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戦国哀歌92
才蔵を欺いた男を信長が影と呼び、対面した。
西洋風の鎧が鎮座している居間。
それを愛でるように脇に座り、信長が平伏している武将に対面する。
「影よ、どうじゃ、こたびの決戦に赴く所存はあるのか?」
才蔵を欺いた男が礼装をして、顔を上げ答えた。
「いえ、上様。拙者は引き続き、間者を為し、毒矢を用いて一向宗の者共を出来る限り生きる屍にして行きたい所存で御座りまする」
信長が微笑み言った。
「どうじゃ影よ。一向宗の者共は生きながら死ぬ恐ろしさ、身に染みている所存か?」
再度平伏し影が答える。
「御意」
信長がほくそ笑み言った。
「きゃつらの、毒消しを求めて乱心、散り散りになって右往左往しておる姿が眼に浮かぶわ」
影が再び言う。
「御意」
信長が眼を細めて言う。
「きゃつらの極楽浄土とは権勢塗れの愚者に依る民の支配に過ぎない。その支配欲が極楽浄土ならば、正に生きる地獄の現世そのままの地獄と言って良いじゃろう。その地獄の責め苦を毒できゃつらの極楽浄土にしらしめ、思い知らせてくれようぞ」




