Episode:20
そのまま、数日過ぎた。けどルーフェイアのやつは、ぜんぜん良くならない。
ムアカ先生も最初は「ストレスだから数日寝てれば」ってたけど、ルーフェイアはなんせ脆いから、そんなじゃ済まなかったっぽい。いまもほとんど、何にも食えないままだ。
んでどうしようもなくて、けっきょく診療所に引き取られてる
俺とかロア先輩とかシーモアたちとか、なるたけみんな顔出して診療所居るようにしてっけど、はっきり言ってなんの役にも立ってねぇし。
早い話、原因になっているコトを取り除きゃいいんだろうけど……これがいちばんハードル高いから困る。
なにしろ相手ときたら、「あの」タシュア先輩なわけで。
どうにか上手くここまで連れてきたにしても、ルーフェイアのヤツと引き合わせたが最後、事態なんてよけい悪くなりそうだ。
「先生、どうにかならないんです?」
「そうは言われてもねぇ」
ムアカ先生が肩をすくめる。
「なんとかしてあげたいんだけど、どうにもならないわ。半分は性格なんだろうけど、ともかくよほどひどいストレスになってるみたいだし」
「そうですか……」
うとうと寝入っているコイツ、少しやつれて見える。
乱れて顔にかかっている金髪をそっと払いのけてやると、ルーフェイアは目を開けた。
「わりぃ、起こしちまったな。気持ち悪くねぇか?」
「……うん」
まだ食べ物は受けつけねぇけど、今朝辺りから少し、良くなってきてんのかもしれない。
「今日って……お天気、いいね」
そう言って何日かぶりに、ルーフェイアのやつが自力で、起きあがろうとする。
「ムリすんなよ」
「……起きたい、から」
それ聞いて、マジでほっとした。これなら、あとはだんだん回復すんだろう。
窓を開けてやる。
「あ、気持ちいい」
吹き込んできた風に、金の髪がなびいた。
久々の笑顔。
その笑顔で俺がどんだけ安心したか、コイツには――たぶん分かんねぇだろう。
「少し、外でも出るか?」
「……うん」
ムアカ先生のほう見っと、年のわりに案外気が強えぇこの人がうなずいた。少し外へ連れてって、気分転換させてこい、ってんだろう。
着替えて立ちあがったルーフェイアも、思ったよりはしっかりしてた。
そっと歩き出したコイツに歩調合わせて、玄関出て、船着場まで連れて行く。
ルーフェイアは海が好きだ。ときどき用事がなくてもこいつ、出かけちゃ桟橋に座り込んでるの、俺も知ってた。
今も久しぶりに海見て、こいつの顔がほころぶ。
「どする? ケンディクまで行ってみっか?」
「そうだね……あの街、見たいな」
念のためにこっそり、通話石通してムアカ先生に訊いたら、行っていいって答えが返ってきた。思ったよりしっかり歩いてたし、気晴らしになるから好きなだけ行かせたほうがいいって言う。
「じゃぁ、そうすっか」
「……ありがと」
足元に気をつけながら、俺らちょうど来てた連絡船に乗り込んだ。