Episode:16
そう、知ってる。
あたしと同じ……『戦うために生み出された』者のもつ匂い。
初めて他人から感じた死神の匂いに、またぞっとする。
先輩の後ろ姿が遠ざかるのを見て、ようやく緊張が解けた。立っていられなくて、思わずそこへ座りこむ。
まだ、身体の芯が凍り付いたままだ。
「なにかあったんだな?」
「あの先輩に……全部、知られた……と思う」
やっとのことで、イマドにそれだけ答える。
「よりによって、タシュア先輩にかよ」
彼の言葉は、まるで吐き捨てるような調子だった。
でもあたしにも、なんとなく意味がわかる。よくは分からないけれど、おそらく学院内でいちばん、知られたらまずい相手だ。
そして、はっと気づく。
「まさか、あの、追いかけてきた――?」
「追いかけ? 何の話だ?」
例のことは知らないイマドが、不思議そうな顔をした。でもあたしの中で、はっきりと線がつながる。
数日前あたしを追いかけてきた、“誰か”。あれほどの腕をした人間が、そうそう学内にいるとは思えない。
そして、あたしの素性を知るタシュア先輩。
二人が同一なのは、おそらく間違いないだろう。
だとしたらあの先輩はもう、シュマーの中へ入り込んでる。自由に情報を、盗み出すところまできてる。
証拠はない。ただの推測だ。でも先輩が言った言葉は、そうとでも考えないと、説明がつかなかった。
もちろん他のどこかから、情報を手に入れた可能性はゼロじゃないけど……ゼロじゃないってだけで、限りなく低い。
だからおそらく、シュマーそのものからだろう。
吐き気がした。
これほどの恐怖を感じたのは、もしかすると初めてかもしれない。
「だいじょぶか? かなり顔色悪りぃぞ」
「だいじょうぶ……だと、思う」
そう言って、やっとの思いで立ち上がる。
自分でも信じられないほど、足元が危なかった。
「歩けっか?」
「うん……どうにか」
答えて、あたしはイマドといっしょに、集合場所へと歩き始めた。