!」


召喚されたのが精霊だった事に驚きつつも、セイヌの声に反応してすぐに跳び退く三人。


「その精霊には効き目が薄いかもしれないけど、術者(アンタ)はどうかしらね?」


セイヌの得意とする火炎魔法の最上位、デス・インフェルノ。


その威力は術者の前方広範囲に、鋼鉄すら溶かす高温の火炎を放射する魔法。


詠唱に多少時間がかかると言う難点はあるが、シンプルが故に高威力、詠唱が完成してからの対処や回避は非常に困難。


地獄の火炎が、青年と精霊の少女を包み込む。


「ふふん。自分から喧嘩を売ってきた割には大した事なかったわね」


「セ、セイヌさん。出来るだけ殺さない様にって言ったじゃないですか」


「いや、俺やテューマーの攻撃を簡単に避ける実力者だ。殺す気で行かないとこっちが()られてたかもしれない。セイヌは間違っていないよ」


「そうだな。ま、これ以上の面倒は御免だ。さっさと━━━」


得意気に鼻を鳴らすセイヌの表情が、否、勝利を確信した全員の表情が凍り付く。


周囲の木々にも燃え移り、山火事をも引き起こしそうな勢いで燃え続けていた火炎が、一点に収束し始めたからだ。


数瞬で消え去ってしまった地獄の火炎、その中心にいたのは無傷の青年と精霊の少女。


少女は静かに降り立つと、四人を見据えながら青年へと問い掛ける。


『木々や草花が燃えちゃった。遠慮する理由、ないよね?』


その視線には、森の自然を破壊した者達に対する憎悪が感じ取れる。


「しゃ、喋った・・・?しかも最上位の火炎魔法を無効化するなんて・・・上位?いや、最上位精霊?」


『だからどうした?人間。私達の住処を破壊し、私達の家族の命を奪おうとしたのだ。生きて帰れると思うなよ』


精霊の少女から発せられる重圧(プレッシャー)は、ジュエルツリーの重圧(それ)を遥かに上回る。


「くっ!これは流石に無理だ!テイシス、転移石を出せ!皆、すぐに逃げるぞ!」


圧倒的実力差を感じ取ったカーマが、精霊の少女に相対し、じりじりと後退しながら撤退を指示する。


本来なら斥候役のテューマーや後衛のセイヌも、転移石を持つテイシスを守る様に陣取る。


魔力を流し、登録した地点へ瞬時に転移するアイテム、転移石。


その利便性に比例する様にその価格は非常に高額であり、Aランクパーティの彼らであっても購入する事は躊躇(ためら)われる程の品物である。


(無理をして買っておいて正解だった。あの精霊は俺達が対抗出来る相手じゃない。帰ったらすぐにギルドに報告しないと)


