Episode:04
◇Rufeir
図書館でひと騒動あったあと、先輩に連れられて夕食を食べて、あたしはひとりで寮の自室にもどった。ロア先輩はまだ用事があるみたいで、とちゅうで別れた。
いつもなら消灯時間を過ぎてからだけど、今日は早めに端末の前に座る。先輩が帰ってくるまでに、このあいだ教えてもらった場所へ行って勉強(?)しようと思った。
起動させて、魔視鏡の設定を変える。
いつも使ってる、ロア先輩作の専用の魔令譜――動作を自動化したシステム群――をいくつも表に出して、交信を開始した。
まず、学院内をひと回りしてみる。消灯時間前なのもあって、動いてる魔視鏡がいっぱいあった。
そのなかから、珍しく学院長のを見つける。
――あの伝言書、処分しないと。
あのときはあんな騒ぎになって、そのあと気づいたときは、学院長の魔視鏡は動いてなかった。
それからもずっと見てたけど、学院長室の魔視鏡は夜や休日は動かなくて、いままで消せずじまいだ。
先輩に教わったとおり、そっと忍び込んであの伝言を選んで、専用の魔令譜を動かす。
拍子抜けするほどあっさり、学院長の魔視鏡から、それが消えた。
証拠を残したりしてないかがちょっと心配だけど……たぶん、大丈夫だろう。ざっと見たけどそういうのはなかったし、それに万一ほんの少し残ってたとしても、学院長じゃ分からないと思う。
それから少しのあいだ、学内の通信網をうろうろしてから、こんどは外へ行ってみる。
もっともあたしじゃその辺の、ガードの甘いところへ入りこむのがせいぜいだ。だいぶ上手くはなってきたけれど、とてもちゃんとした所は手が出せない。
とうぜん拾える情報も、たかが知れてた。
それでもこうやって、ひとりで出歩けるようになってきたのが、けっこう嬉しい。浮かれすぎてハメを外さないよう自制しながら、あちこち歩いてみる。
――あ、これおもしろい。
ときどき、思いもかけないようなやり方をしている魔令譜を見つけて、ちょっと感心してみたりする。
そうやって一時間以上、あちこち歩きまわっただろうか?
さすがに少し疲れて、あたしは潜りこむのを止めた。便利なロア先輩作の魔令譜類はそのままで、暗記している通信石番号を直接打ちこむ。
いつもと同じ、認証手続きの画像。
シュマー内部の通信網だ。
けど手続きをしようとした時、魔視鏡に警告表示が出た。
監視用の魔令譜が、警告を発している。
あたしがまだ慣れていないのを心配したロア先輩が、特別に作って組み込んでくれたものだ。一定時間誰か(あるいは何か)がそばにいると、危険と判断して警告を出してくれる仕組みだった。
慌てて周囲を調べてみる。けど、相手の姿は全く見えない。
でも誰かがあたしを見張ってるのは、間違いがなかった。