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表と裏 ルーフェイア・シリーズ06  作者: こっこ
Chapter:04 理解
31/32

Episode:31

「いま、切るから」

 箱が開けられて、中から出てきたケーキに、ナイフが入れられる。けど、なぜか二切れだけしか、シルファ先輩は切らなかった。

 少しの間があって、タシュア先輩とシルファ先輩の視線が合って……やっと、もう一切れが出される。タシュア先輩がちょっとだけ面白くなさそうなのが、なんだか可笑しかった。


「さ、食べるといい」

「ありがとう、ございます……」

 とても凝ったケーキだけど、何が入ってるのかはよく分からない。でも、とってもおいしそうだ。

 ひとかけら、口に運ぶ。


――この味。


 忘れていた記憶が、蘇る。あの時と同じ香り、同じ味……。

「どうした?」

 急に食べるのをやめてしまったのを、心配してくれたんだろう。シルファ先輩が声をかけてくれたけど、あたしは答えられなかった。

 涙がこぼれそうになる。


「大丈夫か? どこか痛いのか?」

 問いに首を振って、やっと答えた。

「これ……まえに、兄さんと……」

 シルファ先輩が、はっと息をのむ。


 あとは言葉にできなくて、止まらない涙を必死にぬぐった。

 いつだったろう? 思いもかけずこれと同じケーキを手に入れて、兄さんと二人で食べたのは。

 でも、もう二度と……。


「――その、すまなかった」

「別にシルファが謝ることではないでしょう。悪意があったわけではないのですから。

 ですが、偶然とは不思議なものですね」

 予想もしなかった言葉に、驚いて顔を上げる。

 タシュア先輩と、目が合った。

――何かを奥底に秘めた、紅い瞳。


 それが一瞬だけ、優しいものになる。

 瞬間、理解した。同じなのだと。

 違う時間、違う場所で、でも同じものを見てきた人。この学院でただひとり、「あれ」を分かっている人。

 先輩のその瞳に、また涙があふれる。シルファ先輩が「大丈夫だ」と言うように、あたしの頭を撫でてくれた。


 多分かなり長い間、泣いてたと思う。けどシルファ先輩だけじゃなく、タシュア先輩も何も言わずに、待っててくれた。

「さて、長居をしてしまいましたね。帰ることにします」

 やっと泣きやんだあたしを見て、タシュア先輩が立ちあがる。




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