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過去編【03】 実力の伴わぬ願望

今回と次回の話は過去編になります。

前回の過去編は、ヒノリがメインだったので、今回はラディアにスポットを当ててみました。

“消滅”の危機(あの事件)より数年。


精霊達に愛されながら育てられたヴィルムは、九歳になっていた。


何度か“消滅”の兆候は表れたものの、サティアやヒノリ、精霊達の尽力により事なきを得た。


精霊達の教えにより、身体強化を覚えたヴィルムは、戦闘訓練が日課となっていた。


本日の戦闘訓練は、ラディアが担当しているようだ。


『足を留めるでないヴィル坊!相手に狙いをつけさせぬよう常に動くのじゃ!』


「うっ、くっそぉ!!」


ラディアに叱責され、苛立ちから破れかぶれで攻撃するヴィルム。


「うわぁあ!?」


当然、そんな攻撃がラディアに通用する訳もなく、あっさり避けられ、投げ飛ばされる。


『あほぅ!どんな状況でもヤケになるなといつも言っておるであろうが!』


「ぅぐっ!ディア姉、もう一手!!」


身体中あちこちを擦りむいてもヴィルムの闘志は少しも衰えていない。


ラディアも叱責はするものの、向かってくるヴィルムの相手をする事を楽しんでいるようだ。


「そこだ!」


『甘い!隙を突くのに声を出す奴があるか!視線も一点を見すぎじゃ!どこを狙っているのか丸分かりじゃぞ!』


突っ込んだヴィルムに、ラディアの掌底がカウンター気味に決まる。


地面を転がるように吹っ飛ばされたヴィルムは、目を回して気絶していた。






十数分後、ラディアに膝枕をされたヴィルムが目を覚ます。


自分が気絶させられた事を思い出すと、悔しげな表情を見せる。


「うぅ・・・、またディア姉に一発も当てられなかった。身体強化にも大分慣れてきたと思ってたのになぁ」


『かっかっかっ!そう簡単にヴィル坊から一撃をもらう訳にはいかんじゃろう。戦闘の経験も年季も違うわい』


若干、落ち込むヴィルムの頭を乱暴に撫でながら快活に笑うラディア。


ヴィルムは照れくさそうにしながらも、嫌がる素振りはせず、ラディアの手を受け入れている。


甘く、穏やかな雰囲気が流れる。


『ラディア、ちょっといいかしら?』


声のした方向に、ラディアは顔だけを向ける。


『ジェニーか。どうしたんじゃ?』


歩いてきたのは女王(サティア)の側近の一人、ジェニーだった。


『ヴィルム様の鍛練中に申し訳ないけど、侵入者よ。サティア様から迎撃の要請が出されているわ』


『承知した。やれやれ、ヴィル坊との逢瀬を邪魔するとは、無粋な奴らじゃのぅ』


ラディアは名残惜しそうに撫でていた手を頭から離す。


「ディア姉、おれも行く!」


『『ダメじゃ(です)!』』


その手が離れた途端、ヴィルムは飛び起きラディアに顔を寄せ、自分も行くと伝えるが、間髪入れずに却下される。


ラディアの表情に先程までの甘さはなく、真剣な目付きでヴィルムを捉えていた。


『多少強くなったくらいで自惚れるでない。ヴィル坊はまだまだ子供じゃ。それにヴィル坊が考えている程、冒険者達は弱くはないぞ?』


『そうですよ。ラディアに任せておけば大丈夫ですから、ヴィルム様は大人しく待ちましょうね』


「・・・わかったよ」


ヴィルムも二人が自分の事を思って言ってくれているのはわかっているので、渋々ながらも頷く。


『聞き分けの良い子じゃ。帰って来たら、また手合わせしてやろう。では、行ってくる』


大人しく聞き入れたヴィルムに、優しい笑みを浮かべながら頭に手を置いて出発を告げるラディア。


地面を這う様な走りで視界から遠ざかるラディアを見送るヴィルム。


(おれだって、みんなを助けたいのに・・・)


