Episode:14
「てめぇっ!! ぶった切ってやる!!」
一気に階下へ飛び降りてくる。
でもタシュア先輩は、冷静なまま。ちょっと練習試合でもするような調子で、得物の両手剣――光をまったく反射しない、漆黒の刀身をしている――をすっと持ち上げただけだ。
そしてあたしたちの方に視線を投げた。
もちろん意味なんて、聞かなくても分かる。
あたしとイマドは一瞬互いに視線を合わせると、守備側の死角になる位置から、階段の下へと動いた。
一方でタシュア先輩は、ここから離れる方向へ、上手く相手の先輩を誘導していく。
難関はこの階段。
「先に俺が」
短く言って出たイマドを、とっさに防御魔法で援護する。けど何か魔法でも使ったのか、こんな狭い場所で彼の姿を見失った。
敵側もそれは同じだったみたいで、大きな隙が出来る。
これを逃す馬鹿はいない。あたしは一気に階段を駆け上がった。
向こうが我に返って武器を構えたときには、あたしはもう肉薄していた。
一閃。
強烈な峰打ちを食らって、ひとり倒れる。けどそれは最後まで見ずに、あたしは身体を入れ替えた。
後ろを取ったつもりでいたもう一人の先輩の長剣が、空を切る。
――あたしの後ろを取るなら、せめて気配くらいは消さないと。
そして太刀をもう一度振るおうとした時、相手の動きが止まった。
倒れた後ろには、イマドの姿。
「すごいこと……するね」
まさか後ろから襲うとは、思わなかった。
「訓練だからって、気ぃ抜いてるヤツが悪いんじゃないか?」
平然と言い放つ。
――イマドって思ってたより、凄い性格かも。
でもとりあえずこれで、場所の確保はできた。
あとはタシュア先輩が戻ってくるのを待つだけだけれど、いったいいつ頃……。
「綺麗に片付きましたね」
「――っ!!」
真後ろから先輩の声がして、あたしは心臓が止まるほど驚いた。
「おや、どうしましたか?」
また、タシュア先輩の瞳に光が閃く。まるで猫が、つかまえた鼠をおもちゃにするような……。
ぞっとする。
あたしだって戦場育ちだ。後ろを取られるのがどのくらい危険かは、骨身に染みて知っている。
だいいちそういう環境で育ったから、あたしの後ろをとるのは傭兵の両親にだって出来ない。
――それなのに、この先輩は。
もしこの先輩を敵にしたら、あたしは確実に死ぬだろう。
寒気がした。