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 私はスーツの女性を日陰になっているベンチに座らせて、公園内にある自販機でスポーツドリンクを二つ購入した。私自身もこの炎天下で水分を欲している。こまめな水分補給こそ熱中症対策になるとどこかで聞き覚えがある。友人の話だったか、テレビの情報だったか。細かい部分は記憶にない。


 ベンチに座って項垂れていた彼女にペットボトルを渡すと、すぐにふたを開封し飲みはじめた。余程喉が渇いていたのか、みるみるうちに中身がなくなっていく。それを横目に私もベンチに腰掛け、飲み物を煽った。


「ふぅ……ごめんね? 飲み物までもらっちゃって。……今日の暑さで参っちゃってさ……」


 水分補給をして少し落ち着いたのか、彼女は顔をあげた。大学を卒業して働きはじめた方だろうか。スーツを着ていなければ、大学生にも見える。


 公園の中央にそびえている時計を確認すると三時少し前。暑さのピークは越えているが、朝から太陽光によって温められた熱が公園内に蔓延し、汗が止まらない程に熱い。私もこの暑さに参っているようだ。


「……君、学生だよね? てことは夏休みかー。いいなぁ、夏休み。まぁ、私も今日からずっと夏休みだけどね! あはは!」


 憑き物が落ちたような、でもどこかにまだ不安が残っている複雑な笑みで彼女は自分自身を自嘲した。私は気になった。彼女の言葉の意味を。でも、赤の他人が深く訊いていいのか分からず、結局、相槌を打つだけに留まる。


「……実はね、私、今の仕事辞めたの。これで晴れて無職! だからずっと夏休み! やったね! ブイ!」


 それは空元気だと、今日、彼女に初めて会った私でも汲み取れた。私が彼女に質問しなくても理由を話してくれたのは、今の心境を誰でもいいから聞いて欲しかったからなのかもしれない。自分の中だけで消化できなかったのかもしれない。


 私はアルバイトすらしたことのない子どもだ。だから、彼女の苦しみを真の意味で理解することもできないし、気の利いた言葉もでない。ただ茫然と彼女の顔だけ見ていた。


「あはは、ごめんね、いきなり愚痴をこぼしちゃって。私……情けないなぁ……」


 そんなことはないと彼女の言葉を否定するが、ひどく薄っぺらいものだと言葉を放ってから後悔した。私が彼女に贈れる言葉なんて一つもない。その事実が居心地を悪くさせた。


「私はさ、もう大学は卒業してるけど……どこか大人になりきれてない部分があって……いざ社会に出てみたらこのザマだった。理想と現実が違うってだけで、逃げ出しちゃったんだ」


 彼女はそこで一旦言葉を区切り、そして、ねぇ、と私にぶつけて。


「大人って、なんだろうね?」

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