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数日後。私は新たな本を求めて外出していた。あれから未だに夢と妥協について引きずっているが、いつまでもうじうじはしていられない。どこかで顔をあげないと折角の夏休みが勿体ない。
この間スーツ姿の女性と会った公園の近く。今日はこの前よりも一時間程早い時間帯であったが、ばったりと例の女性と再会した。今日はスーツ姿ではなく、水色と白色を基調とした爽やかなワンピース姿だった。
「あー! この間の子! ちょっとちょっと、そこの公園でまたお話しをしよ! 今日は私が飲み物おごるから!」
導かれるまま前と同じベンチに腰掛けた。座った位置まで同じだ。ただ、今日の彼女は以前会った時とは比べ物にならないほど生気が満ちていた。雰囲気が柔らかい。
私は彼女から飲み物を受け取ると、一口だけ飲んだ。中身は前と同じスポーツドリンク。気のせいだと思うが、少し味が違うような気がする。
「この間はごめんね。でも、あの時君と会ってなかったらもっと塞ぎ込んでたかも。君とお話しをしたから心が楽になったんだよ? だからお礼をさせて。本当にありがとう」
彼女は慇懃に頭を下げた。私はすぐに彼女の頭を上げさせた。私は話を聞いただけで、それだけしかできなくて、礼を言われるようなことは何もできていない。
「それでね? 私、決めたの。ちっちゃい頃からやりたかったパティシエを目指すの! 夢は自分のお店を持つこと! そう、決めたの!」
夢を語る彼女は生き生きとしていて、輝いていて。眩しかった。その姿は決して子どもなんかではなかった。
彼女と一通り話し終えて、ケーキを作ったら是非私に食べて欲しいと言ってくれて。そして、私は夢を追いかけはじめた彼女の背中を見送った。
夢。夢は儚いものかもしれないけれど、人を輝かせる。それは花火のようで空高く、瞬間的なものなのかもしれないけれど、人を惹きつける美しさもあって、否定してはいけない宝物。
私はまだ宝物を見つけられていないけれど、いつか見つけたら、それを大事にしたいと強く心に留めた。そこに、大人も子どもも関係ないのだから。
了