「は、はい!全員こちらに集まって下さい!転━━━」


テイシスが収納空間から転移石(それ)を取り出し、光り始める━━━


「逃がさねぇよ」


━━━その瞬間、テイシスの胸元から腕が生えた。


「え・・・?」


その腕が一気に引き抜かれ、崩れ落ちるテイシス。


「こふッ・・・ごぽっ・・・」


(おびただ)しい量の血を流れ出るのを感じながら、彼女の意識は深い闇へと落ちていった。


「やっぱり持ってたか。この辺りまで来るヤツらは転移石(コレ)持ってる事が多いからな。警戒してて正解だったよ」


テイシスの血で真っ赤に染まった青年の右腕には、彼女が発動しようとした転移石が握られていた。


「テイシ・・・ス?」


「お、おい、冗談だろ?」


「あ・・・あぁ・・・」


一瞬で(むくろ)へと変わった仲間の姿に固まる三人。


そしてその大きい隙を見逃す程、青年と少女は甘くない。


『随分と得意気に炎を撒き散らしてたけど、生きたまま焼かれる苦しみを、貴様は知っているか?』


「あ・・・いやっ・・・!」


呆然としていたセイヌの頭を掴み、軽々と持ち上げる精霊の少女。


『その苦しみ、魂の髄まで刻み込んでやる。貴様がやった事を懺悔し、後悔し、そして自身で味わってから、死ね』


「い、イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」


「や、やめっ―――」


精霊の少女から生み出された炎が、セイヌだけを包み込む。


自身の得意な属性だけあって、並大抵の火炎魔法であれば無効化出来る程の炎耐性を持ったセイヌ。


しかし最上位精霊たる彼女の火炎魔法に(あらが)える訳もなく━━━


「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ッ!!!」


━━━否、(あらが)ってしまった。


「あ”あ”あ”・・・。だず・・・げで・・・。ガァマ”、だずげ・・・でぇ」


炎耐性を持っていたが故に。


その身体を生きながらにして焼かれる、気が狂ってしまった方がマシな程の苦痛を受ける事になってしまった。


「ヴぁ・・・ァ・・・」


最早、辛うじて人だったと判断出来る程にまで炭化した彼女は、漸く、その苦しみから解放された。


「セイ・・・ヌ」


「ヒッ・・・うわああああああっ!」


二人の凄惨な死に方を目の当たりにしたテューマーが半狂乱で逃げ出す。


それは一刻も早くこの場を離れたいだけの全力疾走。


いつもの精細な動きは欠片も無く、唯々、真っ直ぐ足を動かし走っているだけ。


「おいおい、情けねぇ悲鳴あげてんじゃねぇよ。さっきまでは俺を殺す気満々だったのに、自分が死ぬ覚悟は出来てねぇのか?」


パーティ内どころか、所属するギルド内でもスピードに置いては不動の一位であるテューマーに、青年が息すら乱さずに並走する。


「来るな!来るなァ!!」


正常な判断が出来なくなっているテューマーは、普段であれば牽制や護身にしか使わない短剣を滅茶苦茶に振り回す。


青年は不用意に突き出された短剣をあっさり躱し、その腕を絡め取る。


「は、離っぁぐぇッ!?」


腕を振りほどこうと身を翻したテューマーの喉元を、片手で掴み、締め上げる。


テューマーも必死に暴れているが、拘束を振りほどく事が出来ない。


それどころか、テューマーの身体が徐々に地面から離されている。


「あ・・・がっ・・・はぐッ・・・」


徐々に弱くなっていくテューマーの呼吸。


「かひゅ・・・ぎ・・・」


苦しむテューマーの姿を冷めた眼で見ながら、青年は彼を持ち上げ、血に塗れた腕に力を込める。


〝ゴキャッ〟という生々しい音を響かせ、テューマーの三十年に近い人生は幕を降ろした。


「・・・テューマー」


残されたカーマは、呆然と座り込んでいた。


テューマーを殺し、悠々と歩いて戻ってきた青年を見上げ、問い掛ける。


「・・・何故、皆を殺した?セイヌやテューマーは戦意を喪失していたのに」


「じゃあ聞くが、アンタ達はジュエルツリーが戦意を喪失していたら、殺すのを止めていたか?」


答えに詰まるカーマの代わりに、青年の隣に移動してきた精霊の少女が答える。


『その可能性はない。基本的にジュエルツリーは温厚なのだ。ジュエルツリーと戦っていたって事は、先に手を出したのはコイツ達だって事。目的はジュエルツリーの果実で間違いないだろうから、例えジュエルツリーが戦意喪失して逃げ出していたとしても、倒しきるまで、果実を得るまでは攻撃を止めなかっただろうね』


「・・・魔物を倒して何が悪い?」


諦めの中にも怒気を含めながら、カーマは更に問い掛ける。


「所詮、この世は弱肉強食だ。アンタ達がジュエルツリーを殺した事に文句を言うつもりはねぇよ」


「だったら・・・!」


「だけどな、それが間接的にでも俺や俺の家族、俺達の住処に被害が及ぶとなれば話は別だ。さっきも言ったが、アンタ達があの実を持ち帰れば、(それ)を求めて大勢の冒険者達が押し寄せて来る。冒険者ってのは目的の為には手段を選ばない。俺達に被害が及ぶ可能性は十分にある」


弱々しくも睨み付けるカーマの目を真正面で受け止めながら、青年は続ける。


「生きて帰れる選択肢(チャンス)はやった。こちらの提案に耳も貸さず、ましてや殺そうとしてきたんだ。俺達の方が強かったから、自分達は死にたくない、見逃せ、それは通らねぇよ」


カーマを覗き込むようにして睨み付ける青年。


その眼を直視出来ずに、カーマは視線を逸らし、黙り込んでしまう。


『都合が悪くなると黙るのね。まぁいいわ。すぐに仲間の元に送ってあげる』


カーマに向けた右手に炎を産み出す精霊の少女。


カーマは自身の生を諦めているのか、項垂(うなだ)れたまま、目を閉じる。


『抵抗しないなら、苦しませずに殺してあげるわ。・・・サヨナラ』


精霊の少女から産み出された、超高温の炎。


それは一瞬でカーマを包み込み、骨すら残さず消し炭にしてしまった。


魔霧の森の奥深くへ探索に入ったAランクパーティ〈遺志無き魔剣〉。


彼らもまた、未知の領域から戻る事は叶わなかった。

主人公も精霊も容赦ありませんね。


作者は召喚士が大好きです。

次点で武道家やモンク、グラップラー等の自分の肉体で戦う職業が好きです。

二つを合わせた結果、こんな主人公になっちゃいました(笑)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 主人公のセリフ……矛盾してます。冒険者が果実を諦めて帰ってしまえば、情報を持ち帰ってしまい、結局はお金の為に、沢山の冒険者が押し寄せて来てしまいますよね? 生活を脅かす可能性を消すな…
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