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戦国哀歌72

裏切り願望が悪意と善意を孕んで、生死の内側で揺れながら常にせめぎ合い、そこに絶対性は無いと、男は言った。

男が続ける。





「じゃがのう。俺は死にたかったのかもしれないのじゃ」





才蔵が尋ねる。





「それはどういう意味じゃ?」





男が謎めいた笑みを浮かべ言った。




「俺は自分の生を裏切る為に他人から殺されたいと言う願望がそこはかとなくあるんじゃ。それは自害するのも同じで、例えばこの言葉を喋っている、この舌の動きを止めてやりたいと言う願望なのだが、舌を噛み切れば痛いしのう。だから生を裏切る死からの願望は、その痛みの予測に依って中断し、逆転して生が死を裏切りつつ、俺はその中間地点で揺れながら生きているのじゃ。分かるかの?」




才蔵が否定する。




「分からない。もう少し分かり易く言ってくれないか?」





男が答える。





「つまり生と死が双方共にお互いを裏切りたいと言う願望があるのじゃが、そのせめぎ合いの中で、死が生を舌噛んで自害させようとすれば痛いので自害は出来ず。逆に痛烈にある死の願望を、人が人を裏切るところを見ていたいと言う生存願望が妨げるからこそ、俺は生きていられるわけじゃ。だから常に生きたい、常に死にたいの中間地点で俺の裏切り願望は揺れており、その裏切り願望は、お主が助けてくれた事を感謝しているが、逆に恨んでもいて、複雑怪奇に機能しているわけじゃ」




才蔵が注釈を入れる。





「つまりお主は、その裏切り願望からわしに毒消しの手掛かりを教えたいと言う願望と、教えたくない願望があり、それがせめぎ合っていると言いたいのじゃな?」





男が相槌を打ち、言った。





「その通りじゃ。だから俺はあんたに助けられて、嬉しくもあり、恨みがましくもあるわけじゃ。だから俺があんたに贈る裏切りの手掛かりは、そんな相反する裏切りの欲求を二つ内在していて、常に裏切りのせめぎ合いの中にある、善意と悪意の賜物と言う事なんじゃ」

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