プロローグ 「昔話」
むかし、むかしのことでした。
この世界は、唐突に誕生しました。
それは、星の爆発で作られたとも、神様が気まぐれで作ったとも言われていますが、真相は誰にもわかりません。
かくして、世界は生まれました。
世界には、最初は知性を持たない動物と植物、それに空気や魔素といったものしかありませんでしたが、何十年、何百年と経つにつれ、知性を持つ生物が生まれました。
人間、竜人、魔人、魚人、機人、樹人……。どれも同じ、人と呼ばれる存在です。
これらの種族は互いに協力し合い、より過ごしやすい世界を生み出そうと、毎日励んでいました。
ある日の昼のことでした。
太陽が出ているのに、雲一つない青空なのに、世界が急に暗くなりました。冬の季節はまだまだ先なのに、生物が暮らすには不可能な程の寒さが、世界に襲い掛かりました。
人々が怯えていると、空に暗い暗い、真っ黒で大きな太陽が現れ、人々に言いました。
「我の名は、世界の災厄。この美しい世界は貴様らには勿体無い、よってこれは我が貰う」
人々は納得がいくはずもなく、世界の災厄に抵抗します。剣を振るい、矢を放ち、魔法を紡ぎ、災厄を撃ち滅ぼそうとしました。
しかし、災厄は、光輝く剣を棒切れのようにへし折り、降り注ぐ矢の雨を一息で吹き飛ばし、多種多様な魔法を一口で呑み込みました。
人々の攻撃をあっさり受け切った災厄は、お返しとばかりにその大きな手で人々の住処を薙ぎ払いました。たったそれだけで、人々は死に絶え、土地は荒れ、建物は消し飛びました。ダメ押しと言わんばかりに、災厄は七体の魔獣を産み落としました。
魔獣たちは抵抗する人々を噛み千切り、海を荒らし、生きるために必要なものを奪っていきました。
圧倒的な力を見せつける世界の災厄、そしてその子供である魔獣。
どうしようもない状況に、人々の表情は、絶望に染まっていました。
万策尽きたかと思われた、その時です。
七人の勇者が現れました。
彼らは色とりどりの髪色をしていました。赤、青、黄、緑、紫、白、黒。彼らは一人一人、それぞれ不思議な力、権能を持っていました。
まずは赤髪の人間の少年が、襲い掛かる大きな腕の一撃を、鋼鉄の肉体で難なく受け止めました。
その隙に、青髪の魚人の少女が、海の水を自在に操り、災厄の顔が沈むまで、海水を浴びせました。
世界の災厄は怒り狂い、黄髪の機人の少女に襲い掛かります。少女は、その小さな身体で、見たことも無いような道具を使いこなし、災厄を後退させました。
災厄は傷付いた肉体を魔素を取り込むことによって回復しようとします。そこで現れたのは緑髪の樹人の青年です。
樹人の、緑髪の青年は非力ですが、あらゆるものを吸収する権能を持っています。それを使い、災厄が取り込もうとした魔素を、逆に自分が吸い取ってしまいました。
紫髪の少女は、筆を持って紙に雷という一文字を書いて、災厄に飛ばしました。やがてそれが災厄の肉体に触れると、巨大な雷が落ちました。
白黒の少年少女は、二人で一つの兄妹のような存在です。二人は共に手を合わせ、災厄に深い深い暗闇と、何も感じなくなる虚無の感情を与えました。
ですが、それでも世界の災厄は倒れません。
災厄は、自身の子供達である魔獣を呼び戻し、戦うように命じます。魔獣たちが、七色の勇者に襲い掛かります。勇者たちは魔獣に構わず、みんなで手を取り合いました。すると、彼らの力が一つとなり、やがて虹の輝きを放ちました。
これを受けた世界の災厄と魔獣は、たちまち苦しみ、見る見る小さくなっていきます。その隙をつき、勇者たちは、世界の災厄を結晶に閉じ込めてしまいました。
魔獣たちは数が多かったため、大きな壺に吸い込み、栓をしてしまいました。
かくして、世界は救われました。
しかし、封印した世界の災厄がいつこの封印を破るか、人々は心配で仕方ありません。
そこで、人々は彼らに、これからも、私たちを守ってくれないかと頼みました。勇者たちはこれを快く承諾し、八つあるうちの七つの大陸を、一人一人守ることに決めました。
勇者たちは神様のように崇められ、いつしか七色の神様、色神と呼ばれるようになりました。ですが、世界の災厄を封じ込めた地である八つ目の大陸だけは、どの神にも守られていません。
そこで、色神たちは言いました。
「ならば一年に一度集まり、我らの力でこの封印を更に強固な物にし、絶対に災厄が出て来れないようにしよう」
こうして、八つ目の大陸では、一年に一度、色神が皆集まることになりました。
人々は、この大陸を人と色神との架け橋の大陸、パスレルと名付けました。架け橋の名の通り、この地では全ての種族が、隔たりなく暮らしています。
この世界の災厄以来、この地ではパスレル祭という祭りが行われ、今でも色神が約束を守り、封印をより強固なものにしています。
きっとこれからも、この平和が消えることはないのでしょう。何故なら、この封印が決して破られることはなく、色神たちも、見守ってくださるのですから……