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表と裏 ルーフェイア・シリーズ06  作者: こっこ
Chapter:04 理解
27/32

Episode:27

◇Sylpha

 大き目のドーナツ状の型から、いい匂いが立ち上っている。砂糖と、オレンジの匂いだ。

 きちんと冷めたのを確かめてから、型に沿ってナイフを入れると、高さのあるドーナツ型のケーキが現れた。それを三段に切り分けて、一番上を型に戻す。


 これとは別に途中まで作っておいた、オレンジのムースをその上に入れ、真ん中の段を戻し、またムースを重ね、最後に三段重ねになった。

 あとは冷やして、飾り付けるだけだ。

――食べられると、いいんだが。


 この新作のケーキは、あの金髪の子に持っていくつもりだった。

 なんというか、あのまま放っておけない。

 気になってあとから、いろいろあの一緒にいた少年に聞いてみたのだが……どうもタシュアのやったことが、クリティカルヒットしたようだった。偶然いろいろな条件が重なって、精神的に追い詰めてしまったらしい。


 タシュアに悪気はない。彼はいつもああだし、あれでもいちおう筋は通っている。

 あの少女が追いかけられたというのも、元をただせば無防備さゆえだ。図書室の件も理屈だけなら、あの子のほうが不用意だったと言うべきだろう。

 だがそうだとしても、私には少しだけ、やりすぎなように思えた。どれも小さい子にはありがちなことだし、その場で柔らかく教える方法だってある。

 まぁそれをやるようでは、タシュアではないのだが……。


 ともかくこのままにしておいたら、あの子はいずれ、ここに居られなくなるだろう。それがいちばん、私には苦しかった。

 私は生まれてすぐ両親が亡くなり、親戚じゅうを次々とたらい回しにされた。どこへ行っても居場所はなくて、いつも息をひそめて隅に居た。

 目立たないように。見つからないように。追い出されないように。

 だからこの学院へ来たとき、心のどこかでほっとしたのだ。やっと自分の居ていい場所が見つかった、と。


 金髪の子のことは、詳しくは知らない。だがやはり何か事情があってここへ来て、やっと落ち着いたらしいことは分かる。だから、他人事に思えなかった。

 あの、おびえきった表情が忘れられない。

 たしかにシエラはふつうの学校と違って、それなりの危険も厳しさもある。だが、あんなふうにおびえる場所ではないはずだ。少なくとも私は、ここへ来て初めて、居場所を見つけた。

 だからあの子にも笑顔はムリでも、せめて落ち着いてここで過ごしてほしいと思う。


 ただあの金髪の子は、あまり具合がよくないらしかった。そうでなくても弱っていたのに、まだ冷たい海に落ちたのがまずかったらしい。高熱が続いて診療所に入院したままだと、同じクラスのディオンヌが教えてくれた。

――このケーキで少しでも、元気になってくれるといいのだが。

 そう思いながら、冷やす間に片づけをし、簡単なクッキーを焼き、飾りつけ用の道具や材料も揃える。



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