【13】忌み子とは
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「貴様がワシらを呼びつけた男か!忌み子の分際でふざけた真似をし━━━ぐひゅっ!?」
開口一番、ヴィルムに突っ掛かってきた男は、他ならぬヴィルムによって首を締められ、強制的に黙らされる。
怒気を含めた視線を向けてくる周囲の者達に、それを遥かに上回る殺気を叩きつけるヴィルム。
桁違いの殺気を向けられた者達は、辛うじて意識は保っているものの、手足は生まれたての小鹿の様に震えていた。
「ヴィル、落ち着いて。目的は話し合いでしょ?」
「お師様、気持ちはわかりますが、まずはお話をしないとどうしようもないですよ?」
二人の言葉を聞いたヴィルムは、締め上げていた男を解放すると、彼等を連れてきたシャザールへ視線を向ける。
「確かに誰でも連れて来いとは言ったが、“話を聞きたい奴”とも言ったハズだ。視界に入った瞬間に絡んでくる様な奴はお帰り願いたいんだが?」
「す、すまない、ヴィルムくん。彼を含め、連れてきた者達には充分に説明したんだが・・・。彼は人間族である分、嫌悪感も他の者達より大きかったようで・・・」
解放された男は何度も咳き込み、忌々しげにヴィルムを睨みながらも先程叩きつけられた殺気を思い出してか、何も言わない。
他の者達もヴィルムに対してあまり良い感情を持っていないようだ。
「はぁ、さっさと話に入った方が良さそうだな。シャザール、訓練所って所に案内してくれ」
「わかった。こっちだ」
シャザールが歩き出すと他の者達は慌てて着いて行く。
ヴィルムに対しての感情に恐怖心まで加わったようだ。
(外界ってのは面倒な事も多いんだな)
意図せずに溜め息を吐いたヴィルムは、シャザール達の後を追って歩き出した。
少し歩いた先にあったのは闘技場の様な施設だった。
いつの間に運んだのか、楕円形の大きめのテーブルと人数分のイスが設置されてある。
全員が座ったのを確認すると、ヴィルムが口を開いた。
「さて、これから話す事を信じる信じないはアンタ達に任せる。ただし、それを理由に俺達へ絡む様な真似はやめてくれ。質問にはまとめて答えるから、途中で口を挟むのも禁止な」
躊躇わずに頷く者、何かを考えながら頷く者、不満な顔をしつつも頷く者。
全員が頷いたのを確認してから、ヴィルムは話始めた。
人々の言う忌み子とは、異常なまでに膨大な魔力を宿した赤子である事。
黒目黒髪へ変化は、その蓄積されていく魔力による色素の変化である事。
“消滅”の原因が、膨大な魔力の蓄積と制御不能による“魔力の暴走“である事。
“消滅”を防ぐ方法と、現状ではそれが難しい事。
自分達が想像してなかった話を聞かされた面々の表情は驚愕に染まっている。
「とりあえず、アンタ達が言う忌み子に関してはこんな所だ。ここまでで何か質問は?」
ある程度まで話した所で、シャザール達に質問の有無を問うヴィルムだが、一様にして彼等の表情は堅い。
「貴方の話ですと、私達の認識と同じく、一年後に起こる消滅は避けられない様に聞こえましたが、貴方はしっかりと成長を遂げています。その理由と経緯を説明してもらえないと納得は出来ません」
シャザール達の中でも若い虎獣人の女性が問い掛けると、先程首を締められた偉そうな男が便乗して騒ぎ始める。
「そ、そうだ!それにお前の話には証拠も何もないじゃないか!忌み子の言う戯れ言なぞ信用出来るか!!」
今までの鬱憤を吐き出す様に怒鳴り立てる。
「予想通りの反応をどうも。そう言うだろうと思って、証明してくれる人と連絡を取ってあるよ。シャザール、喚んでもいいかい?」
「い、今からかい?僕は構わないけど・・・」
「そうか、読めたぞ!そうやって呼びにいくフリをしてここから逃げ出すつもりだな!忌み子の浅知恵なんぞ通用すると思うなよ!」
顔色ひとつ変えないヴィルムの要求に、動揺するシャザールと鬼の首をとったかの様に罵声を浴びせる偉そうな男。
一応、シャザールの許可を得たヴィルムは、その様子を尻目に立ち上がると魔力を集中し始める。
━━━紅き魂を持つ者よ━━━
ヴィルムの声が、屋外であるハズにも関わらず、空間に響き渡る。
