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【01】魔霧の森

『忌み子と呼ばれた召喚士』連載開始記念第一話!

取り敢えずお試しという事で、書き溜めた分を十話まで放出します!

楽しんで頂ければ幸いです。

━━━魔霧の森。


大気中の魔力濃度が高すぎる故に発生した、滅多に晴れる事のない魔力を多く含んだ霧に覆われた森。


視界も悪く、高濃度の魔力によって進化した強力な魔物が徘徊している為、進んでこの森に入る者はあまりいない。


各国の中央に位置する為、違法な物を取り扱ってる、表街道を歩けない闇商人や、珍しい魔物の素材で一攫千金を狙う冒険者達くらいだろう。


幸いな事に魔物達が魔霧の森から外に出ようとする事はない。


高濃度の魔力が漂う環境に慣れて、魔力の薄い外に出るのを嫌っているのではないかと言うのが、各国の学者達が出した暫定的な答えだ。






さて、そんな危険度の高い魔霧の森だが、一組の冒険者パーティが探索していた。


「カーマ。前回、探索を打ち切った場所まで来た。ここからは情報も少ないがどう進む?」


話を振ったのは、パーティの斥候役であるテューマー。


彼が腰に差した短剣や背負った短弓と矢筒は、相手にダメージを与える事より、対象の動きを阻害する事に重点を置いた装備だ。


自身が動きやすい様に、かつ緊急時にはすぐ対応出来る様に身につけている。


「そうだな・・・。セイヌ、テイシス、魔力の残量と食糧や薬品のストックはどんな感じだ?」


テューマーに話を振られたのは、パーティリーダー兼盾役のカーマだ。


使い込まれてはいるが、しっかり手入れされている片手剣と少し屈めば全身を覆い隠せる大きさの盾。


更に重厚でありながらも動作制限の少ない、見ただけで良質とわかる鎧を装備している。


今後の行動指針を決める為、魔導士のセイヌと回復役のテイシスに魔力と物資の残量を確認する。


「魔力量は六割くらいね。回復薬(ポーション)魔力薬(エーテル)の方は、今回あまり使ってないし、十分な数があるわよ」


いかにも魔導士といった帽子とローブ、そして魔力伝導率の高い魔樹の枝を加工した杖を装備しているセイヌが答える。


「私の方は魔力が七割です。食糧の方は約二週間、切り詰めれば約三週間くらいは大丈夫でしょう」


テイシスは白を基調としたローブを身に纏い、頭には水晶の様なサークレット。


セイヌの杖と同じ、魔樹の枝を加工したワンドと扱いやすいバックラーを装備している。


セイヌとテイシスの二人は空間魔法に属する収納魔法によって、探索や戦闘時に邪魔になる物資全般を収納しているようだ。


装備や立ち居振舞いから見て、この四人がベテランレベルの冒険者パーティである事がわかる。


「よし、このまま探索を続行しよう。前回より獲れた素材も少ないしな。但し、全員警戒レベルを上げてくれ。この場より先の情報が極端に少ないから、慎重に進んだ方がいい。何かに気付いたら些細な事でもいい。すぐに知らせる事」


