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【91】エルフの里


魔霧の森とは違い、澄んだ空気に包まれた森の中。


暖かな陽光が木々の隙間から射し込み、風に揺れて擦れる葉の音はまるで来訪者を歓迎する音楽のようだ。


「久しぶりに帰って来たけど、やっぱりここは変わってないわね」


そんな中、おそらくは十数年ぶりに故郷へと帰ってきたメルディナは、懐かしむような柔らかい笑みを浮かべている。


普段はメルディナの側からあまり離れないミゼリオも、興奮を抑えきれないといった様子で辺りを飛び回り、はしゃぎ回っていた。


「メルが生まれ育った森か。いい所だな」


場所こそ違えど、メルディナと同じく森で育てられたヴィルムには彼女の感情がわかるのだろう。


メルディナに釣られたかのように微笑んでいるヴィルムからは、同種類の感情が見てとれた。


「ふふっ、ありがと。それにしても、流石はフー様の魔法ね。ハイシェラに乗れないから一ヶ月(ひとつき)はかかると思ってたのに、ほんの数日で着いちゃうんだもの」


襲撃を経て、ハイシェラに乗って移動するのは危険だと判断したヴィルム達は、フーミルに補助魔法を掛けてもらい、移動速度を上げて走るという方法をとる事にした。


メルディナ達の身体への負担を考慮しないのであればハイシェラ以上の速度が出るのだが、通常一ヶ月はかかるであろう道程が数日に短縮されたのは十分な結果と言えるだろう。


「懐かしいのはわかるけど、メル姉ちゃんの里に寄っていくんだろ? そっちは大丈夫なのかよ?」


ヴィルムとメルディナの会話に、眉に皺を寄せたオーマが割って入る。


ハイエルフの拠点に向かう際、ヴィルム達はエルフの里を経由する事を決めていた。


故に、以前にメルディナの過去を聞いているオーマは、彼女の事を気遣ってか、その本心を探るように問い掛ける。


「正直、あまり帰りたくはないわね。でも、このままだとハイエルフ達に利用される可能性があるのは確かだし、一応、私を育ててくれた両親だから、ね」


「メル姉がそう言うならいいんだけどよぉ。無理はしちゃ駄目だぜ?」


「メルちゃん・・・。大丈夫! 何かあっても、私達がついてるよ!」


「そうね。頼りにしてるわ」


一瞬、陰りを見せたメルディナだが、自分を励ますオーマとクーナリアの言葉にいつもの調子を取り戻したようだった。






* * * * * * * * * * * * * * *






しばらくの間、メルディナの案内で森の中を進んだヴィルム達。


先頭を歩いていたメルディナの足を止めると、それに合わせてヴィルム達も歩みを止めた。


「着いたわ。ここよ」


振り向きながらそう言ったメルディナだが、周囲を見回しても住居や入り口らしきものは見られない。


クーナリアとオーマは頭に疑問符を浮かべているのに対して、ヴィルムの方は納得したように頷いてから口を開いた。


「結界だな。母さんが作ったのと少し似ている」


「サティア様の結界には遠く及ばないわよ。せいぜい、人間や魔物の認識を逸らす程度の効力しかないわ。こっちよ」


そう言いながら、自身が指差した方向へ一歩進んだメルディナの姿が、何もない空間に呑み込まれるように消えてしまう。


クーナリアとオーマは少々驚いたようだったが、ヴィルムやフーミルが何の警戒もせずにメルディナの後を追った事で、慎重にではあるもののそれに続いて足を踏み入れた。


僅かに視界が揺らいだかと思うと、その景色は一変。


木材を主軸に作られたログハウスが建ち並び、目に入る住人達は男女問わずその全てが見目麗しい姿をしている。


突然の来訪者達に驚くエルフ達だったが、ヴィルム達のすぐ側にいた一人の男性エルフが信じられないものを見るような目をして近付いてきた。


「ま、まさか・・・メルディナちゃん、なのかい?」


「えぇ。本当はもう帰ってくるつもりはなかったんだけど、ちょっとだけ皆に報せておきたい事が出来ちゃったから寄ってみたの。お父さんとお母さんはいるかしら?」


「あ、あぁ! すぐに呼んでくるよ! いいかい? 本当にすぐ呼んで来るから、そこから動いちゃ駄目だよ? いいね?」