━━━我、求むは汝が存在━━━
ヴィルムの身体から吹き出す、荒々しくも美しい紅い魔力の光。
━━━我が魂に寄り添いて━━━
シャザール達、騒いでいた男すらも、その光景に目を奪われ、唖然としている。
━━━仇なす者を灰塵に帰せ━━━
紅い光の奔流は、燃え盛る炎への姿を変え、その魔力の主たるヴィルムの周りをうねりをあげて飛び回る。
「降臨 <紅鷹姫ブレイズフェルニル>」
その名を口にすると同時に、燃え盛る炎は収束し、人型を形成し始める。
弾ける様に飛び散った炎の中から顕れたのは、炎を司る鷹の精霊、ヒノリであった。
「は・・・は?じょ、上位精霊か・・・?」
「ば、馬鹿な・・・、召喚士の中でも極僅かしか契約した者がいないんだぞ・・・」
「ま、待って下さい。上位精霊にあんな翼を持つ精霊はいなかったハズですよ」
ざわめく周囲の声に反応するかの様に目を開けるヒノリ。
『ヴィルム、久しぶりね。喚んでくれて嬉しいわ』
「こっちこそ、応えてくれて嬉しいよ。ヒノリ」
ヴィルムに対して惚れ惚れする様な柔らかい笑みを浮かべる。
『メルディナとクーナリアも。ヴィルムと仲良くやってる?』
「はい、お久しぶりです。ヒノリ様。ヴィルには色々と助けて貰っています」
「ヒノリ様、お久しぶりです。お師様は色んな事を教えてくれるので、毎日が楽しいです!」
『そう、それは良かったわ』
メルディナとクーナリアにも親愛の表情で接する。
ヴィルム達以外の者達が茫然自失の中、最初に意識を取り戻したのは、やはりシャザールだった。
「す、すまない、ヴィルムくん。い、今のは召喚魔法だろうか?だとすると彼女は精霊・・・人型である事を考えると上位の精霊だと思うのだが、一体どうやって・・・?」
しかし、やはり完全には立ち直ってないのだろう。
言葉の端々に浮かぶ動揺が隠しきれていない。
「シャザール、それを説明する前にひとつ、訂正してやる」
「て、訂正・・・?」
シャザールがゴクリと喉を鳴らす。
他の者達も固唾を飲んでヴィルムの言葉を待っている。
「彼女は上位精霊じゃない」
その言葉に、僅かながら緊張が弛むが━━━
「彼女は上位精霊の更に上の存在、精霊獣だ」
━━━その直後、ヴィルム達三人以外の者達は、更なる驚愕と混乱に包まれる事となった。
精霊獣。
歴史上、その姿を確認出来た事すら稀であり、ましてや精霊獣と契約した者など存在しない。
「うぅうぅ嘘だっ!精霊獣は伝説の話にしか出てこない精霊だぞ!忌み子の貴様なんぞが契約出来る訳がない!!」
動揺した偉そうな男は、忌み子への嫌悪感もあり、精霊獣の前で言ってはならない事を口にしてしまう。
突如、先程のヴィルムから受けた桁違いの殺気を、更に上回る威圧がその場に降り注ぐ。
『黙って聞いていれば貴様・・・、貴様如きにどう思われようが毛ほどにも気にならんが、我が主、ヴィルムに対する侮辱は許さんぞ』
闘技場内の温度が一気に上昇し、まるで砂漠の様な状態になる。
先程まで優しい笑みを浮かべていたとは思えない、視線だけで射殺せそうな表情をした精霊獣。
あまりの殺気を直接向けられたその男は、顔中、身体中からあらゆる液体を垂れ流して気を失った。
それを見たシャザールは、慌てて跪き、許しを乞う。
「せ、精霊獣様!どうかお怒りをお鎮め下さい!この男にはきつく言い聞かせます!二度とこの様な真似はさせませんので、どうか!どうか・・・っ!」
必死なシャザールを見て、ヒノリはヴィルムに視線を移す。
「ヒノリ、今回は許してやってくれ。この話し合いは、俺達にもメリットがあるからな」
『・・・いいだろう。我が主の顔を立てて、今回に限り、水に流してやる。ただし覚えておけ。次は、ない』
「あ、ありがとうございます!」
頭を下げるシャザールに従い、気絶した男以外の者達も謝罪に加わる。
シャザールが気絶した男を起こし、事情を説明。
二度と同じ様な事をしないと約束させた上で、ヴィルムが話を再開する。
「さて、話を戻そう。俺は両親に隠されながら育てられていた訳だが、当然、一年で“消滅”の危機を迎えた。その時に俺を助けてくれたのが、当時、まだ精霊だった頃のヒノリだ」
