【15】強さへの憧れ
予告通りにクーナリアの訓練回です。
「クーナリア、相手に意識を向けすぎて魔力操作が雑になっている。集中を乱すな」
「は、はいですっ!お師様!」
ファーレン郊外。
のどかな雰囲気が漂う草原に、似つかわしくない打撃戦の音が響き渡る。
ヴィルムとクーナリアだ。
側にはメルディナも立っており、真剣な表情で二人の戦闘を眺めている。
クーナリアの攻撃を捌きつつも、良くない点を指摘し矯正していくヴィルム。
戦闘をしながらの指導なので、受ける側のクーナリアは必死になって食らいついていく。
しばらくの間、戦闘訓練を行っていたが、クーナリアが限界を迎えて倒れてしまった所で休憩に入る。
「はきゅぅ~・・・」
目を回しながら荒い息を整えようとするクーナリアをゆっくり地面に寝かせ、毎日恒例となっている魔力循環経路の再生治療を施すヴィルム。
「クーナリア、動けない時でも魔力の循環を意識しろ。身体の隅々まで意識的に循環させれば、それだけで体力の回復も早くなる」
「はぁ、はぁ、は、はいぃ~、わかりゅ、まひたぁ・・・」
指導に従い、疲れを感じながらも流れ込む魔力を意識し出すクーナリア。
そこに、先程まで訓練を見学していたメルディナが近付いてきた。
「は~・・・、毎日見てて思うけど、ヴィルの魔力操作と変換技術って超一流よね。普通、他人への魔力譲渡なんて変換効率が悪すぎてほとんど効果ないわよ?」
ヴィルムが何気なく行っている魔力の譲渡。
魔力を譲渡する際、その者に合った質に変換しなければ成功しない、成功しても譲渡した魔力の大半が消失してしまう超高難度技術だったりする。
なお、回復魔法については、魔力譲渡が精神的作用なのに対し、回復魔法は肉体的作用なので、そこまで難しい魔法ではない。
それでも使用出来る者は限られるのだが・・・。
「幼い頃から精霊達に魔力を分けたりしていたからな。相手が誰だろうが、魔力の質さえわかれば譲渡するのは難しくない」
「それが普通じゃないって言ってるのよ」
『ねぇねぇヴィルム!それならワタシにも魔力くれない?』
ひょっこりと出てきたのは、メルディナと契約している精霊、ミゼリオ。
ファーレンに入ってから姿を見せなかったのは、人目につくのを避ける為だ。
召喚士の契約精霊と違い、精霊術士の契約精霊は、召喚したり送還したりする事が出来ない。
例えば、特殊な魔法や魔道具によって捕縛されても脱出する術がないのだ。
故に、契約者以外の目につく事を極端に嫌う。
ヴィルムは精霊を家族と呼ぶ人間、クーナリアはメルディナの親友に値する存在である事から、この二人は特別なのだろう。
「それは構わないが、あまり俺から魔力を受け取ると、メルディナの魔力を受け付けなくなっちまうぞ?」
『へ?そうなの・・・?』
「ヴィル、どういう事?」
メルディナとミゼリオが説明を求めてくる。
「基本的に質の違う魔力は譲渡しても効果がなかったり、薄かったりするのは知っていたよな?」
ヴィルムの問いに、頷くメルディナとミゼリオ。
「それなら精霊と契約者の間で魔力の譲渡が可能なのは、何でだと思う?」
「それは、契約した時にミゼリオと繋がった感じがして・・・、それからは魔力を渡そうって思うだけで渡せてたから、深くは考えてなかったんだけど・・・。言われてみれば、気になるわね」
新たな未知を見つけたメルディナの目が輝き始める。
「その繋がった感じが、俺達が共鳴と呼んでる物だ。契約した者同士は、魂レベルでの繋がりが発生する。この繋がりを通じて魔力も同質の物に変換される為、譲渡が容易になるんだ」
『ほえ~、そうだったんだ~』
「さて、そこで問題になるのが他者からの魔力の譲渡だ。少量・・・というよりは契約者から譲渡される魔力量以下であれば問題ないが、それ以上の魔力を受け取ると共鳴に異常が出る。妖精や精霊は魔力による影響が大きいから、より多くの魔力を受け入れようと共鳴が乱れてしまう。精霊と契約者との間で、魔力循環経路の異常が起こってしまうって訳だな」
メルディナとミゼリオの表情が曇る。
「・・・俺にそんな事するつもりはないから、安心しろ」
