Episode:23
◇Tasha & Sylpha side
「すまない、つき合わせてしまって」
「別に構いませんよ。私も用がありましたし」
ケンディクの街を、2人の男女が歩いていた。
ひとりはつややかな長い黒髪に、紫水晶の瞳をした女性。
もうひとりは三つ編みにした長い銀髪と、紅の瞳をした青年。
どちらも長身で、しかも美男美女だ。通行人も、かなりの人数が立ち止まっては振り返っている。
だがこの2人、もし学院の生徒が見たなら避けて通るだろう。
女性の方はまだ「可愛げがない」程度で通っているが、この青年となると「学内で並ぶもののない毒舌家」との評価なのだ。
――言わずと知れた、タシュアとシルファだった。
そうしょっちゅうではないが、街でしか手に入らないものを買いに、こうして2人でケンディクの街へ来ることはある。
「そういえば……」
言いかけて、シルファは口をつぐんだ。自分としては気になる噂を聞いたのだが、それをタシュアに言っても意味がないような気がしたのだ。
「なんですか? 途中で止めたりして」
「いや、たいした話じゃないんだが……この間タシュアが野外訓練で一緒になったルーフェイアという子、倒れたそうだ」
「それは初耳ですね」
一瞬、タシュアは不審に思う。
訓練が祟って生徒が倒れることは時々あるが、去年の夏に中途入学した彼女――ルーフェイア=グレイスに限っては、まずそんなことはないだろう。なにしろあのシュマー家が誇る、最強の戦士なのだ。
とはいえまだ、彼女が11歳でしかないのも事実だ。身体が出来あがっているとは言い難い。
「単に疲れでも溜まったのではないですか?
それよりシルファ、早くしないと日が暮れますよ。今日は買うものが多いのでしょう?」
「そうだな」
もう何年も歩いて慣れた街を、手早く回って行く。ひととおり揃え終わった頃には、それなりの包みを、シルファはタシュアに持たせていた。
「これでぜんぶですか? なら、戻りましょうか」
「ああ」
うっかり港側から回ったため、帰るにはもういちど街を横切らなくてはならない。
「反対から回るべきでしたかね?」
言いながらタシュアは歩き始めた。シルファもなにも言わずについてくる。
足を向けた港は、いつものように穏やかだった。よい天気に誘われたのだろう、けっこう人が出ている。
と、すっとタシュアが立ち止まった。
「シルファ、先ほどの噂は本当なのですか?」
「聞いた話だから……どうかしたのか?」
そう尋ねたシルファだが、タシュアが答えるより早く意味を知ったようだ。
埠頭のところにいる金髪の少女は、どうみてもあのルーフェイアだった。
「嘘だったのか」
「単純に回復しただけかもしれませんよ。おや、気づいたようですね?」
少女が振り返りながら、立ちあがる。