カーマの提案に全員が頷く。


事実、魔霧の森の情報は、現在彼らがいる場所までのモノは多いが、その先、つまり森の中央部へのモノは極端に少なくなる。


何十、何百の冒険者パーティが探索に向かったが、情報や素材を持ち帰れたのは極僅かな者達だけだった。


希少なだけに、その極僅かな者達は巨万の富と高い名声を得ていた。


カーマ達のパーティも、そんな彼らを見てきたからこそ、この森の探索に踏み切った。


それは無謀な挑戦ではなく、少しキツいと感じればすぐに撤退する事も厭わない迅速な判断を適格に下し、生き延びる事を第一に考えた堅実な探索であった。


今回、探索続行を決めた事も、道中の魔物との戦闘や、メンバー達の疲労具合を見てからの判断である。


これならば何かが起こっても十分に対処出来る。


最悪、手に負えそうにない魔物が現れれば、すぐに撤退すればいいし、その準備も整っている。


素材が獲れなくとも未知の魔物の情報があれば、特別報酬も出る。


地形や植物等の天然素材の情報でも良い。


一攫千金はもう目の前。


自分達ならやれるハズ。


そんな思考が、ほんの僅かに霞ませる。


何十、何百といったパーティのほとんどが、戻って来れなかったという事実を。






激しい戦闘音が聞こえる。


カーマ達のパーティと、宝石の様に輝く果実を実らせたジュエルツリーとの戦いだ。


ジュエルツリーの果実は、高密度の魔力が詰まっており、その果実を食べれば魔力の絶対量が増えると言われている。


更にその味は絶品であるが、非常に入手が難しい故に、魔力を扱う者達だけでなく、各国の王族や貴族達が莫大な金銭を使ってでも手に入れようとする一品だ。


ジュエルツリーの存在自体が稀であり、ジュエルツリー自身が果実を守り渡そうとしない上、自然に落ちる果実は、そのままジュエルツリーが栄養として吸収してしまう。


その為、果実を採るにはジュエルツリーを倒すしかなく、只でさえ希少なジュエルツリーの固体数が更に少なくなり、入手はどんどん難しく、その価値はどんどん跳ね上がっていく。


