【12】ギルドマスター
常に一話~二話分のストックを持っているように執筆を心掛けています。
ネタだけなら結構あるんだけどなぁ・・・。
先程出ていった人間族の冒険者達が連れて来た大男は、ヴィルムを睨み付けながら近付いて来た。
「テメェがコーザの話してた忌み子か?何を考えてるかは知らんが、この街で好き勝手出来ると思うなよ」
「カバッカさん!俺達も手伝います。早くコイツを追い出してしまいしょう!」
どうやら大男も他の冒険者達も力づくでヴィルムを追い出そうという腹積もりらしい。
「お前達に指図される謂れはない。手続きの邪魔だから大人しくしてろ」
「何だとぉ?どうやら口の聞き方も知らねぇらしいなぁ。叩き出すついでに教育してやるよ!表に出やがれ!」
言い終わらない内に、来た時と同様、ズカズカと出ていくカバッカ。
その様子を見ながら、ヴィルムは首をすくめる。
「はぁ、言われて引き下がる様な輩じゃないか。受付さん、すぐ戻ってくるから、身分証の発行を済ませておいてくれ」
一触即発の雰囲気におろおろしているセリカにそう言うと、ヴィルムはカバッカ達に続いて表通りに出た。
表通りには、すでに騒ぎを聞きつけた野次馬達が集まり始めている。
拳を鳴らして待ち構えるカバッカへと近付こうとしたヴィルムに、メルディナが小さな声で話し掛けてきた。
「ちょっとヴィル、戦うのは良いけど、殺しちゃダメだからね?」
「・・・ダメなのか?」
ヴィルムの返答に「やっぱり・・・」と、こめかみを押さえるメルディナ。
「こんなに人目の集まる所で殺しちゃうとこれからの行動に支障が出るのよ。せめて行動不能にするくらいに抑えて頂戴」
「わかった。殺さずに無力化すればいいんだな」
話を終えて振り返ると、すでに周囲を囲む野次馬は相当な数になっており、即席の闘技場の様な雰囲気に包まれている。
「相棒との相談は終わったか?まぁテメェはともかく、そっちの二人は追い出したりしねぇからよ。俺が面倒を見てやってもいいぜ?だから、安心してボコられろや」
「喋ってる暇があるなら掛かってきたらどうだ?何だったら━━━」
スッと半身をずらし、いつの間にか後ろに迫っていた何かを鷲掴みにする。
〝ゴシャッ!!〟
鈍い音と共に石床に叩きつけられたのは、先程絡んできた冒険者だった。
カバッカに意識が向いている内に背後に回り込み、襲撃するつもりだったのだろう。
逆に不意を突かれた形になったコーザは、受け身すらとれず石床に叩きつけられた事で、ビクビクと痙攣している。
「━━━こういう不意打ちも歓迎してやるぜ?」
不敵に笑うヴィルム。
「この野郎!よくもコーザを!」
「はんっ!そっちから絡んできた上、不意打ちまでしてきたクセによくももクソもねぇだろうが」
「うるせぇっ!」
不意打ちでダメならばと、カバッカを含めた四人が同時に飛び掛かってきた。
先頭の男が放った拳を、左手で受け流しながら腹部に掌底を入れる。
悶絶する男を数瞬遅れてきた二人の中間に向けて突き飛ばす事で左右に別れさせ、若干出来た距離を利用し左に避けた男の懐に潜り込み、顎に強烈な一撃を入れて意識を刈り取る。
意識を失った男を右側に避けた男に投げつけ、行動を阻害し、視界を奪った直後、一瞬でその男の背後に回り込んだヴィルムは、肺のある位置を強打する事でその男を呼吸困難に陥らせた。
僅かな時間で仲間を倒された事に動揺していたカバッカの右腕を絡めとり、そのまま地面に倒れ込む事で関節を決める。
「うがっ!?こ、このっ!!」
何とか逃れようともがくカバッカだが、関節を決められた上に完全に抑え込まれている為、びくともしない。
「わ、わかった!俺達が悪かった!許してくれ!」
どうしようもない事を悟ったのか、詫びを入れ始めるカバッカ。
「生憎、俺は敵対した相手を無傷で許してやる程優しくはないんでね。右腕一本で手打ちにしてやるよ」
「や、やめっ━━━」
〝ボギッ〟
「━━━ぁがあああぁぁぁあっ!!」
右腕を折られた痛みに絶叫するカバッカ。
野次馬達は、ヴィルムが躊躇なく腕を折った事にざわつき始めた。
「相手は降参していたのに・・・ひでぇ」
