【23】捜索
ちょっと短めです。
一話辺りの文字数を大体揃えたいとは思ってるのですが、キリの良い所で締めるとどうしてもバラついてしまいますね。
休日に一気書きした分です。
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<緊急依頼>“山賊団の討伐“
・依頼者:ファーレン所属 各代表連名
・報酬:金貨三十枚(報酬上乗せ有り)
・場所:ファーレン近郊の山中(アジト不明)
・依頼内容:ファーレン街道、近郊にて商人や旅人を襲っている山賊団の討伐。討伐が困難な場合は、アジトや構成人数、武装の種類等の情報収集。
・備考:山賊団の構成人数は二十人程だと思われるが、詳しい数やアジトの場所は不明。討伐において、山賊団の生死は問わない。出来る限り討伐の証拠となる物を確保して欲しいが、自身の命を第一に考えて欲しい。
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「さて、最後に商人が襲われたのがこの場所だな」
「襲われたのは二日前。積み荷を放棄した事で、何とか軽傷で済んだそうよ。護衛の冒険者が二名、命を落としたらしいけど、ね」
シャザールからの依頼を受けたヴィルム達は、仕事から帰って来たばかりにも関わらず、即座に最低限の物資を買い揃えて出発した。
最後の目撃情報があった場所まで来た時には日も暮れ始めていたが、ヴィルム達に疲労している様子はない。
「山賊達は今回の襲撃が成功してアジトで休んでる可能性が高い。今晩中にカタをつけるぞ」
『でも、山賊達の場所はどうやって探すの?情報が山の中ってだけじゃ探しようがないよ?』
ミゼリオの疑問ももっともだ。
いかに周囲の気配を探れるヴィルムでも、短時間で広い山中から山賊達を探し出すのは難しいだろう。
「その点は心配ない。今から心強い味方を喚ぶからな」
三人は、ヴィルムが何をしようとしているのかを悟ったのか、僅かに距離をとる。
━━━白き魂を持つ者よ━━━
ヴィルムの身体から透明に近い白色の魔力が溢れ出す。
━━━我、求むは汝が存在━━━
白い魔力はヴィルムの周りを渦巻くように流れ始める。
━━━我が魂に寄り添いて━━━
それは次第に砂塵を巻き起こす旋風となり、
━━━仇なす者を塵芥に帰せ━━━
周囲に吹く風を取り込みながら大きくなっていった。
「降臨<白狼姫アトモシアス>」
巨大な竜巻となった白の魔力が一気に吹き上がり、不規則な動きながらも収束し始める。
〝パシンッ〟と弾ける様に消え去った風。
その中心には小柄な幼女が立っていた。
アルピノの様に透き通った白い肌と、細く流れる様な光沢のある白髪。
彼女の瞳はエメラルドの様に輝き、頭にピンと立った耳とふさふさで揺れ動く尻尾は彼女の可愛らしさを一層際立たせている。
手足には柔らかそうな獣毛が生え揃い、僅かに見え隠れするのは彼女の雰囲気とは真逆の印象を与える鋭い爪だった。
『ヴィー兄様・・・!』
幼女の視線がヴィルムを捉えた瞬間、〝ひゅばっ〟という音を残して彼女の姿が消える。
「えっ!?」
『あっ!?』
「消えた!?」
幼女の動きを捉えきれなかった三人に動揺が走る。
当の幼女は、ヴィルムにおんぶされる格好で、彼に頬擦りをしていた。
『久しぶりの、スー、ヴィー兄様の、スー、匂いと、感触・・・。クンクン。スー、はー。間違いない、本物』
「フウ、久しぶりだな。仕事の後だから、汗臭くないか?」
『・・・だが、それがいい』
どうやら重度の匂いフェチなようだ。
「えーっと・・・」
「は~・・・」
『ほぇ~・・・』
召喚された幼女の奇っ怪な行動を見て、呆気にとられた三人。
それに気が付いたヴィルムは、おぶさる幼女の頭を肩越しに撫でながら紹介に入る。
「三人共面識がなかったな。この子はフーミル。風を司る狼の精霊獣だ。この通り甘えん坊で、俺や姉さん達は妹のように接している。仲良くしてやってくれ。・・・フウ?」
『ん。フウはフーミル。三人の事は姉様達から聞いてる。ヴィー兄様の妹の座は誰にも渡さないから、よろしく』
「フ、フーミル様ですね。私はメルディナと言います。よろしくお願いします」
「ク、クーナリアです。よ、よろしくお願いします」
『ミゼリオだよ!仲良くしてね、フーちゃん!』
ヴィルムに促されて自己紹介をしつつも、ヴィルムから離れようとしないフーミル。
メルディナとクーナリアの二人は、そんな状態でありながらも、彼女から発せられる威圧に気圧されてしまっている。
『ん、二人は、堅い。ミゼリオみたいに、フウで良い。ヴィー兄様が認めてるなら、フウも認める』
『あ、だったらワタシの事はミオでいいよ!大体メルディナは遠慮しすぎなのよ。未だにワタシの事は“精霊様”って呼ぶしさぁ。精霊様だと誰が誰だがわかんないし、この際だから、皆、ワタシの事はミオって呼んでよね!』
誰に対しても遠慮のないミゼリオの姿勢は、短所であり長所だろう。
『ん、三人共、よろしく』
フーミルの挨拶が終わったタイミングで、ヴィルムが本題を切り出す。
「さて、紹介が終わった所でフウ。頼みたい事があるんだが、いいかい?」
『ん、ヴィー兄様の頼みなら、何でも聞く』
頼られる事が嬉しいのか、フーミルの耳と尻尾は忙しなく動いている。
「助かるよ。二日前、ここで人間同士の争いがあったらしいんだが、血の匂いを辿れるか?」
『・・・』
ヴィルムからの頼み事を聞いた瞬間、フーミルの顔から表情が抜け落ちる。
『そんな・・・折角、ヴィー兄様の匂いがいっぱいで、幸せなのに・・・』
呟くと同時に膝から崩れ落ち、まさにorzの体勢になるフーミル。
「あー・・・すまん、フウ。嫌なら無理にとは言わないから、そんなに落ち込まないでくれ」
ここ最近のヴィルムにしては珍しく、目に見えて動揺している。
やはり兄と呼ばれているだけあって、妹には甘いのだろうか。
『うぅ・・・、ヴィー兄様の役に立ちたいから、頑張る。でも、ちゃんと出来たら、ヴィー兄様の匂いを、マーキングして欲しい・・・』
「あー・・・わかった。フウがそれでいいなら、その通りにするよ」
『!? 頑張る!約束!』
要望が通った途端に目を輝かせてやる気をみなぎらせるフーミル。
すぐさま、ファーレンとは違う方向に向かう血の残り香を嗅ぎ付けると、ヴィルムの肩に股がり、匂いのする方角を指し示した。
『あっち。多分、三十二人。全員、身体洗ってない。臭い』
山賊団のいる方角だけでなく、人数まで予測したフーミルに驚くヴィルム以外の三人だったが、精霊獣だという事で何となく納得出来てしまった。
お互いの顔を見て頷き合ったヴィルム達は、フーミルの示した方角に向かって走り出した。
ヴィルムを兄と慕うフーミルの登場回でした。
書いてて思った事↓
「どうしてこうなった?(´=ω=`;)」
物静かで無口な妹のつもりで書いてたのにいつの間にか重度の匂いフェチ(ヴィルム限定)な変態妹に・・・。
次回は5/16投稿予定です。