男性エルフはメルディナに帰らないように何度も念を押すと、脇目も振らずに駆け出した。


その様子からはメルディナに対する悪意は感じられず、今のやりとりでこちらに注意を向けている里の住人達の瞳にも負の感情は宿っていないように見える。


「何か、思ってたのと違うな。勝手に里を抜け出したって話だったから、もっとメル姉に悪口とか嫌味でもぶつけてくると思ってたのに・・・」


自身が考えていた状況とは大分違っていたのだろう。


少々面食らった様子のオーマが呟くような声を出すと、彼と同じような状況を想像していたらしいクーナリアはコクコクと首を縦に振っていた。


「まぁ、そうね。一応、ハイエルフとの結婚の事も、私の事を想ってくれてたんだとは思うけど━━━」


「メェェェルゥゥゥディィィナァァァアアアアアッ!!」


クーナリアとオーマの視線に、頭を抱えて溜め息を吐くメルディナの言葉を遮って聞こえてきたのは、全力で大地を駆けているのであろう爆走音と、雄叫びに近い声であった。


そちらを向くと、先程とは違う男性エルフが両手を拡げつつこちら━━━メルディナに突進してきている。


見知らぬ男からメルディナを守ろうと前に出るヴィルム達だったが、他ならぬ彼女自身がそれを遮る形をとった。


「・・・はぁ。ホンット、変わってないわ」


げんなりとした表情で先程以上に深々と溜め息を吐いたメルディナは、手慣れた様子で突進の軌道上から身体を剃らし、足払いを仕掛けて転倒させる。


勢いがつきすぎていた為、そのエルフは顔からダイビングする形となり、逆海老の態勢で地面を滑っていった。


倒れたままピクリともしなかったエルフだったが、数秒程してから無造作に起き上がると、服に付いた砂埃を払ってからメルディナの方に向き直り、口を開く。


「やれやれ、久しぶりだというのに酷いんじゃないか? メルディナ」


本人は真面目な顔をしているつもりなのだろうが、大量についた土埃と擦り傷のせいで笑わせにきているとしか思えない状態になっている。


「あのねぇ、()()()()こそ、人前でも遠慮なく抱きつく癖、まだ治ってないじゃない。いい加減、子離れしてくれないかしら?」


「可愛い娘を愛でて何が悪い!」


堂々と言い放つ彼からは、一片の迷いすら感じられない。


おそらくは何度も繰り返してきたやりとりなのだろう。


呆れた様子で半眼を向けるメルディナだったが、彼が動揺する様子は全くなかった。


「む、ところで我が娘よ。ミゼリオ様は知っているが、そちらの方々はお友達かな?」


「あぁ、やっと話を進められるのね」


ようやく父親の興奮が収まった事に安堵したメルディナは、気を取り直してヴィルム達の紹介を始めた。


「紹介するわ。まず、彼はヴィルム。私が奴隷商人に捕まった時に助けてくれた人よ。その後も私の知らなかった事を教えてくれたりして、とても頼りになる人」


「━━━」


一瞬、機嫌が良さそうにニコニコしていた彼の表情が固まった気がするが気のせいだろうか。


なお、メルディナが精霊獣であるフーミルよりもヴィルムを先に紹介したのは、彼らの兄妹という関係を考慮しての事である。


「ヴィルムの隣にいるのがフーミル様。信じられないかもしれないけど、風を司る精霊獣様よ。失礼がないようにね」


「なっ、なっ、な━━━ッ!?」


(あー・・・まぁ、精霊獣様だって知ったら流石に驚くわよね。変な事言い出さなきゃいいけど・・・)


石化の状態から復活した彼が驚愕するのも無理はないだろう。


何せ、彼らにとっての信仰対象とも言える精霊の頂点が、今目の前にいるのだから━━━、


「帰ってきたのは彼氏を紹介する為なのかぁぁぁああっ!?」


「いやどこをどう聞いたらそうなるのよぉぉぉおおっ!?」


否、彼にとっては娘の彼氏らしき人物が現れた事の方が重大事件だったらしい。


年末にサボっていた分を挽回すべく頑張っています。

正月にスマホが壊れたのも痛かった(汗)


コミカライズ版、忌み子と呼ばれた召喚士の連載が開始されております。

そちらの方も是非よろしくお願い致します。

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