その胸中には、精霊(かぞく)の役に立ちたい思いが渦巻いていた。


『ヴィルム様。ラディアとの鍛練で汗をかかれている様ですから、水浴びをしてきては如何でしょうか。その間に食事を用意しておきますので』


「うん、ありがとうジェニー。そうするよ」


モヤモヤしながらも泉に足を向けるヴィルム。


ふと、着替えを持って行かなければと踵を返した彼は、すでにジェニーがいない事に気が付く。


恐らく食事を用意しに向かったのであろうが、この事がヴィルムの思いを刺激した。


(ちょっと行って、ディア姉の手伝いをするだけだ。おれがちゃんと戦えるってわかってもらえれば、次からは一緒につれていってくれるさ)


幼い子供なら誰でも陥る、楽観的な、きっと自分の思った通りになるだろうという、何の根拠もない思考。


愛され、大切に育てられてきたからこそ、精霊(かぞく)の役に立ちたいという思いは強い。


その強い思いと楽観的な思考が重なる事により、彼の頭からはラディアの忠告が抜け落ちていった。


ラディアの走っていった方向を見つめるヴィルム。


数分後、その場に彼の姿は見当たらなかった。






* * * * * * * * * * * * * * *






迎撃に向かったラディアは、すでに侵入者(冒険者)達と邂逅していた。


ヴィルムに向ける様な甘い表情は一切感じられず、誰一人逃がさないという気迫が伝わってくる。


一方、ラディアと相対した冒険者達は、上位精霊であろうラディアが現れた事に対し喜びを感じていた。


「へっ、まさか上位精霊が見つかるとはな。こりゃ今回の探索は大幅に黒字で確定だな」


「油断するな。上位精霊(こいつ)一体だけとは限らん。それに、ここで死ねばその黒字を喜ぶ事すら出来んのだぞ」


「そうよ。油断するなら街に帰ってからにしてよね」


冒険者達は三人、いずれも人間族のようだ。


大剣を片手で構える大男。


長槍で間合いを測る壮年の男。


弓に矢を番え、狙いを定める小柄な女性。


見事に物理構成のパーティだが、近、中、遠距離が揃っている、バランスのとれた構成とも言える。


(儂を獲物としか見とらんのぅ。今日を逃せば、ヴィル坊と鍛練出来るのはしばらく先じゃし、さっさと片付けるとするかのぅ)


ラディアは魔力を集中し、いつでも魔法を放てる様に準備するが、僅かに感じ慣れた気配に気付き、動揺を覚える。


(これは・・・ヴィル坊か!?あのたわけ!里を抜け出して儂を追い掛けてきよったな!?)


「貰ったァ!」


ラディアの動揺を感じた冒険者達が、一気に距離を詰めてくる。


『ちっ!』


気を逸らした事を自責しながらも、襲いくる大剣と長槍を捌いていくラディア。


「流石、上位精霊ね。でも、これならどう?〈ホーミングアロー〉!」


弾き手の指間接毎に一本ずつ矢を挟み、ほぼ同時に放たれる四連撃。


放たれた四本の矢は、ラディアとは見当違いの方向に向かっていくが、物理的にあり得ない軌道を描き、目標(ラディア)に殺到し始める。


『むっ・・・!』


(こやつら、なかなかやりおる。ヴィル坊は気配を消して隠れておるようじゃし、倒す事に集中した方が良さそうじゃの)


自分を追尾してくる四本の矢を的確に避け続けるラディアの背後に、長槍を構えた男が回り込む。


(後ろか。残念じゃが、そこは儂の死角にはならんよ)


余裕を持っているラディアだったが、端から見ればそうは見えなかったらしい。


「ディア姉!危ないっ!!」


突如、隠れていたはずのヴィルムがラディアの背後に躍り出る。


そこは、長槍の直線上。


『なっ━━━!?馬鹿者ォォオッ!!!』


もう間に合わない。


そう判断したラディアは、ヴィルムの身体に覆い被さる。


壮年の男が放った一撃が、ラディアの身体を捉えた━━━。

子供の頃は何の疑いもなく成功するって思ってましたね。

失敗した後でめっちゃ後悔してましたけど(笑)


今回は二話同時投稿です。

後編もお楽しみ下さい。

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