【14】ヴィルムの身体強化術講座
今回は説明回みたいな感じです。
多くの作品に使われる技や魔法は、作品毎に設定が違ってくるので、どうしても説明回が必要になりますね。
※5/7:メルディナのクーナリアに対する呼称の修正
・クーナリア→クーナ
シャザール達と別れ、街の散策途中に見つけた宿屋に泊まる事にしたヴィルム達。
〈飛竜のとまり木〉
メルディナが選んだ宿である。
朝夕の二食付き、風呂トイレ完備で清掃も行き届いているさっぱりとした宿だ。
「いらっしゃい。宿泊は一人一泊銀貨五枚、相部屋なら一人銀貨四枚だよ。ちょっと高いと思うかもしれないけど、その分ちゃんとしたサービスは提供するからね」
気の良い猫獣人の女将さんが安心する笑顔で出迎えてくれる。
忌み子の黒目黒髪を見てもその笑顔が崩れる事はなく、しっかりと客として認識している事がわかる。
「とりあえず、三人を二泊で、私とこの子は相部屋でお願いするわ。支払いを━━━」
メルディナが、懐に手を入れた所で固まる。
奴隷商人達に捕まった時、持ち物を盗られていた事を失念していたようだ。
メルディナの様子に気付いたヴィルムが、さりげなく前に出る。
「金貨四枚と銀貨五枚だ。とりあえず五日間、世話になる」
「おや、女性にお金を出させずに自分が出すなんて、お兄さん良い男じゃないか。確かに頂いたよ。部屋は娘に案内させるからね。ルル~、お客さんを部屋まで案内しとくれ~」
女将さんは、ヴィルムがメルディナにお金を出させまいとした様に見えたようだ。
女将さんの声に反応して、カウンターの後ろの部屋から十歳前後の可愛らしい、女将さんと同じ猫獣人の女の子が出てきて、ぺこりと頭を下げる。
一瞬、躊躇う様な視線をヴィルムに向けたものの、すぐに笑顔を浮かべて対応を始めた。
「当店を御利用頂き、ありがとうございます。お部屋の方に御案内致しますので、こちらへどうぞ」
女の子に続き、部屋に向かう途中で、メルディナがヴィルムに声をかける。
「(あ、ありがと。財布まで盗られてたの完全に忘れてたわ)」
ヴィルムは「気にするな」とでも言うように、手をひらひらさせて答えた。
部屋に案内された後、一休みしたヴィルムはメルディナ達の部屋を訪ねる。
「メルディナ、クーナリア、ちょっといいか?」
ヴィルムの声に反応したメルディナが、部屋の扉を開けて出迎える。
「どうしたの?何か使い方がわからない物でもあった?」
「いや、とりあえず拠点となる場所が決まったから、明日からでもクーナリアに戦闘技術を教えようと思ったんだが・・・。クーナリア自身の知識と経験がどの程度のものか知っておきたくてな」
「なるほどね。いいわ、入って」
メルディナに許可を貰って部屋に入ったヴィルムは、クーナリアの前に座る。
「クーナリア。約束通り、明日から戦闘の基本技術と身体強化を教えていく」
「はい!よろしくお願いします!」
「だがその前に、クーナリア自身の戦闘経験と身体強化について、どれくらい知っているのかを教えてくれ」
「えっと、戦いの経験はありません。メルちゃんと旅をしていた時に、邪魔にならないように逃げたり、隠れたりしてただけです。身体強化は、魔力を使って身体能力を上げる魔法の一種、という事は知ってます」
ヴィルムは「ふむ」と、口元に手を添えて何かを考えているようだ。
「よし、最初から順を追って説明していこう」
「あ、私も聞いていてもいい?私の知ってる身体強化とヴィルムの身体強化ってちょっと違ってるみたいだし」
「あぁ、別に構わない。わかりにくかったり、疑問を感じたら遠慮なく言ってくれ」
メルディナも参加する事になり、ヴィルムの身体強化に関する講義が始まった。
「さて、クーナリアの言った通り、身体強化ってのは身体能力を向上させる魔法だ。例えば、クーナリア自身の、素の身体能力を1だとしよう。そこに魔力で身体能力を向上させ、3にでも4にでもするのが身体強化だ。」
