戦国哀歌80
土砂崩れを目の当たりにして、僧兵が固唾を飲んだ。
岩陰。
震えが止まらない綾の背中を摩りながら、僧兵が言う。
「雨が小降りになって来たし、探索の再開をするが、歩けるか綾?」
唇を震わせながら綾が答える。
「大丈夫じゃ。才蔵さんを助けないと…」
僧兵がぞうのうから干し芋を取り出し、綾に差し出してから言った。
「食え、綾。食わなければもたない」
綾が言い付けに従い相槌を打ってから、干し芋を貪るように食し、震える声で言った。
「才蔵さんは生きておるのじゃろうか?」
僧兵が確信を込めて頷き言った。
「大丈夫じゃ。才蔵は必ずや生きている。その気配がわしには分かるのじゃ。一刻も早く助け出し、連れて帰ろう」
綾が己を奮い起こすように力強く相槌を打ち、言った。
「分かった。私もその言葉を信じ、この命投げ打ってでも才蔵さんを助け出す」
二人が岩陰から這い出し、雨でぬかるんだ急勾配に張り付き再び登り出した。
泥だらけになりながら先導している僧兵が、大声を張り上げる。
「左手は土砂が崩れそうな案配じゃ。右手を迂回するぞ!」
顔を手の甲で拭い綾が答える。
「相、分かった!」
僧兵が手掛かりと足場を細心の注意を払い慎重に固めつつ移動し、右手に進路を取って行く。
その後を綾が歯を食いしばり、渾身の力を振り絞りつつ、ついて行く。
二人が急勾配から脱出して、獣道に足を踏み入れた直後、腹に響く山鳴りが轟き、土砂崩れが起きて、人の身の丈にも届く大岩が崖をえぐる土砂に巻き込まれながら、何本もの巨木をへし折り、容易く薙ぎ倒し、重々しく流れ落ちて行った。
その様を目の当たりにして、固唾を飲み、泥のついた額を震える手の甲で拭ってから、僧兵が綾を促した。
「先を急ごう」




