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それは、とある夏の日だった。
夏休み。私も漏れなく学生達の天国を謳歌していた。夏休みは最高だ。宿題の多さに目を瞑れば、大義名分を必要とせず一日中怠けることが可能だからだ。空調の効いた部屋でアイスを食べ、好きな本を延々と読んではベッドでゴロゴロと転がる。ああ、なんて素晴らしい毎日だろう。
ここまで長い休暇は学生だけの特権らしい。そう考えると、学生である今は人生で一番楽なのかもしれない。いや、休暇の数だけで苦楽を決めつけるのは早計か。私はアルバイトの経験もないので、働く、ということの意味を知らない。となると判断材料は休暇の数しかなく、私が人生を語るのは傲慢もいいところだ。
考えても埒があかないテーマを振り切るようにベッドから立ち上がり、水分を求めて一階に降りた。
私の部屋は二階にあり、夏場はエアコンの設定温度を低くしないと効かない程に暑くなる。例えば友人と遊んでから自分の部屋に戻ると、それはそれはサウナのように暑い。私は自室でサウナを敢行する度量はないので、すぐにエアコンに頼る。
一階のリビングで麦茶を一杯飲むと、テレビを観て寛いでいた母がナイスタイミングと言わんばかりに言葉で私の足を縫い止めた。
「丁度よかった。午前中の買い物でお醤油買い忘れちゃったから、買ってきて。ついでに好きなデザート買ってきていいから」
そう言うなり私に千円札を手渡した。デザートは確かに魅力的だ。だけど外出する準備や外の熱波のことを考えると足取りは重い。
一日ぐらい醤油がなくてもなんとかなるのではと母にぶつけようとして、止めた。もしかしたら、今日朝からずっと引きこもっている私に外出させる方便なのかもしれない。夏休みに入ってからずっと引きこもっている訳ではないが、一日中ゴロゴロしているのは確かに体に悪いかもしれない。
そう結論付けた私は母に頷いて、外出の準備をはじめた。