「クーナ、ヴィルは3にでも4にでもって言うけど、身体強化には個人差はあれど限界は存在するわ。この限界を越えて身体強化をしてしまうと、逆にダメージを受けてしまうの」
ヴィルムの講義に捕捉するようにメルディナが付け加える。
「それが、メルディナが知る身体強化か?」
「えっ?えぇ。魔導士や治癒術士より魔法戦士みたいな魔力のある前衛の方が効果が高いっていう風に習ったわ。・・・違うの?」
「いや、間違ってはいない。ただ、メルディナの言う個人の限界ってのは、通常の状態での限界に過ぎない。前衛の方が効果が高いってのは、身体を鍛えているからより大きい強化にも耐えられるって訳だ」
自身の知らない話が出てきた為、メルディナの好奇心を刺激してしまったらしい。
クーナリアの為の講義のハズが、いつの間にかメルディナの方が食い付いて質問している。
「つまり身体強化の限界を伸ばすには、身体を鍛えればいいって事ね?」
「勿論、それも有効なんだが・・・。クーナリア」
「はい!」
「これ以上入れると壊れてしまいそうな器に、まだ物を入れて運びたい時は、どうやって使えばいいと思う?」
「うぇえ?えーっと・・・、ゆ、ゆっくり入れて、そーっと運びます?」
ヴィルムに呼ばれて元気に返事するクーナリアだったが、続く問い掛けに混乱し、自信なさげに返答した。
一緒に考えていたメルディナが「あっ!」と何かに気付いた様な声をあげるが、ヴィルムがジェスチャーで黙っている様に伝える。
「慌てて答えなくていい。ゆっくり入れても、そーっと運んでも壊れてしまうかもしれないだろ?安全に使うにはどうするのがいいと思う?」
ヴィルムは答えを焦らせない。
自分で考えて答えを出すという行為は、普段の生活だけではなく、戦闘においても重要である為、クーナリア自身に考えさせているのだ。
しばらく唸っていたクーナリアだったが、先程のメルディナと同じ様に「あっ!」と声を出すと、ヴィルムの方に向き直る。
「補強して使います!その方が安全です!」
「正解だ。補強して、強度を上げてやればいい」
目を輝かせて答えるクーナリアの頭を、ポンポンと撫でるヴィルム。
「通常の身体能力が1としよう。身体強化を含めた能力の限界が3とすると、そいつの通常の強化限界は2って事になる。これ以上無理して強化してしまうと自身にダメージが入ってしまう訳だが、身体強化の為の器、つまり身体自体をを2、強化してやればダメージが入る事はなくなるんだ。つまり、魔力の消費は増えてしまうが、魔力がある限り、強化限界が存在しなくなるって事だな」
説明を終えたヴィルムが、メルディナの方を向いてみると━━━
「こう?いや、こう?でも上手く発動出来てる感じがしないって事は・・・。あぁもう!やっぱり固定概念って邪魔になるわね!」
━━━早速、新しく学んだ方法を試そうと試行錯誤していた。
「わ~、メルちゃん、今のお話だけでわかったんだ・・・。私に出来るかなぁ・・・」
一方、話を聞いただけではイマイチよくわからなかったクーナリアは、すでに実践しようと試みるメルディナを見て、少々落ち込んでいるようだ。
「メルディナは基本の身体強化は出来てたんだ。気にする事じゃない。むしろ何も知らないクーナリアの方が習得が早いかもしれないぞ?」
「ほ、本当ですか!?」
「ま、クーナリアの努力次第だがな。今日の所はいつも通り、循環している魔力を感じとる練習だな。本格的な訓練は明日からだ」
「はいっ!わかりました!」
ヴィルムの言葉に元気を取り戻したのか、両手を握り締め、気合いを入れるクーナリアだった。
身体強化の説明回でした。
次回はクーナリアの訓練回になる予定です。
次回更新は5/8です。