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戦国哀歌85
才蔵を背後から羽交い締めにして捕らえるから、ここで待っていて欲しいと、僧兵は綾に言った。
才蔵の泣き声を頼りに小屋を目敏く見付け出した僧兵が、唇に人差し指を縦に充てがってから、綾に向かって小声で言った。
「あの泣きっぷりからして多分才蔵は自害をしようとしていると思うんじゃ。じゃから下手に声を掛けると、喉を突いて果ててしまう可能性があるから、そっと忍び足で入って行って羽交い締めにして捕らえようと思うから、綾はここで待っていてくれ」
綾が心配そうに小声で尋ね返す。
「才蔵さん気取るのではないのか?」
ゆるりとした感じで首を振り、僧兵が答える。
「いや大丈夫じゃ。あの様子では多分才蔵は取り乱し我を失っているから、物音にも気付かない筈じゃて」
綾が相槌を打ち言った。
「分かった。私はここで待っておればいいのじゃな?」
僧兵がもう一度唇に人差し指を充てがい、一つ頷いてから、おもむろに踵を返し小屋に向かって忍び足で歩き出した。




