Episode:30
◇Rufeir
目が覚めて、ぼんやりとあたしは天井を眺めてた。
なんだかここのところ、この光景ばかり見ている気がする。でも、夕べまではかなり熱が高くて辛かったけれど、今日はだいぶ楽だ。
それにしてもあたし、海に落ちたらしい。しかも何が原因か、かなりの高熱が続いたと、ムアカ先生は教えてくれた。
ただ自分では、覚えてなかった。
イマドとケンディクの街へ出て、いつもの埠頭で海を見ていたところまでは、覚えてる。でもそのあと気がつくと、ここだった。
――授業、進んじゃっただろうな。
それがいちばん気がかりだだった。なにしろもう、トータルすると2週間以上休んでる。
その時、話し声が聞こえた。誰かがあたしに会いたがってるみたいだけど、それをムアカ先生が止めてる。
でもけっきょく、先生が折れたみたいだ。
――誰だろう?
入ってきたのは、知らない女子の先輩だった。背が高くて、まっすぐな黒髪にきれいな紫の瞳をしてる。
「具合は……どうだ?」
聞かれて答えようとして顔をあげて、あたしは凍りついた。この先輩の後ろにいるのは……銀髪に紅瞳の、あの先輩だ。
声が出せなくなる。身体が冷えていく。
「心配しなくていい、大丈夫だ」
声とともに、駆け寄ってきた女子の先輩に、強く抱きしめられた。力強くて、でも暖かくて柔らかい腕の中。
この先輩が、本当に心配してくれてるのが分かる。
「大丈夫だから……」
ひさびさの、無条件の安心感。悲しくないのに涙がこぼれる。
そんなあたしを先輩は、ずっと抱いててくれた。
「もう、平気か?」
どのくらい経ったんだろう? そう訊かれてうなずくと、この女の先輩が微笑んだ。とても優しそうな笑顔だ。
でも、次の瞬間。
「シルファ、どこまで甘やかす気なのです?」
聞こえた声に、びくりと身体が震えた。
「だいいち、人を何だと思っているのやら。失礼にもほどがありますよ」
「タシュア!」
シルファと呼ばれた先輩が、怒ったような声をだす。
「事実を述べただけですが?」
あたしを抱くシルファ先輩の腕が、力を増した。気にしなくていい、そう言いたいのが伝わってくる。
それからあたしの瞳を覗き込んで、先輩は言った。
「ケーキを、持ってきたんだ。食べないか?」
思いもかけない言葉に、思わず顔がほころぶ。
先輩も嬉しそうにうなずいた。