「うわ、見ろよ。あれ完全に折れてるぜ」
「やっぱり黒目黒髪の人間が災厄を呼び込む忌み子ってのは本当なのか」
それを聞いたヴィルムは周囲に向けて言い放つ。
「最初に難癖を付けてきたのはコイツらだ。この結果が気に入らないってなら相手になってやるぜ?」
一方的な戦いを見ていたからか、野次馬達は一様に目を反らす。
しばらく睨みを利かせていたヴィルムだったが、野次馬達が何も言えない事を確認すると、冒険者ギルドへと戻って行く。
メルディナとクーナリアもヴィルムに続いて戻ったが、声をかける者はいなかった。
冒険者ギルドに戻ったヴィルム達を待っていたのは、ハーフエルフの男だった。
サラサラの長い金髪を簡単に後ろで束ね、高級そうなローブを身に纏っている。
一見して魔法使い然としたその男は、眼鏡の位置を直しながら話し掛けてきた。
「こんにちは、ヴィルムくん。悪いんだが、今回の一件についてお話を聞かせて貰えるかな?」
訝しげに男を見るヴィルムは、端から見ても警戒している事がわかる。
「・・・誰だ?」
「これは失礼した。僕はこの冒険者ギルドのギルドマスターを務めているシャザールという者だ。ギルドマスターとしては件の事情聴取を行わなくてはならなくてね。協力して貰えないかな?」
「話すも何も見ての通りだ。絡まれて襲い掛かってきたから返り討ちにした。それだけの事だ」
相手がギルドマスターだとわかっても話し方を変えないヴィルム。
「ははは、勿論、その件について君を罪に問う事はしないさ。少々やり過ぎに見えなくもないが、仕掛けたのはあちらだからね」
無礼な態度であるにも関わらず、シャザールは全く気にした様子もなく話を続けている。
「僕が聞きたいのは、忌み子として生まれながらも、まともに成長している君自身についてだ。人間族の間で伝わる忌み子の伝承が嘘でない事は知っている。しかしどれだけ文献を漁っても、一年以上生き長らえた忌み子の話は見た事がない」
いつの間にか、彼の微笑みは真剣な表情へと変わっている。
「ヴィルムくん、どうか僕に君の話を聞かせてくれないだろうか?特別扱いする事は出来ないが、他の冒険者達と変わらない対応はするし、ギルド内でも君や君の仲間達が邪険にされない様に手を打つ事は約束しよう」
言い終わっても、シャザールはヴィルムから目を離さない。
対するヴィルムは、目を閉じて考えていた。
メルディナとクーナリアは、不安そうな様子でヴィルムの反応を見守っている。
やがて思考がまとまったのか、ゆっくりと目を開くヴィルム。
「いいだろう。ただし、広い場所を用意してくれ。俺の話を本当だと証明する為に必要だ。出来れば屋外がいい」
「わかった。冒険者ギルドに訓練所があるから、そこを提供しよう」
ヴィルムの要求に間断なく答えるシャザール。
「もうひとつ。忌み子を嫌っている連中でも構わない。話を聞きたい奴等がいれば参加させてくれ。何度も同じ説明をするのは手間だからな」
「それは・・・いや、わかった。少し時間は貰うけど、集めておくよ」
「準備が出来たら声をかけてくれ。俺は冒険者ギルドの規約やどんな仕事があるのか、勉強させてもらう」
言い終わると仕事内容毎に分けられた掲示板の前に移動するヴィルム。
「では、お茶の準備をさせましょう。セリカくん、お茶と茶菓子を彼等に。私は権力者達を連れてきます」
「は、はひ!わかりゅまひた!」
先程の戦闘を見ていたからか、セリカの言葉には怯えが混じっている。
しかし、自身の上司たるギルドマスターの言葉に逆らう事は出来ず、涙目になりながらお茶の準備をし始めた。
クーナリアもヴィルムに習い、ギルド内の書物を読み始め、わからない所はメルディナに教えて貰いながら読み進めていった。
約二時間後、冒険者ギルドの扉を開け、複数の男女が入ってきた。
やっぱり一瞬で終わってしまった・・・。
戦闘で一区切りつけるつもりでしたが、あまりにも短いので続行。
ギルドマスターとの戦闘に移行しようかと思いましたが、書いてる内にシャザールさんイイ人っぽくなったので止めました。
次回は5/6投稿予定です。