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表と裏 ルーフェイア・シリーズ06  作者: こっこ
Chapter:03 恐慌
25/32

Episode:25

◇All

「いやぁっ!!」

 叫びを聞いて、イマドは振りかえった。

 目に入った光景に、愕然とする。

 ルーフェイアとシルファと――タシュア。

 そしてルーフェイアは、海へと落ちるところだった。だがあの精神状態で落ちたら、まず助からない。


(なんでだよ!)

 この成り行きに、イマドはかの先輩を絞め殺したいところだったが、まずはともかくルーフェイアを助けにに走る。

 が、さらに早く動いた影があった。


「タシュア先輩?!」

 長身の青年は即座に上着を脱ぎ捨てると、鮮やかに海へ飛びこむ。

 ざんっ、と音がして、水しぶきがあがった。

 やや遅れて、イマドとシルファが埠頭へと駆けつける。


「タシュア、大丈夫か?」

 シルファが声をかけたときには、もうタシュアは少女を抱えて水面に頭を出していた。

「イマド、学院に連絡してください。それからシルファ、手を貸してもらえますか?」

 てきぱきと指示を出し、シルファの手を借りながら海から上がる。

 瞬間、青年は怪訝な表情をした。


 水の浮力がなくなったというのに、ルーフェイアは想像以上に軽かった。この身体のどこにあれほどの戦闘能力が秘められているのかと、不審に思えるほどだ。

 このくらいの年齢――たしかルーフェイアは11歳――にはもう、タシュアやシルファはそれなりの体格に成長していた。だがこの少女はどう見てもまだ、子供でしかない。

 そっと横たえてやると、少女が激しく咳き込んだ。


「どうなんだ?」

 シルファが聞いてきた。その声に心配の色がにじんでいる。

「詳しくはわかりませんが……少なくとも呼吸はしていますから」

 びしょぬれのまま、咳き込む少女の背をさすりながら、タシュアは答えた。

「気を失ったせいで、さほど水も飲んでいないようですし、まぁ大丈夫かと」

「そうか」

 シルファがほっと息を吐いた。

 だがタシュアはまだ、応急手当の手を止めない。


「どなたか毛布を貸していただけませんか?」

 言いながら少女の服を緩め、気道を確保する。

 ここへ来てようやく、ルーフェイア瞳が焦点を結んだ。

「あ……いやっ!」

 とっさに逃げ出そうとするが、今度はタシュアも予測済みだ。払いのけようとした手をうまく捕らえ、少女の身体を押さえつける。


「そんなに怖がらないでください。別にとって食べたりはしませんから。

――息は苦しくないですね?」

「あ……はい……」

 まだ怯えながらも、ルーフェイアは返事をした。いくらか理性を取り戻したようだ。

「そうですか。さぁ、これにくるまって」

 誰かが持ってきてくれた毛布で、こわばらせたままの身体を包んでやる。本当なら濡れた服を脱がせた方がいいのだが、ここでそれをやっては、いくらなんでも可哀想だろう。

 そこへようやく、イマドが戻ってきた。


「先輩、学院に連絡――ルーフェイア、だいじょぶかっ?!」

 その瞬間の少女の変化は、劇的だった。

「――イマド!」

 少年の方へ手を伸ばす。同時にその身体から緊張が抜け、表情も安心しきったものになった。どうやらルーフェイアにとって、この少年はどんな精神安定剤より効果があるようだ。

 抵抗をやめて扱いやすくなった少女を、抱き上げる。




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