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【11】冒険者の街ファーレン

今回からメインストーリーに戻ります。


6/10 御指摘のあったコーザとの会話の矛盾を修正しました。

「〈遺志無き魔剣〉が森に入って約二ヶ月・・・。全滅したと見るべきか」


〈遺志無き魔剣〉のメンバーが所属していた冒険者ギルド。


そのギルドマスターであるラーゼンは頭を悩ませていた。


二ヶ月前、魔霧の森へと探索に入った〈遺志無き魔剣〉からの連絡が途絶えたからである。


ラーゼンは、彼等が無謀な行動は極力避ける事も、今回の探索は、危険度が高い事から転移石まで準備していた事も知っていた。


持って行った糧食は約一ヶ月分。


現地調達しているにしても二ヶ月間音沙汰なしというのは、全滅という結果を予測するに十分な判断材料だった。


〈遺志無き魔剣〉は、ラーゼンが見込んだパーティであり、自身が目をかけて育ててきただけに失った時の衝撃も大きい。


何度か森へ探索に入る別のパーティに彼等の捜索も頼んだが、浅い場所での夜営や戦闘の跡こそ見つかるものの、彼等の遺体や魔物に食べられた痕跡は見つからなかった。


だからこそ、ラーゼンは頭を悩ませる。


生きていれば、彼等は転移石を使って戻って来ているだろう。


つまり、彼等は未開の奥地で全滅した事になる。


そうなると、奥地に向かう道中に彼等の痕跡が全くない事がおかしい事に気が付く。


導き出された答えは、“彼等の痕跡を消して回った何かがいる”。


その推測に辿り着いた時、ラーゼンは大量の冷や汗が出るのを感じた。


Aランクパーティを、転移石を使う隙も与えずに全滅させる程に強く、彼等の痕跡を自分達が発見出来ないレベルで偽装なり隠滅出来る程に知能の高い何かが魔霧の森にいるのだ。


今はまだ推測の域を出ない考えだが、もし推測(それ)が当たっていれば、国家規模の大災厄になりかねない。


「準備は、進めておくべきか・・・」


聞き取れない程に小さな声で呟くラーゼン。


自分の推測が、外れている事を願いながら。






* * * * * * * * * * * * * * * *






冒険者の街ファーレン。


大陸南部に位置する国家、バディカーヌ王国の領内に存在する街で、多くの冒険者達が拠点を置く場所だ。


人種差別があって普通の国々が多い中、それを法として禁止している数少ない国でもある。


今、ヴィルム達は、その街を目指して進んでいた。


ヴィルム達の人種が三者三様である事と、ヴィルムが忌み子である事を考えたメルディナが提案して決めた目的地である。


「人間族の黒目黒髪は災厄を呼ぶ忌み子って話は聞いた事あったけど、ヴィルを見てるとただの噂に過ぎなかったって思えるわね。相当強いのは認めるけど」


「いや、俺が運良く生き残っただけで、実際に忌み子とされる赤子は一年もたないぞ。対処法はあるにはあるが、外界の人間には無理だな」


メルディナの問いにヴィルムが答えると、「そうなの?」と顔を覗き込んでくる。


「外界の人間が言う、忌み子の引き起こす“消滅”ってのはな、簡単に言えば“魔力の暴走”なんだ。普通の人間に比べると、忌み子の持つ魔力量は異常と言える程多い。更にその魔力は、成長と共に加速的に増え続けていくんだ。黒目と黒髪に変わるのは異常な量の魔力が体内に蓄積する事で起こる色素変化だな」


淡々と説明するヴィルムに対して、話を聞いている二人の表情は真剣そのものだ。


「蓄積しすぎた魔力は、約一年で人間(うつわ)の臨界点に達し、“消滅”を引き起こす。赤子だからな。溢れ出る魔力を制御出来ずに暴走させちまうんだ。それを止めるには魔力を放出させてやればいい訳だが・・・」


「赤子自身は魔力の制御が出来ないから魔法を放って消費する事は出来ない。魔力をドレインする事は可能だろうけど、そんな大規模な暴走が起こる様な魔力量・・・、数十人がかりでも吸い取りきれないわね。おまけに話を聞く限り、魔力が臨界点に達する度に同じ事が何度でも起こる」


