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この世の隙間お埋めします  作者: クルトン一二三
8/9

言葉とメロディ 上

遅くなってすみません。

次の話は、音大生、祖父江そぶえ真由まゆのお話です。

俺は隙占術ばつせんじゅつをできるようになった。

できるようになっただけで、占いの結果が当たるかどうかは別の話であるが・・・

自分の属性を占い、初めて白集玉はくしゅうだま動いた時は、初めて補助なしの自転車に乗れた時のようなかんどうだった。

俺の隙埋師としての技術は大分進んだと思う。

最近では、隙埋術式紙もさらさらと書けるようになった。『継続は力なり』ということは本当のことなんだと理解した。

隙埋術式紙は自分の血を墨に溶いた物を使って描く。そのため、俺の指は絆創膏でいっぱいになった。

俺は祖父から隙占術だけでなく新しいことを教わっている。自分の属性の隙間を作ることだ。

これも、隙埋術式紙を使い、自分の中にあるイメージを隙埋術式紙を介して隙間を具現化させる。

俺は風の属性だから風を作ることができるのだが、俺の今の能力ではかすかに感じ取れる程度の風しか起こすことができない。

それと、最近では有美も隙埋を祖父から習っている。

俺よりも遅く始めたため、まだ隙占術のさわりについて教わっている程度だ。

俺たち兄弟はすっかり寺に染まっていった。


俺は隙占術の練習だけではなくて、空手の練習を続けている。

学校が部活がない分早く帰れるため、その時間を境内で空手にてている。

俺の空手は父が独学作った独自の空手で、言うならば半田流空手というものだ

父も俺も背が低く、父は背の低さは、あらゆる格闘技において極めて不利になると考え、対高身長ように作った空手が半田流空手だ。

半田流空手は四つの基本方がある。その中でも俺は、特高に向いている朱雀すざくの型を主に練習をしていた。

足腰のバネが強い俺にぴったりの型だ。

朱雀の型は体を極端に半身にし、やや前傾姿勢が特徴であり、左手は額の上までガードし、右手はあごの下につける。

ボディのガードは甘いが背の低い人は、ボディの攻撃はあまり必要ないということだ。


ある日のことだ、学校から帰った俺は、朱雀の型からできる技で最も得意な『はやぶさ』を練習していた。

その時、寺に訪問客が来た。

中年の夫妻とその娘の3人だ。その家族は見るからにお金持ちで、ここら辺の田舎にはいないようなパリッとした正装をしていた。

娘は大学生くらいの年齢で、細身で背が高く160cm後半はありそうだった。

整った顔立ちをしていたが、少し釣り目でキレがあり、威圧感のある目をしていた。


「ごめんください。半田 たつみさんはいらっしゃいますか?」

訪問者の奥さんが寺の境内で俺に訪ねてきた。

「はい。ご案内します。」

俺はその一家を祖父の部屋まで案内した。


娘の名前は祖父江そぶえ真由まゆといった。

真由は音大生でフルート奏者と歌手として高い期待をされて、すでに世界から注目されるほど有望な学生だった。

真由は突然歌うことも、フルートを演奏こともできなくなってしまった。

普段の会話はできるのだが、どうしても歌うときは声が出なかったのだ。

フルートも同じく吹くことができなかった。

どうしても原因が分からない家族はたまたま知り合いに、祖父のことを知っている人がいて、その人の紹介で祖父の寺に行きついたとのことだ。


祖父は俺に隙占術で真由の中の隙魔の属性を調べてみなさいと指示した。

俺は自分の力を試せることをうれしかった。

俺は自分の隙占術の準備をした後、たどたどしく、真由を誘導した。

隙占術は雪島楓の時と同じように、真由を布団に寝かせ、以前自分で書いた隙埋術式紙げきまいじゅつしきしを、寝ている真由のわきに広げた。


俺は真由の隣に正座をして座り、いくらか深呼吸をして集中した後、

「始めます」

と断った後、隙占術をはじめた。

俺の左手は、真由の額を押さえ右手は隙埋術式紙にかざしている。

うまくいけば隙埋術式紙の上に乗っている白集玉が動くはずである。


しかし、いくら時間がたとうが一向に白集玉が動かない。

自分の属性を占ったときは1分もしないうちに動いた。しかし、今は10分近くは立っていただろう。

俺は焦った。体の下から頭の先に突き抜ける寒気が襲った。それは、焦りと恥ずかしさと情けなさと真由の家族の視線からくるものであっただろう。

俺は心の中で『動け動け』と精一杯叫んでいた。

それでも白集玉は動かなかった。

大した熱くもない部屋なのに俺は汗まみれだった。

俺の精神は限界が近かった。その時

「なるほどわかりました。どうやら土のようですね。」

と祖父が言った。

隙占術を始めて15分くらい経過したところだった。

俺は黙って、隙占術をやめた。

真由は俺の汗でぬれた額をハンカチで吹いていた。


自信を失った俺は隙占術が終わった後、疲れたという理由で部屋にこもった。

祖父は、俺をフォローするために嘘までついたのだと、隙占術を失敗したことを悔やんだ。

少しでも才能があると思っていい気になっていた自分が恥ずかしかった。

俺は少し涙が出たが、一回拭えばそれ以上は出なかった。

その時、ふすま越しに祖父が俺のことを読んでいた。

祖父は襖を開けた。そこには祖父と真由がいた。

「これから真由君はここで暮らすことになった。

修あいさつしなさい。」

「よろしくお願いします。」

俺は驚いたが、それよりも赤い目を隠すため下を向きながらお辞儀をして挨拶をした。

「私は祖父江真由と申します。これからよろしくお願いします。」

真由はとてもか細く小さな声で言った。


真由の両親は急な真由のホームステイの申し出に困惑し猛烈に反対していたが、祖父の巧みな説得でしぶしぶ認めたとの話だ。

俺と有美は真由のために客間の掃除をした。

掃除が終わりかけると祖父に呼ばれ祖父の部屋に行った。

俺は言われるがまま祖父の部屋に行った。

俺は祖父に言わなければならないことを言った。

「爺ちゃんごめん」

「ん?どうしたんだ」

「白集玉が動かなかった。あの人はどんな土の隙間がいるの?」

祖父は俺の話を聞いて笑って答えた。

「あの子に隙魔なんていないよ。」

俺は一瞬、時が止まったかと思うほど驚いた。

「あの子はストレスで歌うことが嫌になってしまったのだろうね。かわいそうに。」

「でも、それだったら直すことはできないじゃないか。」

「馬鹿者、私の本職は坊さんだぞ。」

祖父は、自信に満ちた顔で言い放った。

俺は祖父の顔を見て笑った。

今回はほのぼのした日常ものを目指しています。


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