戦国哀歌79
毒矢で、あんたの仲間を生きる屍にしたのは俺なのさと、男は言った。
雨が小降りになって来たところで男が言った。
「もう山狩りは終了したようじゃし、俺は退散するが、その前にあんたに毒消しの手掛かりを教えてやるからよく聞いてくれ」
薄暗い小屋の中、才蔵が促され男を直視する。
男がその視線をかい潜るようにどす黒い笑みを湛えながら言った。
「毒矢で、あんたの仲間を生きる屍にしたのは俺なのさ」
才蔵が驚き大きく眼を見開いて、言った。
「もう一度言ってみろ?」
男が恭しく相槌を打ち言った。
「毒を調合したのも俺。そしてその毒を用いて、あんたの仲間を生きる屍にした張本人も俺なのさ。どうだ、あんた俺を殺すか?」
才蔵が眼を見開いたまま一言言う。
「そんな言動、信じられぬ」
男が鼻で笑い言った。
「腑抜けめ。信じる信じないはあんたの自由。俺はあんたの寝首なんかいつでもかけたが、その気持ちをも裏切って、ここまで愉しませて貰ったわけじゃ。じゃが俺はもう行く。俺は出て行く時、あんたに背中を見せるが、どうやら俺の読み通り、あんたは俺を刺し殺す事も出来ない腑抜けらしい。情けない奴め。ではさらばじゃ」
男が立ち上がり、才蔵に背中を見せて、引き戸を開け、一声甲高く笑い小屋を後にした。
その一部始終を放心したような目付きで見たまま、才蔵は男の言葉通り身じろぎ一つ出来なかった。