「その通りだ。俺は精霊(かぞく)達が命をかけて助けてくれたおかげで、こうして生きているけどな」


メルディナが導き出した結論を肯定するヴィルム。


自身を助けてくれた精霊(かぞく)の話をする彼の表情は、とても誇らしげに見える。


「ま、バディカーヌ領なら邪険にされる事はないわ。法で差別を禁止して、幅広く門を開けている国だもの。人間族は反応するでしょうけど」


「他人からどう思われようが関係ないから、そこまで気にしなくてもいいんだけどな。まぁ、外界には初めて出るし、先輩冒険者の言う事には従っておくよ」


「は~、お師様のお話を聞いてると、成長しないくらいで悩んでた自分が小さく思えてきます。心身共に強くならないといけないですね」


真っ平らな胸を張って、「むんっ」と気合いを入れるクーナリア。


魔霧の森の魔物ですら簡単にあしらっていたヴィルムが外界の魔物に苦戦するはずもなく、目的地であるファーレンへの道程を順調に進んでいった。






「ほぉ、あれが外界の奴等が住む場所か。石材で領域(テリトリー)を囲って境界線を明確にしてる訳か」


「違うわよ。ああやって街の周りを囲う事で防壁・・・、あーっと、結界の代わりに使ってるの」


特に何事もなくファーレンに辿り着いたヴィルム達。


微妙にズレた発言をするヴィルムに、メルディナのツッコミと説明が入る。


「は?あれが結界代わりって・・・、ヒノリ姉さんだったら空から魔法撃ち放題だし、ディア姉だったら一瞬で無力化出来るぞ?」


「ヴィルの基準で考えないで頂戴。精霊様の御里に張ってある結界なんて、こっちからすれば異常なレベルなんだからね」


「あはは、仕方ないよメルちゃん。お師様は外に出るのも初めてなんだから」


話ながら門へと近付いて行くヴィルム達。


その姿を捉えた獣人の門兵が話し掛けてくる。


「ようこそ、冒険者の街ファーレンへ。身分証はお持ちですか?」


犬型の獣人らしく、耳と尻尾をピンッと張って誠実な対応を見せる。


「私とこの子のはコレね。こっちの人は田舎から出てきたばかりで、身分証は持ってないの。冒険者ギルドで発行してもらう予定だから、手続きをお願いするわ」


メルディナは、自分とクーナリアの身分証を見せて説明する。


門兵から渡された記録用紙に名前を記入し、銀貨1枚を渡す事で入場が許可された。


「はい、確かに。それでは、ファーレンの街を楽しんでいって下さい」


門兵は、人の良さそうな笑みを浮かべて見送ってくれた。


街に足を踏み入れて最初に飛び込んできたのは、多くの人々が行き交う光景。


露店や酒場からの売り込みも多く、荒々しくも楽しげな賑わいを見せていた。


「こっちよ。はぐれない様について来て」


メルディナは慣れたもので、特に迷う事もなく進んでいく。


若干、人混みに戸惑いながらもメルディナについて行くヴィルムとクーナリア。


程なくして冒険者ギルドへと辿り着いた三人は、その扉に手をかけた。


冒険者ギルドの中は掃除が行き届いているのか、綺麗にされていた。


テーブルについている者や、掲示板を眺めている者。


一仕事終えてきたのか、カウンターで話をしている者。


そんな者達に目をやりつつ、受付のカウンターへと歩を進める三人。


「いらっしゃいませ。当ギルドにはどのような御用件でしょうか?」


「Bランクのメルディナよ。今日はこの二人の冒険者登録がしたくて来たの。手続きをお願い出来るかしら?」


自身の身分証を提示して要件を伝えるメルディナ。


その名乗りが聞こえたのか、たむろしていた数人が目を向ける。


「へぇ、あれが精霊術士のメルディナかぁ」


「水の魔法を自在に操って敵を寄せ付けないらしいぜ」


「メタリックタートルの甲羅すら切り裂く魔法の使い手だって話だよな」


冒険者の間では、メルディナはある程度名が通っているらしい。


必然、隣にいるヴィルムが目に入る訳で・・・。


「おいっ!」


一人の冒険者が乱暴に声をかけてきた。


