戦国哀歌95
耳を削ぎ落とせと、影が微笑みながら言った。
深夜。
道場が夜襲され焼き打ちにされている。
影の軍勢が奇襲をかけたのだ。
黒い甲冑を纏っている影。
真っ黒に塗り潰されているだけで紋章が象られていない幟。
砦戦で疲弊していた道場は大挙して押し寄せた軍勢に一たまりもなかった。
円陣の内側。人肉が焼け焦げる臭いを愉しむように影がどす黒く微笑む。
僧兵長が捕らえられ、拷問がなされている。
黒い甲冑を纏った二人の足軽が代わる代わる僧兵長に暴行を加えて行く。
そして影が言う。
「お主、わしの顔を覚えているか?」
息も絶え絶えに僧兵長が答える。
「覚えて、いない」
影が残忍な笑みを頬に湛え足軽に命じた。
「耳を削ぎ落とせ」
命令に従い一人の足軽が短刀を引き抜き、僧兵長の左耳を片手で引っ張りながら短刀を突き立て切り落とした。
激痛に絶叫する僧兵長に影が再度尋問する。
「どうだ、思い出したか?」
僧兵長が叫ぶ。
「思い出せない。もう殺せ!」
影がうそぶく。
「駄目だ。思い出すまでは殺さない。次は右耳を切り落とせ」
命令に従い足軽が僧兵長の右耳に短刀を突き立てた刹那、僧兵長が渾身の力で自分の舌を噛み切り、もんどり打って倒れ込み、白目を剥いて痙攣しながら絶命した。
それを目の当たりにして、影が冷酷に微笑んだまま足軽に命じた。
「右耳を削ぎ、鼻を削いで、野ざらしにしろ」




