Episode:10
「ロア先輩♪」
急いで駆け寄った。先輩と一緒の班なら、何かとやり易くていい。
「よろしく、お願いします」
「それがさ、ルーフェイア……」
けど先輩、なぜか困りきったような顔をする。
「あの、先輩?」
「あのね、キミの相手……。
――あれ」
先輩が向こうを指差した。
そして指差された人物が、振り向く。
「げ、マジかよ」
イマドのひとことが、すべてを物語っていた。自分が青ざめるのがわかる。
編んだ銀髪。眼鏡の奥の紅い瞳。
――どうしよう。
あたし何日か前、この先輩に怒られたばかりだ。
「タシュア=リュウローンです。よろしくお願いします」
タシュア先輩は、この間のことなど忘れているかのように挨拶をしてくる。
もしかしたら本当に気にしていないのかもしれないけれど、その冷たい表情からは、何も読み取れなかった。
「あ……は、はい。こ……こちらこそ、よろしくお願いします……」
声が震えないようにするだけで精一杯。
けれこの先輩は、何事もなかったふうだ。
「ルーフェイア=グレイスとイマド=ザニエスですね? 六年生ですか」
「は、はい。人数が足りないとのことで、急遽……編入に、なりました」
タシュア先輩が、納得したような顔をする。
――あたしが内心震え上がってること、気づいてるんだろうか?
たぶん気づいてるだろう、根拠はないけどそう思う。
「まったく、学院もこんな形で数合わせをするくらいしか、能がないのですかね」
このあいだのときと同じように、痛烈な言葉が飛ぶ。
「まぁ、ここで言っても仕方ありませんか。
とりあえず訓練の開始は……24分後ですね。それまでに、大まかな状況を説明しておきましょうか?」
なにがあっても変わりそうのない、冷然とした態度。
先輩が見取り図を広げた。
「いいですか? これが突入する建物の簡単な見取り図です。あとは入ってから、逐次確認して行くしかありませんね。
この建物の突入口は、だいたいこの三ヶ所。うち私たちが使うのは、ここです」
「あれ? 俺ら見張りじゃないんです?」
イマドが平然と、先輩の説明に口を挟む。こういうところは、彼はすごかった。
「そのほうがよければ、そうしますが? 教官からの指示はありませんからね。何もしなくても、点数だけはもらえるでしょうし」
「え……」
絶句する。
もしかしてこの先輩、教官からも疎まれてる……んだろうか?