先生と失踪した旦那さん 中
前回の続きです。
俺は先生の車に乗って先生の家に向かった。
俺は後ろの席で運転席の先生の真後ろに座った。
祖父から受け取った便箋を読むことにした。
便箋は二つ折りにされおり、表に「先生に見つからないように読みなさい」
と書いあった。
俺は隠れて便箋の中を見た。
『先生には、「旦那さんの手がかりを調べるためという理由で本を貸してくださいと」言いなさい。
できるだけ多くの本を借りてきなさい。
ここからは先生に怪しまれないようににこっそりと調べなさい。
旦那さんの靴があるかを確認しなさい。
さりげなく、間取りを確認し、旦那さんの寝床を聞いてきなさい。
できれば、旦那さんの歯ブラシと枕があるか確認しなさい。』
と書かれていた。
俺は、本や歯ブラシが何のために必要なのか理解に苦しんだが、隙占術に必要なのだろうと納得した。
車内は沈黙に包まれていて、先生は黙々と運転に集中しているようだった。
田舎の道路なので信号で止まることも少なく話し出すきっかけを掴みにくかったが、
俺は車内で用件だけを先生に伝えることにした。
「先生、お祖父さんは先生のよく読む本を貸してほしいみたいです。」
「なぜ、本が必要なのでしょう?」
「お祖父さんの占いに必要なのだと思います。詳しいことはよく分かりません。」
「占いに本が必要なのね。不思議ですね。」
俺はこの時、ある違和感気付いた。先生は、大切な人を探すために占いというオカルトを頼ってきたということだ。
先生はそれくらい余裕がないということだろうか。
本当に気の毒だった。
「祖父の占いは、よく当たるそうです。」
俺は、どうにかしてあげたかったが、祖父頼るしかなかった。
先生の家についた。
先生の家は、間取りで見る限りマンションだと思っていたが、2階建てのアパートだった。
よく考えれば、こんな田舎にマンションなどあるわけない。
先生は家の前まで私を案内し、ドアのかぎを開けた。
「半田君ここでちょっと待ってて、本でいいのよね。」
俺は焦った。当然家に入れてもらえると思っていた。
俺は車の中で、祖父の指令の脳内シミュレーションをしていたのに。
先生は、俺をここで待たせて、本を持ってきて帰らせるようだった。
俺は頭をフル回転させて、中に入れてもらう手段を考えた。
「トイレをお借りできますか?」
これしか浮かばなかった。
「ええ。いいですよ。」
意外にもすんなり貸してくれた。
先生は特に家に入れることに拒否感を持っているわけではないようだった。
家に入った。とてもすっきりしていて、清潔感がある先生らしい家だった。
まず、俺は祖父の指令をこなすため、玄関の靴を確認した。
玄関はすっきりとしていて物いう物もなく、先生の靴だろう女性ものの靴が2足あるだけだった。
旦那さんの靴は見当たらない。玄関には靴箱があったが、さすがにこれは開けられない。
旦那さんの靴は靴箱にあるのだろうと思った。
先生は玄関から廊下の途中まで行き、ドアの前で止まった。
「この奥がトイレね。私は本の準備をしています。」
俺は先生の書いた間取り図を覚えていた。
ドアの向こうに洗面所があり、その奥に風呂、トイレがある。
トイレに行く途中で、洗面所に歯ブラシの確認をした。
洗面所のわきにコップがあり青と赤の歯ブラシがあった。
俺はトイレに入って特に催してもないけど、出すものを出した。
トイレを出た後、俺は洗面所で手を洗いながら、祖父の指令をこなすことを考えていた。
残りの指令は旦那さんの寝床と枕だ。これを調べるためには奥の部屋に入る必要がある。
俺は多少強引でも図々しくいく作戦に出ることにした。
廊下に出ても先生はおらず、奥の部屋の明かりが光っていた。
先生は奥の部屋で本を選んでいるようだった。
俺は先生といいながら奥の部屋に向かった。
奥はリビングになっていて、そこに先生はいた。
リビングは広くテーブル椅子、テレビ、ソファーなど一通りのものがそろっていた。
端のほうに小さめの本棚があって、そこから本を選んでいるようだった。
本棚にある本はすべて文庫本の小説で、小説はバラバラでシェイクスピアから最近のテレビラマになった原作までいろいろだった。
「どれがいいのかしら」
