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彼女に問われた問題について考えていると、いつの間にか自室にいた。どうやら深く考えすぎていたようだ。ベッドに腰掛け、先ほどの彼女の言葉を反芻する。
「大人って、なんだろうね?」
……当然、私は彼女の問いに答えられなかった。彼女も答えが欲しくて問いかけたのではなかったのか、深く私に追及しなかった。
大人。その定義。年齢、だろうか。身体的な年齢で言えば二十歳。成人式が行われる年齢だ。人として成るのだから大人だろう。
しかし、精神年齢という言葉があるように身体的には大人でも精神的に大人になっていないというケースも存在する。頭の中がぐちゃぐちゃになる。
私はスーパーで買ってきたモンブランのケーキを食べる気分ではなく、この疑問を解決するために友人に電話することにした。相手は例の、エアコンが嫌いな彼女だ。ある意味安否を確認する電話でもあるかもしれない。
「やー。どうしたの? 欲しい服でもあった?」
私は今日起きた出来事を順に説明し、大人とはなんなのか、彼女に問いかけた。少し間があって、彼女は喋りはじめた。
「んー。あたしも大人なんてわからないよ。君と同じ年齢だからね。でも、お父さんからこう聞いたことあるな。大人とは、ある程度のところで、妥協すること」
ある程度のところで妥協すること。それを聞いて私は言葉が出なくなってしまった。だって、それは。
「まぁ、つまり、『何か』を諦めて、現状をあるラインで受け止めるってことだね。夢は夢のまま、現実を見て、受け入れて、それに従う。まー、夢のない話だこと」
頭がぼんやりとしてきた。これは、あくまで、友人の父親の持論だ。でも、それは的を射ているように思えてきて。
「ま、深く考えるなって。あ、でも、あたしも一つ大人になったことがあるわ。文明の利器って最高だね。エアコンを認めないあたしの子ども心はなくなってまた一つ大人になったわ」
妥協。彼女は妥協したのだ。エアコンを使わず夏を乗り切るという夢を捨て、エアコンを頼って夏を乗り切るという現実を受け入れた。
これは些細な案件だろう。もっと大きくすれば……例えば職業。夢は少女漫画家になること。でも、漫画家なんてほんの一握りしか成功せず、現実はあまりにも厳しいだろう。では、夢を叶えられなかった人はどうするのだろうか? 夢を捨て、現実を生きる。これも、妥協だ。
私は電話を終えるとたまらずベッドに倒れこんだ。とてもじゃないが体を起こせない。湧き上がる不安に押しつぶされそうで、体を丸めて自分の体を抱きしめる。
夢。夢ってなんだろう。ふと、私の夢は何か、自身に問いかける。でも、何時まで経っても返事はなく、そこではじめて私は夢がないことに気付いた。気付いてしまった。妥協も何もない。ただただ無為に今日まで過ごしていただけだった。
そんな自分から逃げるように、私はそのまま眠った。