「お前、何で忌み子みたいに髪を染めてるんだ? そんなこけおどしが通用する程、冒険者は甘くないんだよ!」


ヴィルムを睨み付けて言い放ったのは、人間族の冒険者だった。


茶髪に革製の鎧、双剣を腰に差している事から素早さに重点を置いた戦闘スタイルである事が想像出来る。


「コ、コーザさん、ギルド内で揉め事は禁止ですよ?」


「でもセリカさん!こんな見た目で威嚇しようとする奴に、ロクな人間いないですよ!?」


受付嬢(セリカ)の制止も聞かずに捲し立てる(コーザ)


「アンタが何を怒っているかは知らないが、俺は元から黒目黒髪だ」


「なっ!?」


「はっ!?」


「えっ!?」


一瞬、空間が静まり返る。


「そ、それなら余計だ!セリカさん、もしこいつの話が本当なら、こいつは忌み子って事になる!そんな危険な奴をこの街に置いておく訳にはいかないだろう!?」


気を取り戻したコーザが余計にヒートアップする。


「私の連れに変な言い掛かりをするは止めてもらえる?」


「そ、そうですよ。お師様は危険なんかじゃありません!」


不快な表情をしたメルディナとクーナリアが男の前に立ちはだかった。


「君達はエルフ族に牛人族だから知らないのも無理はない。コイツみたいな黒目黒髪の人間は━━━」


「知ってるわよ。忌み子と呼ばれてるんでしょ?」


「なっ!?」


事情を知っていた事に驚くコーザ。


「本物・・・? こいつは本当に本物の忌み子・・・? き、君はコイツの危険性を知っててこの街に連れてきたのか!自分が何をしたかわかっているのか!?」


「貴方達の事情なんて知った事ではないわ。それに、ヴィルが貴方が言う忌み子であるなら、すでにこの世にはいないはずでしょ?」


忌み子は生後一年で周囲を巻き込んで消滅する。


例外は、ない。


それが彼の知る常識であり、ヴィルムの存在を認められない要因だった。


「くっ・・・、後悔しないようにね。俺はすぐにこの街を出る。死にたくはないからね」


「あら、余計な忠告をありがと。でもここまで一緒に旅をしてきた以上、私は貴方の話より自分の経験を信じるわ」


ヴィルムとメルディナを交互に睨み付けたコーザは、悔しげに踵を返すと冒険者ギルドから立ち去っていった。


それに続いて、人間族の冒険者達は次々に立ち去っていく。


「さて、邪魔が入っちゃったけど、手続きをお願いするわ。よろしくね、セリカさん」


ヴィルム以外の人間族が全て立ち去った所で、気を取り直してセリカに話し掛けるメルディナ。


「あ、はい。そ、それでは、こちらの登録用紙に記入をお願いします。代筆も可能ですが、必要でしょうか?」


「いや、大丈夫だ。文字は書ける」


先程の騒ぎも我関せずと、気にした様子もなくサラサラと記入欄を埋めていくヴィルム。


なお、名前の欄にサーヴァンティルの文字は書いてない。


メルディナやクーナリアに家名がない事から、それに合わせた結果である。






わからない箇所をメルディナに聞きながら、一通り書き終わった所で、記入の済んだ登録用紙をセリカに渡す。


「・・・はい、問題ありません。身分証を発行しますので、もう少々お待ち下━━━」


「ちょっと待ったあああっ!!」


突如、ギルドの扉を乱暴に開け放ち、ズカズカと踏み込んでくる大男。


その傍らには、さっき出ていったはずのコーザや、人間の冒険者達の姿があった。

「テンプレじゃなかったか」と思った方、残念!テンプレです!(笑)

次回は戦闘回になりますが、彼らの強さは〈遺志無き魔剣〉のメンバーやレイド達よりも下なので、どうやって描写しようか頭を悩ませています。


ファーレンに入る前の会話ですが、ヴィルムが会話の聞こえる範囲に人がいない事を確認した上で会話しています。


後書きで説明入れてる時点でまだまだ未熟ですね。

本文だけで情景を伝えられる様に精進します。


次回は5/5投稿予定です。

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