若干、恐れを含んだ視線をヴィルムに向けるが、本人にその気がない事がわかり、ほっとする二人。
「・・・よし、クーナリア、もういいぞ」
ヴィルムはクーナリアを額をペシッと軽く叩いて終了を知らせる。
起き上がって「んーっ」と伸びをするクーナリアを見て、先程の訓練で気になった点を話し始めた。
「軽く流した程度の訓練だったが、大体の問題点はわかった。現状、クーナリアは成長不全だったせいで攻撃範囲が極端に短い。今後は成長の可能性もあるが、それを補えて、且つ成長した後でも訓練通りに使える武器で訓練した方がいいな」
『あ、はいは~い!攻撃範囲の長さなら、やっぱり弓がいいんじゃない?』
元気よく提案するミゼリオだが、それを聞いたヴィルムの反応は鈍い。
「うーん・・・。クーナリアは牛人族だろ?成長した際、今と同じ感覚で弓を引いたら・・・乳房が千切れ飛ぶぞ?」
「ひぅっ!?」
ヴィルムの言葉を想像してしまったのか、小さな悲鳴をあげるクーナリア。
若干、涙目になりつつ胸を両手で庇い、身体を縮こまらせて震えている。
「個人的には槍や斧あたりを薦める。扱いやすさや動きやすさを選ぶなら槍、一撃の破壊力を求めるなら斧って感じだな。別に他の武器がいいならそれでも構わんぞ?クーナリアが使いたい武器を選ぶといい」
「あ、あの、それだったら・・・、斧を使ってみたい、です」
おずおずしながらも小さく手を上げて、自分の希望を伝えるクーナリア。
「クーナは戦闘自体ほぼ初めてなんだし、槍の方がいいんじゃない?ヴィルの言う通り、扱いやすいわよ?」
メルディナはクーナリアの選んだ武器が意外だったのか、少し驚いた様に槍を薦める。
「うん、メルちゃんやお師様が言う通り、槍の方が使いやすいんだと思う。でも、私は武器を持つ事自体初めてだし、どっちを使っても、しばらくは上手く戦えるとは思えないです」
少し自嘲気味に俯くクーナリアだったが、パッと頭をあげる。
「だったら、私は斧が使いたいです。今までに出来なかった、力強さを身に付けたいです」
その瞳には強い憧れと決意が宿っていた。
病のせいとは言え、今まで体力的な部分で役立たずだったクーナリアは、力強さに憧れていた。
それ故の選択。
「クーナリアの気持ちはよくわかった。明日からは身体強化に加えて、斧術の訓練もしていく事にしよう」
「ヴィル、軽く言ってるけど大丈夫なの?ヴィルが斧を使ってる姿なんて見た事ないけど・・・?」
メルディナの心配も当たり前だろう。
武道全般に言える事だが、しっかりと基礎から教えられる者から教わらないと成長が望めないからだ。
まだ、自己流で技を磨きあげる方がマシである。
「踏み込んだ所までは無理だが、基本だけならどんな武器でも扱えるぞ?精霊達が武芸に学問にと多方面で叩き込んでくれたからな。まぁ、結果的に格闘術が性に合ったから、拳が得意になった訳だが」
そう言って握り拳をつくるヴィルムの表情は、誇らしげに見える。
(私なんかが、お師様みたいに強くなれるのかな・・・?)
不安な思いが表情に出ている事に気付いたヴィルムが、クーナリアの後頭部を軽くはたく。
「あたっ!?お、お師様・・・?」
「何を不安がってるかは知らないが、約束した以上はきっちり面倒見てやる。少なくとも、俺に一撃入れるまでは逃がさないから、覚悟は決めておけよ?」
「は、はいですっ!」
自身が師と仰ぐヴィルムからの宣言。
戦闘経験どころか、体力すらない自分に向けられたその言葉は、強さに憧れるクーナリアの心に響き渡った。
(お師様が鍛えてくれるって言ってるんです。私は、強くなるんです!)
決意と共に、「むんっ!」気合いを入れるクーナリア。
メルディナやミゼリオは、そんなクーナリアを見て声援を送っている。
「何はともあれ、まずは武器選びからだな。今日の訓練はここまでにして、クーナリアの武器買いにに行くとしよう」
この話を執筆しているのは連載開始一ヶ月前くらいですが、このペースだと六月くらいから週一更新になりそうです。
個人的に、身長以上の巨大な武器を振り回して戦う女の子は何か可愛いと思いますw
次回は5/9更新予定です。