Episode:12
よく分からないけれどこの先輩、足を引っ張るようなことをしたら、あっさり見捨てられそうな気がする。
そんな無様なマネだけはしたくなかった。
たぶん生まれて初めて、緊張しながら持ち場につく。
深呼吸して頭の中を空にする。
5秒前……4……3……2……1……。
開始の合図が、辺りに響く。
直後、いっしょに待機していた一チームがいきなり突っ込んだ。
「何やってんだ、あいつら」
あんまりいろいろ気にしないイマドも、さすがにそんなことを言う。
あたしも同感だった。何が待ちうけてるのかわからないのに、勢いに任せて突っ込むなんて、無謀もいいとこだ。戦場でそんなことをしたら、命が幾つあったって足りない。
案の定仕掛けてあったトラップが発動して、光石――魔石に光の魔法を込めたもの――が発動した。ほんとうなら殺傷力のある爆薬や石が仕掛けられているところだけど、まさか訓練でそれは出来ないから、たいていこの石が代わりだ。
ともかく、これで一チーム脱落。
「まったく。これだから無能な指揮官は困りますね」
相変わらず冷たい声で、タシュア先輩が言う。
「ですが、無能な味方は敵より怖いと言いますし。丁度よかったのかもしれません。
さて、行きましょうか」
先輩、厳しい。
「あ、俺行きます」
なんだかやけに気楽な調子で、イマドが建物の入り口へと近づいた。
と、ふっと立ち止まる。
「こんなつまんないもん、仕掛けるなっての」
妙に憤慨したような調子で言うと彼、ひょいとトラップを解除した。
――意外。
しかもついでに、解除して手に入れた光石を、きっちり中へ投げ込んでいる。
閃光。
「ふむ。意外にやりますね?」
あくまでも冷静に、先輩は評した。でも確かにこれなら、斥候はイマドに任せた方がいいかもしれない。
向こうでイマドが手を振った。入り口までは安全だ、ということらしい。
「行きますよ」
「あ、はい」
慌てて先輩の後ろに続く。
「様子はどうですか?」
「すぐ中にいたチームはリタイアです。ただ、それ以上奥まではわかりません」
ぴったりと壁に張り付いて、中の様子をうかがう。
「――平気よ。気配がするのは、上の階だから」
気がつくとそう、あたしは口にしていた。
また、先輩の瞳に一瞬、不思議な光が浮かぶ
なぜかぞっとした。
すべてを、見透かされているような気がする……。