戦国哀歌9
信長めが仕掛けて来る前に仕掛けるのみじゃと、雑賀衆の僧兵頭は言った。
才蔵が火繩銃を実際に手に取り、その重厚な感触に眼を見張る。
切れ長の鋭い目付きをした雑賀衆の僧兵頭が言う。
「弾詰め、火繩から着火、発砲の手順に慣れてしまえば、速射も出来るようになるわけじゃ」
才蔵が疑問符を投げ掛ける。
「しかし慣れるまでは膨大なる時間がかかるのでは?」
僧兵頭が、鷹揚に微笑んでから言った。
「実戦経験あるのみじゃて。最初は勿論熟練した者と一緒に訓練を重ねて行くわけじゃが、我が雑賀衆の者達は手だれが多く、その分熟練は早いわけじゃ。然るに、我々雑賀衆の鉄砲衆に狙撃をさせたら、天下広しと言えども、右に出る者はおらぬ。だからこそ信長めはじだんだ踏み、悔しがっておるわけじゃ」
居間を明るくしている燈籠に物憂い顔付きをして流し眼をくれ、僧兵頭が続ける。
「じゃが信長めは魔王じゃ。きゃつの気性から言って、このまま手をこまねいているわけはなかろう」
才蔵が尋ねる。
「信長めが決戦を仕掛けて来ると?」
僧兵頭が恭しく相槌を打ち、肯定した。
「必ずな。総本山に揺さぶりを掛けるためにも、我が雑賀の鉄砲衆は眼の上の瘤、邪魔でしかないわけじゃ」
そう言って、言葉を呑むように息をつき、眼を細めてから、僧兵頭が言った。
「信長めが仕掛けて来る前に仕掛けるのみじゃて」