尚、最新のオークション落札履歴には、二年前に出品された果実が即日、とある国の国家予算二割分に匹敵する額で落札されたと記載されている。


「よし、かなり弱ってきてるぞ!テューマー、周囲に他の魔物の気配はないな?」


ジュエルツリーから鋭くしなって襲い掛かってくる枝を、カーマは大きな盾で受け止め、片手剣で斬り裂きながら対応する。


「今は大丈夫だが、これだけの音を響かせ続けてるんだ。いつ他の魔物が来てもおかしくないぜ。急いで倒してしまった方がいい!」


テューマーは周囲を警戒しつつも、ジュエルツリーが動き回れない様に弓矢で牽制している。


「弱点の火炎魔法さえ使えれば一瞬だってのに・・・。あぁもう!鬱陶しいわね!〈ウィンドカッター〉!」


セイヌの放ったウィンドカッターが、ジュエルツリーの枝を斬り飛ばし、幹の部分に亀裂を入れる。


「キィィイイイィィィッ!?」


悲鳴をあげて苦しむジュエルツリー。


「セ、セイヌさん!?果実を傷付けない様に撃って下さいよ!?果実がダメになったらに冗談にもなりませんからね!?あと火炎系の魔法は絶対にやめて下さーい!」


パーティメンバーに回復魔法や支援魔法をかけつつ、一気に倒せない事にイライラしているセイヌに忠告を入れるテイシス。


「カーマ!あの亀裂に叩き込むぞ!俺とセイヌが合わせる。行けぇッ!!」


テューマーが短弓に矢を番え、ジュエルツリーに入った亀裂に狙いを定める。


「オオォォォオッ!〈衝破斬(しょうはざん)〉!」


「そこだ!〈クイックアロー〉!」


「さっさと倒れなさい!〈エアリアルバースト〉!」


同時に放たれた三人の攻撃。


テューマーのクイックアローは、矢の射射速度を飛躍的に上げる技である為、二人の攻撃より早く到達する。


クイックアローがジュエルツリーの亀裂に撃ち込まれ、亀裂の奥に更なる亀裂を作り出す。


そこに斬撃の直後に衝撃を与える衝破斬と、着弾時に周囲に衝撃破を撒き散らすエアリアルバーストが同時に決まる。


「ク・・・キィィ・・・キ・・・」


亀裂が身体の奥にまで達したジュエルツリーが、その衝撃に耐える事は出来ず、弱々しく呻いた後、その生命活動を止めた。


「やった・・・よな?」


手応えは感じていた様だが、信じられないといった表情で仲間達に問い掛けるカーマ。


「・・・あぁ。幹はボロボロだし、生命力も魔力も感じられねぇ。間違いなく死んでる。俺達の勝ちだ」


念には念をと、倒れたジュエルツリーの様子を注意深く監察していたテューマーは、自分達の勝利を伝える。


「果実には傷ひとつ付いてないわよ!しかも三つ!」


「うわぁ・・・。一体、いくらで売れるのか想像がつきませんねぇ」


嬉しさと驚きと達成感をごちゃ混ぜにしたような表情で、ジュエルツリーの果実を採取するカーマ達。


国家予算二割分の金額で落札されたジュエルツリーの果実が三つ。


捨て値で売って四人で山分けしたとしても、一生遊んで暮らせる金額が手に入るだろう。


「これ以上、危険を冒す必要はない。さっさと撤退して、ギルドに報告しよう」


「そうですね。強力な魔物が出てこないとも限りませんし」


ジュエルツリーの果実という、莫大な成果を得た彼らが撤退を選んだのは当然だろう。


四人は手早く装備や荷物を整えると、足早にその場を━━━


「・・・ちょっと待て」


━━━去ろうとする寸前、テューマーから待ったがかかる。


口元に人差し指を当て、静かにするように、もう片方の手で何かが近づいてる事をメンバーに伝える。


流石、ベテランの冒険者パーティという所か。


先程までの浮かれた空気は霧散し、すぐに戦闘に移れる様に身構える。


「へぇ?アンタ、良い勘してるね」


その声はテューマーのすぐ後ろから発せられた。


「っ!!?」


驚きと同時にその場を跳び退くテューマー。


僅かに遅れて他の三人もテューマーに続く。


「反応も上々、と。ここまで来れたのはマグレって訳じゃなさそうだ」


すでに戦闘体勢にあるカーマ達に対し、声の主は感心した様に頷いている。


声の主を視認した四人は、不信感を抱く。


年の頃は、おそらく15歳前後。


端正な顔立ちだが、目付きの鋭い青年が立っていた。


おそらく布製だと思われる上下服は、防具として機能しているとは思えない。


精々、駆け出し冒険者が採取系の依頼に向かう際に着るような、ちょっと丈夫なだけの物だろう。


更には武器すら持ってないのだ。


危険な魔物が徘徊する、この森に入る様な装備ではない。


だが最も懸念すべきは、彼の黒目と、黒髪。


「い、忌み子・・・?」


「黒目で黒髪・・・、間違いねぇだろ」


「で、でも、忌み子は生後一年で必ず消滅するって言いますし、何らかの理由で髪を染めてるだけかも?」


「どちらにしたって、この危険な森にあんな軽装で入って来てるのよ。普通じゃないわ」


警戒するカーマ達だが、青年は意にも介さずジュエルツリーの検分を始める。


「ふむ。亀裂を入れて衝撃で内部から破壊したのか。かなりの精度と威力がないとコイツは倒せない」


検分を終えた青年は、カーマ達に向き直り、口を開く。


「アンタ達は冒険者達の中でも上位の人間だと見るが、当たってるかい?」


「・・・あぁ。俺達はAランクパーティ〈遺志無き魔剣〉だ。そのジュエルツリーは今さっき倒した。だが、それがどうした?」


青年の質問に答えるカーマだが、その目に油断はない。


青年に不審な動きがあれば、すぐに斬りかかれる体勢だ。


「この辺りは俺の領域(テリトリー)でね。他の冒険者達に影響力のあるアンタ達がその実を持ち帰っちまうと、それを求めて他の冒険者達が殺到するようになるだろ?困るんだよ。ここを荒らされるのは」


カーマ達四人の目付きが更に厳しくなる。


青年は、その視線を意にも介さず()()する。


「その実は置いていけ。そうすりゃ生かして帰してやる」

最後にやっと主人公が出せました。

何かカーマ達の方が主人公っぽいですね。

主人公の名前も同時投稿の話の中に出てきます。

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