Episode:25
◇All
「いやぁっ!!」
叫びを聞いて、イマドは振りかえった。
目に入った光景に、愕然とする。
ルーフェイアとシルファと――タシュア。
そしてルーフェイアは、海へと落ちるところだった。だがあの精神状態で落ちたら、まず助からない。
(なんでだよ!)
この成り行きに、イマドはかの先輩を絞め殺したいところだったが、まずはともかくルーフェイアを助けにに走る。
が、さらに早く動いた影があった。
「タシュア先輩?!」
長身の青年は即座に上着を脱ぎ捨てると、鮮やかに海へ飛びこむ。
ざんっ、と音がして、水しぶきがあがった。
やや遅れて、イマドとシルファが埠頭へと駆けつける。
「タシュア、大丈夫か?」
シルファが声をかけたときには、もうタシュアは少女を抱えて水面に頭を出していた。
「イマド、学院に連絡してください。それからシルファ、手を貸してもらえますか?」
てきぱきと指示を出し、シルファの手を借りながら海から上がる。
瞬間、青年は怪訝な表情をした。
水の浮力がなくなったというのに、ルーフェイアは想像以上に軽かった。この身体のどこにあれほどの戦闘能力が秘められているのかと、不審に思えるほどだ。
このくらいの年齢――たしかルーフェイアは11歳――にはもう、タシュアやシルファはそれなりの体格に成長していた。だがこの少女はどう見てもまだ、子供でしかない。
そっと横たえてやると、少女が激しく咳き込んだ。
「どうなんだ?」
シルファが聞いてきた。その声に心配の色がにじんでいる。
「詳しくはわかりませんが……少なくとも呼吸はしていますから」
びしょぬれのまま、咳き込む少女の背をさすりながら、タシュアは答えた。
「気を失ったせいで、さほど水も飲んでいないようですし、まぁ大丈夫かと」
「そうか」
シルファがほっと息を吐いた。
だがタシュアはまだ、応急手当の手を止めない。
「どなたか毛布を貸していただけませんか?」
言いながら少女の服を緩め、気道を確保する。
ここへ来てようやく、ルーフェイア瞳が焦点を結んだ。
「あ……いやっ!」
とっさに逃げ出そうとするが、今度はタシュアも予測済みだ。払いのけようとした手をうまく捕らえ、少女の身体を押さえつける。
「そんなに怖がらないでください。別にとって食べたりはしませんから。
――息は苦しくないですね?」
「あ……はい……」
まだ怯えながらも、ルーフェイアは返事をした。いくらか理性を取り戻したようだ。
「そうですか。さぁ、これにくるまって」
誰かが持ってきてくれた毛布で、こわばらせたままの身体を包んでやる。本当なら濡れた服を脱がせた方がいいのだが、ここでそれをやっては、いくらなんでも可哀想だろう。
そこへようやく、イマドが戻ってきた。
「先輩、学院に連絡――ルーフェイア、だいじょぶかっ?!」
その瞬間の少女の変化は、劇的だった。
「――イマド!」
少年の方へ手を伸ばす。同時にその身体から緊張が抜け、表情も安心しきったものになった。どうやらルーフェイアにとって、この少年はどんな精神安定剤より効果があるようだ。
抵抗をやめて扱いやすくなった少女を、抱き上げる。