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戦国哀歌56
百姓一揆なのだし、変装するならば野良着が良いのではと、才蔵が提案した。
才蔵が尋ねる。
「どこの門徒かはわしと同門だと言えば良いが、仮に間者の詮議に発展した場合、細かい出生年月日、出生地等を尋ね出されたら何と答えるんじゃ?」
男が顔をしかめ答える。
「それは困るのう。細かく詮議されたら、俺が非人だと言うのが発覚してしまうしの。でも今は戦乱の世じゃし、そのどさくさに紛れて、どうじゃ、あんたと同郷で幼なじみだという欺きは?」
才蔵が腕を組み答える。
「それで通用するかの?」
男が断言する。
「通用する。今は一向宗も猫の手も借りたい程の有様だと言ったのはあんたじゃないか。細かく詮索して、せっかくの戦力を逃がす手もあるまい」
才蔵が不服そうに言う。
「それはそうじゃが、やはり変装は不自然だと思う。この一揆は本来百姓一揆なのだし、逆に言えば野良着等が相応しいと思うのじゃがのう」
男が手拍子を添え答えた。
「うん、それが良いの。野良着の調達は安く済むし、あんたと同郷で、幼なじみという欺きも自然な形になるしのう。そうしよう」




