6/250
戦国哀歌6
負けるが勝ちじゃと、長老は言った。
綾が相槌を打ち言う。
「長老、戦禍は長く、肉親を失い、皆疲れ切っている。この戦い我が同門に勝ち目はあるのか?」
板の間に胡座をかき、くつろぐように座している長老が静かな口調で答える。
「負けるが、勝ちじゃろうて」
訝る顔付きを顕にして綾が問い掛ける。
「それは我が同門が負けるという事か?」
軽く捌くように間を置かず長老が答える。
「わしはこの戦、負けるが勝ちじゃと思っている。負けるが勝ちの意味合いは字義の通り、負けるが勝ちじゃろうて」
息をつき、幸助が尋ねる。
「それは大勢の犠牲者を出す事が勝ちに繋がるという所存ですか?」
謎めいた笑みを作り、長老が言い放つ。
「老いぼれのわしに言える事は負けるが勝ちの一言じゃて。後は分からん」
綾が強く迫る。
「長老、惚けないで、はっきりと言ってくれ。この戦、勝つのか負けるのかどちらなのじゃ?!」
動じる事もなく、長老が同じ言動を繰り返した。
「負けるが勝ちじゃろうて。それが御仏の御心じゃ」