Episode:15
結局訓練は、あたしたちのチームが守備側の拠点へ突入して終了した。
とてもスムーズで、最短記録だったらしいから、教官も文句はつけられないだろう。
終了のホイッスルが鳴り、自主解散になる。
「ではこれで――おや、下級生にはなにか伝達事項でもあるようですね」
「あ、俺行ってくるわ」
先輩の言葉に、イマドが動いた。
二人だけになる。
「そういえばあなたに、お礼を言わなくてはなりませんね。おかげで今日の課題は、ほぼパーフェクトでしたから。
――さすがに、戦場育ちというだけのことはあります」
「え?」
一瞬耳を疑った。
あたしが戦場で育ったのを知ってるなんて、この先輩いったい……?
けど、次の言葉はもっと恐ろしいものだった。
「さすがは死神たるグレイス姓を、名乗るだけのことはありますね。
いえ……ルーフェイア=グレイス=シュマー、とお呼びした方が正しいですか?」
この一言に、あたしは凍り付く。
本来誰も知るはずのない、「シュマー」の姓。これを学院内で知っているのは、学園長とロア先輩、それにイマドだけのはず。
そしてそれ以上に、「グレイス」に込められた意味。これは学院では、あたし以外誰も知らない。
「……どうして、それを……?」
ようやく出てきた問いに対して、タシュア先輩は冷たい笑みを浮かべた。
抜き身のあたしに対して、タシュア先輩は剣に手さえかけていない。まるで動揺するあたしを、嘲笑するかのようだ。
恐怖。
普段は心の奥底へ抑えつけているはずのそれが、あたしの中に湧き上がってくる。
――かなわない。
この先輩には、あらゆる意味で今のあたしでは、とても太刀打ち出来ない。
太刀を握る手に汗がにじんだ。
空気が張りつめる。
けど、その緊張が破れることはなかった。
「おい、ルーフェイア、俺らは集合だってさ」
様子を見に行ってたイマドが、あたしを呼びに来る。
そしてそれが合図だったかのように、すっと先輩は動いた。
「では、またいずれ。
――そうそう、背中には気をつけたほうがいいですよ?」
それだけ言うと、何事もなかったかのように静かに、あたしのそばを通りすぎる。
足音どころか気配さえない。
でも。
(これ……?)