戦国哀歌73
それを言ってしまったら裏切りの信条に反し面白くないではないかと、男は言った。
才蔵が尋ねる。
「ならばわしがお主を助け、お主がわしにくれる善意としての裏切りの手掛かりは、善意なるものじゃと言う事か?」
男が不敵に微笑み答える。
「いや違うな。善意と悪意のせめぎ合いの中で揺れる振り子のようなものじゃて。その振り子の揺れ具合を見定めて、お主がそれを悪意と受け取るか善意と受け取るかは、あんたの心次第と言う事になるわけじゃ」
才蔵が首を振り訝る。
「意味が分からない」
腫れている頬を摩り微笑みを絶やさず男が言った。
「だから、常識的な意味で、その振り子に悪意が含まれていても、あんたの心がその悪意を自虐的に善意と受け止めれば善意じゃろう?」
才蔵が息をつき言った。
「わしの受け止め方次第と言う事じゃな?」
男が面白がるように一笑してから言った。
「その振り子が例えば悪意に満ちていても、あんたの心の状態に依ってはそれが仏の尊顔に見えるかもしれないしのう。逆に信長の顔に見えて、あんたは逆上するかもしれないわけじゃ。尤も俺には大体どのような反応があるか概ねの予測はつくからな。だから面白いわけじゃ」
才蔵が突っ込む。
「わしはどのように反応するんじゃ?」
男が笑い、あしらうように言った。
「それを言ってしまったら裏切りの心情が台なしになり、面白くないわけじゃろう、違うのか?」