『幼い頃の主を見て気に入ってしまってな。お前達で言う所の一目惚れという奴だ。出会ってしばらくの間は様子を見るだけだったのだが、ある日、突如として主の魔力が暴走し始めたのだ』
思い出す様に語るヒノリだったが、実は事前に、シャザールが人を集めている間に、ヴィルムとの繋がりを利用して打ち合わせた通りに話している。
『我は主の代わりに魔力を放出しようと主の魔力を受け入れ始めたのだが、一向に暴走が収まらん所か、精霊であった我の魔力量を越える魔力が流れ込んできてな。自らの魔力量以上の魔力を得た事で、上位精霊を越えて精霊獣へと進化したという訳だ』
懐かしげに話すヒノリ。
「ヒノリに助けられたおかげで、俺は生きていられるって事だ。彼女がいなければ、他の忌み子と同じ様に“消滅“の道を辿っていただろうよ」
肩を竦めてみせるヴィルム。
話を聞き終えた面々は、信じられないながらも、今までに見た事がない精霊獣が存在する以上、信じざるを得ないといった感じだ。
「これで忌み子の話は終わりだ。約束は守れよ?シャザール」
「え、えぇ。勿論です、ヴィルムくん。皆さんもヴィルムくん達への過剰な接触や対応は禁止ですよ。わかりましたね?」
一様に頷く面々は、次々に謝罪の言葉を口にする。
「ヴィルムさん、お話を信用せず申し訳ありませんでした。私はこの街の代表を務めさせて頂いております、シエラと申します。何かお困りの際には力になる事をお約束しましょう」
先程、話だけでは信用出来ないと発言した虎獣人の女性が、素直に頭を下げる。
「アッセムだ。生産系ギルドのまとめ役をしておる。本職は鍛冶師だがな。炎を司る精霊獣様と契約した貴殿を疑った事、深く反省しておる。すまなかった。もし何か力になれる事があれば、是非とも協力させてくれ」
続いて謝罪したのは、小柄だが筋骨粒々のドワーフ族の男。
ドワーフ族にとって、炎の精霊獣とは神に等しい、信仰するに値する存在であった為、その主たるヴィルムに対しての非を認める事に抵抗はなかったようだ。
「ヴィルムはん、ホンマにすんまへんでした。ウチは商人ギルドの総括やっとります、ナナテラ言います。何か入り用の際は勉強させてもらいますよって、ウチのギルドに寄ったって下さい」
訛った口調で頭を下げたのは、狐獣人の女性。
仕事柄か、割り切る事には慣れているのだろう。
そして、ヴィルムと精霊獣に多少なりとも繋がりを持とうという意図もあった。
「・・・悪かったな。ヒュマニオン王国外交官のバゼラードだ」
最後にばつが悪そうに頭を下げたのは、ヴィルム達に会ってから騒ぎ立てていた人間族の男。
まだ忌み子 に頭を下げる事に抵抗があるらしく、素直な謝罪とは言えなかったものの、最初に見せた嫌悪感丸出しの表情は鳴りを潜めていた。
「謝罪は受け取る。しばらくはこの街を拠点に色々学ばせてもらうつもりだから、その時は頼らせて貰うよ」
それぞれに思惑はあったのだろうが、全員からの謝罪があった事で、口調こそ変わらないヴィルムだったが雰囲気から刺が薄れていた。
『話は終わったようだな。では、我は還らせて貰おう。ヴィルム、また喚んでね。メルディナ、クーナリア、ヴィルムと仲良くするのよ?』
「あぁ、今日はありがとう、ヒノリ。また、頼らせて貰うよ」
「ヒノリ様、またお会い出来る時を楽しみにしております」
「わかりました!ヒノリ様もお元気で!」
別れの挨拶が終わると、ヴィルムは魔力でヒノリを送り還すゲートを作り出す。
ヒノリは、ヴィルム達に『じゃあね♪』とウィンクしながらゲートの奥へと消えていった。
精霊獣の召喚と送還。
これだけでも人一人では賄えない魔力が必要な事は想像に難くない。
シャザール達は、莫大な魔力を消費しているにも関わらず、平然としているヴィルムを見て、改めて忌み子の話が本当である事を認識する。
話を終えたヴィルム達は、冒険者ギルド発行の身分証を貰い、街の散策に乗り出すのだった。
炎の精霊なのに水に流すとはこれ如何にw
本当の中に嘘を混ぜると見抜かれ難いそうです。
精霊獣という伝説上の存在を目にして混乱していた事も手伝っていたと思います。
なお、作者は嘘を吐くとすぐにバレる人間ですw
どうも顔や態度に出やすいらしいですorz
次回は5/7更新予定です。