「お祖父さんはなるべく多く貸してほしいとのことです。」
「じゃあ全部なの?」
「はい。全部あったほうがいいと思います。」
「じゃあ紙袋を持ってくるね。」
先生はリビングとつながっているキッチンのほうに行って、ちょうどいい紙袋を探しに行った。
先生の家の間取りはいわゆる1LDKでリビングから1つ部屋がある。
俺は最後のタイミングだと思った。
「先生、この部屋は先生の部屋ですか?」
「ええ、そうよ」
「では旦那さんの部屋はどこなんですか?」
「このリビングが部屋のようなものね。」
「じゃあ、このリビングで寝るのですか?」
「そうね。そこのソファーを利用しているんじゃない?」
不思議なことに疑問形だった。俺は質問をつづけた。
「旦那さんの枕はどれなんですか?」
「そうねぇ。使ってないわね。」
俺は不思議に思いながらも先生から紙袋をもらって本を袋に入れた。
俺は何とか祖父の指令をこなしたことに満足し、先生の家から出ることにした。
先生の駅までの道を聞いて、家に帰った。
家に着くと祖父が首を長くして待っていた。
俺は、とりあえず本を祖父に渡した。
「おお、お疲れ、先生の旦那さんはどこで寝ていたって?」
祖父は本にも目にくれず、質問をしてきた。
「リビングのソファーで寝てるみたいよ。」
「ソファーだと?ソファーは寝るとこじゃないでしょう。」
「でも、割と大きめのソファーだよ。」
祖父はノートを取り出して、先生と面談したの時のメモを見ていた。
「先生の旦那さんは身長170cm後半もある背の高い人だよ。
毎日ソファーで寝ているとは思えない。」
俺は、先生が疑問形で答えたことを思い出した。
確かに、違和感があっておかしい。
俺は他の指令のことも伝いえた。
祖父は、俺の話を聞いた後、少しだけ先生の本を見て話し出した。
「先生の旦那さんは存在しない。
先生は現実と妄想の境界を隙魔によって壊されてしまっているのだ。
だから、旦那さんがいると錯覚しているんだよ。」
俺は、驚愕した。開いた口が塞がらないとはこのことだろう。
祖父は断定口調で話しいるのだから、相当の確信があるのだろう。
半信半疑の中、祖父は続けた。
「確か玄関に旦那さんの靴はなかったのだね。普通靴の一足ぐらいはあってもいいだろう。
先生は旦那さんと二人暮らしだ。靴の置き場に困ることものないのに、いちいち靴箱に入れないのが普通だろう。
歯ブラシが、2本あったかもしれないが、1つの歯ブラシは新品じゃなかったかい?歯ブラシは安く手に入りやすいものだ。
先生が旦那さんのために先生が買ったものかもしれない。
決定的なのが枕だ。仮にソファーで寝ているにしても枕くらいあるものだ。
夜は先生も寝ているので、寝ている間の旦那さんの設定まではされてないようだね。
だから、旦那さんの寝床も枕の設定があいまいなんだよ。」
半信半疑だった俺の疑いはどんどん消えていき祖父を信じるようになった。
「先生は旦那さんがいなくなる前は旦那さんが見えていたの?」
「おそらく、先生が隙魔に憑かれたのは、先生がおかしくなった時でしょう。
先生は隙魔に取りつかれて旦那さんが居なくなったと錯覚し、妄想での旦那さん像を固めていったのだろう。」
俺はいたたまれない気持ちになった。
祖父の言うことが本当ならば先生は独身ということになる。
俺は先生は既婚者であると勝手に思っていた。
先生は清潔感ある見た目で親切で、人格者だ。多くの人から好かれる人だと思う。
先生だって女性だ。結婚願望があったのだろう。
それが、タイミングの問題なのか出会いの問題なのかわからいが、婚期を逃してしまったのだろう。
そうして皮肉な隙魔に取りつかれてしまったのだ。
祖父は話をしてから深く考えていた。
「これは難しい問題だな。隙魔は埋めないほうがいいのかもしれない」
「え?なんで?」
祖父の意外な発言に驚いた。
「先生は、隙間が埋まって先生が現実を直視してしまったら、
先生はショックで自殺してしまうかもしれないよ。」
祖父は悲しい顔をして言った。
先生の本の入った紙袋を持ったまま部屋に入って行った。
うーん、話を分けると書き出しと区切れを付けるのが難しいな。
でも一気に書けないし、難しいな。




